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あなたの『謎』、聞きます  作者: 佳景(かけい)
第1話 サンタクロースへの手紙
4/62

―4―

「ありますよ」


 『ペンタブ』さんは、まるで初めから答えを知っていたみたいに、あっさりとそう答えた。


 てっきり「わからない」と言われると思っていたのに、凄く意外な反応で、私はびっくりして尋ねる。


「どこなんですか!?」

「トイレです」


 私は目が点になった。


 トイレと『キジ』がどうやって結び付くのか、全然わからない。


「あの、どうしてトイレだと思ったんですか?」

「山用語で、男性が用を足すことを『キジ撃ち』と言うんです。用を足す時の格好がキジ撃ちに似ているから、そう呼ばれているんだそうですよ」


 私はやっと腑に落ちた。


 初めて聞いたけど、小学生の男の子でも知っていたくらいだし、もしかしたら有名な山用語なのかも知れない。


「物知りなんですね。山登り、よく行かれるんですか?」

「いいえ、僕は根っからのインドア派ですよ。子供の頃、母に教えてもらったんです。山用語では女性が用を足すことを『花摘み』と言うんですが、僕はとある漫画でこの言葉を知って、性別に関わらずトイレに行くことだと勘違いしてしまったんですね。それで、トイレに行く時に『花を摘みに行ってくる』と言ったら、母が笑って本当の意味と、『キジ撃ち』という言葉を教えてくれたんです」


 漫画家をしているという『ペンタブ』さんは、きっと子供の頃から漫画が好きだったのだろうから、納得のエピソードだった。


 私も漫画で漢字を覚えたりしたなあと、子供の頃の自分を思い出していると、『ペンタブ』さんが続ける。


「娘さん夫婦はトイレの中も探したのかも知れませんけど、タンクの中とか便器の後ろとか、あまり見ないような所にあるんじゃないかなと思いますよ」

「あー、確かに子供でもそういう場所になら隠せそうですよね。今度お客さんにそう伝えておきます」


 そうは言ったけど、あのお客さんとまた話せる保証はなかった。


 もしかしたら何か思い付くかも知れなかったし、営業も兼ねて「明日また話そう」と誘っておいたから、向こうからまたコンタクトを取ってくれるかも知れないけど、私からあのお客さんにかけることはできない。


 かけたくても電話番号はわからないようになっているし、電話番号がわかったとしても、下手にかけたらトラブルになるかも知れなかった。


 お客さんからのアクションを待つしかない。

 

 できればちゃんと伝えられたらいいなと思いながら、私は『ペンタブ』さんに問いかける。


「何か、参考になりましたか?」

「はい、次の新作はミステリーにしようと思います」


 だろうな、と私は思った。


 今の話を聞いて、アクション物や恋愛物を書こうと思う人はいないだろう。


 漫画家さんなら、むしろ全然関係ない話から、アクション物や恋愛物を書こうという発想をすべきなのかも知れないけど。


「申し訳ありませんが、今のはここだけの話にしておいて下さいね」

「はい、内緒にしておきます。どうもありがとうございました」


 『ペンタブ』さんの言葉を聞きながら、私はやっぱりいい人なんだなあと思う。


 私は自分が言われたら嬉しいから「店員さんにもお礼を言う派」だけど、一方的に話し終わったら黙って切るようなお客さんもいるし、『ペンタブ』さんみたいな礼儀正しいお客さんは少ない。


「こちらこそ、ありがとうございました。良かったら、またお話しましょうね」


 私はちゃっかり営業をしてから続けた。


「それでは失礼します」

「失礼します」


 電話は切れた。






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