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私が納得していると、少しして『ペンタブ』さんが言った。
「解けました」
「早いですね。で、どういう意味だったんですか?」
「『私は父親ではない』です」
電話の向こうから聞こえた言葉に、私は耳を疑った。
もしかして聞き間違いだろうかと思いながら、私は『ペンタブ』さんに確認する。
「……あのお客さんのお父さんは、実の父親じゃない。そういうことですか?」
「僕の解読が間違っていなければ、そのようです。そのお客さんが養子なのか、それとも奥さんの不貞が原因でそういうことになったのかまではわかりませんが……」
『ペンタブ』さんは歯切れ悪くそう言った。
『スコット』さんは、きっとお父さんを実の父親と思って生きて来たのだろうし、この事実を知ったらかなりのショックを受けるに違いない。
お父さんと疎遠だったら大して辛くもないだろうけど、認知症のお父さんの様子をかなり詳しく把握していたところからして、親子関係は良好そうだ。
それなのに私が下手に真実を伝えたら、その関係を壊してしまいかねなかった。
かと言って、こんな大事なことを黙っているのもそれはそれで問題があると思うし、こういう時はどうするのが正解なのだろう。
どちらを選んでも正解だとは言えないし、どちらも間違っているのかも知れなかった。
「あの、これって正直にお客さんに言っていいと思います? それとも言わないでおいてあげた方がいいんでしょうか……?」
我ながら無責任だと思いつつも、『ペンタブ』さんに意見を求めると、『ペンタブ』さんは渋い声で「うーん」と唸ってから、歯切れ悪く言った。
「何とも難しいところですが……そのお客さんのお父さんが暗号とはいえ、真実をお客さんに託したことから考えると、きちんと真実をお話しした方がいいのではないでしょうか? どうしても伝えたいことなら、きっとこんな回りくどい方法は取らずに直接伝えるでしょうから、そのお客さんのお父さんにとっては、いつかその人が真実に気付く可能性を残すことが重要で、実際に真実に辿り着けるかどうかは、それ程重要なことではないのかも知れませんが……」
内容が内容だから、わからなければそれでいいということなのだろうけど、そういう中途半端なスタンスだと、どうにも判断に困った。
「お客さんに話すってことは、お客さんのお父さんの気持ちを優先するってことで、お客さんの気持ちを無視することになりませんか? もしかしたらあの人は、お父さんと血が繋がってないことなんて、知りたくないかも知れませんし……」
訊いておいて何だけど、私は敢えてそう言った。
『ペンタブ』さんの考えが間違っているとは思わなかったけど、真実を知った『スコット』さんがどう思うかがやっぱり気になる。
多感な十代の男の子という訳じゃなさそうだから、私が気を揉まなくても『スコット』さんは自分なりに真実を受け入れて、お父さんと上手くやって行くのかも知れないけど。




