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翌日。
私はロフトベッドの上で、にゃん三郎とピンクのねこじゃらしのおもちゃで遊びながら、今日も『愚痴聞き屋』の電話待ちをしていた。
にゃん三郎はこのおもちゃがお気に入りで、なかなか私を寄せ付けようとしなかった頃でも、ねこじゃらしには思わずといった感じで反応していたものだ。
ねこじゃらしを追いかけてくるくる回ったり、ジャンプしたり、にゃん三郎は楽しそうにしている。
私だって誰かに一緒に遊んでもらいたいけど、友達はみんな仕事や恋が忙しくて、なかなか予定が合わない。
もしいい人がいたら、みんなみたいに恋愛くらいしてみたいとは思うものの、職場の男の人は既婚者だったり、タイプじゃなかったりで、とても恋愛には発展しそうになかった。
かと言って、私でも手が届きそうなそこそこ素敵な男性が職場にいたとしても、恋愛関係になれたりはしないだろう。
私はこれと言った特技も趣味も魅力もない、ごくごく平凡なOLだ。
恋愛も結婚もしなくて困るものじゃないけど、ずっと独身で、男の人と一度も付き合わないままおばあちゃんになるのは、ちょっとつまらない気もした。
仕事に行って、帰って来て、にゃん三郎の世話をするだけの単調な毎日がこの先ずっと続くのは、違う気がする。
ちょっとわくわくするような、単調な毎日に張り合いが出るような、そんな何かができれば欲しかった。
その何かは恋じゃなくてもいいけど、私には無理なのかも知れない。
私が小さく溜め息を吐いた時、スマートフォンにお客さんが入ったことを知らせる通知が来た。
憂鬱は置いておいて、今はとにかくお小遣い稼ぎをしよう。
にゃん三郎にご飯やおやつをあげるためにも、お金は必要だ。
私はにゃん三郎に「ごめんね」と謝ってから、ねこじゃらしをベッドに置くと、スマートフォンのロックを解除した。
お客さんの名前を確認してみると、『山田太郎』とある。
昨日私にあの謎を話してくれたお客さんだ。早速電話をかけてみると、『山田』さんはすぐに出てくれる。
「ご利用ありがとうございます。『肉球ぷにぷに』と申します」
「昨日はどうも。『山田太郎』です」
聞き覚えのある、年配の落ち着いた男の人の声。
多分五十代から六十代くらいだろう。
いかにもな偽名だけど、ちゃんと人間らしい名前で、名前のセンスにはやっぱり個性が出るんだなと思う。
「『山田』様、お孫さんの作った謎なんですけど、答えがわかったかも知れません」
私は昨日の『ペンタブ』さんの推理を話した。
勿論『ペンタブ』さんから聞いたことは話せないから、自分で気付いたことにしてしまったけど、これはもう仕方がない。
多分この嘘がバレることはないだろうし、とにかく『山田』さんの困りごとが解決するのが第一だろう。
『山田』さんは私の話を聞き終えると、感心したように言った。
「なるほど、トイレか。よく気付いたね」
「ええまあ、昔聞いた話をふと思い出しまして……」
『ペンタブ』さんの話を元にして適当な嘘を吐くと、『山田』さんが言う。
「後で娘夫婦に、もっとよくトイレを探すように言ってみるよ」
「そうして差し上げて下さい。間違っているかも知れませんけど」
「いや、相談してみて良かったよ。ありがとう」
お金をもらっているとは言っても、やっぱりお礼を言われると嬉しい。
『山田』さんもいい人だなと思っていると、『山田』さんは続けた。
「それじゃあ、俺はこれで」
「はい。よろしければ、またのご利用をお待ちしています。失礼します」
私がそう言うと、電話は切れた。




