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「僕は別に気にしていませんから、『肉球ぷにぷに』さんもお気になさらないで下さい」
「はい、ありがとうございます」
この人のこと、ちょっと好きかも。
私がそう思っていると、『ペンタブ』さんはふと真面目な声になって言った。
「それはさておき、そろそろ本題に入りましょうか。また謎を聞けたんですよね? 今回の謎は、どのようなものなのでしょう?」
「実は、お父さんが認知症になってしまったお客さんなんですけど、少し前にお父さんからいきなり暗号文みたいなものを渡されたそうなんです。その文章って言うのが『ひたをのれれほあづのなろ』で、そのお客さんは最初、お父さんが認知症のせいで、まともに文章を書けなくなったんだと思ったらしいんですね。でもお父さんは時々物の使い方がわからなくなってしまったり、ご飯を食べたことを忘れたりする程度で、まだそれ程症状が進んでいないみたいなんです。それに、さっきの文章の隣には『日本の素早い茶色の狐はのろまな犬を飛び越えて、平仮名の中に飛び込む』って書いてあったそうなんですよ。ネットで検索してみたら、『素早い茶色の狐はのろまな犬を飛び越える』っていうのは、アルファベットの二十六文字をできるだけ被らないように使って作った文章のことだっていうのはわかったそうなんですけど、それ以上は何を伝えたいのかよくわからないみたいで……『多分、平仮名の文章を読み解くヒントだと思う』って、そうお客さんは言ってました。でもどう読み解けばいいのかわからなくて、お父さんに直接訊いてみたそうなんですけど、『わからなければ、それでいいから』って言われたそうなんです」
「お父さんが自発的に渡したのに、ですか?」
「そうなんですよ」
伝えたいことがあるなら、暗号めいた文章なんて使わずに、そのまま伝えればいいだけの話だろうに、お父さんは何故かそうしないらしい。
どう考えても辻褄が合わないけど、何か敢えてそうしない、できない理由があるのだろう。
私にはさっぱりわからないけど。
「そのお客さんもちょっと変だなって思ったそうなんですけど、結局それ以上は何も答えてくれなかったらしいです」
「ああ、それは確かに謎ですね」
『ペンタブ』さんは興味深そうにそう言った。
解読されなくてもいい暗号を、わざわざ渡した意図は何だろう。
解いて欲しいとは思っているのだろうけど、すぐに解いてくれなくてもいいということだろうか。
「この謎、解けそうですか?」
私の質問に、『ペンタブ』さんはすぐには応えず、少し考えるような間を置いた。
カタカタとパソコンのキーボードを叩いているらしい音が聞こえる中、『ペンタブ』さんが言う。
「……そのお父さんの意図はともかく、暗号めいた文章の方は何とかなるかも知れません。少し調べてみますね」
「わかりました」
私がそう返事をすると、少しして知りたい情報に辿り着いたらしく、『ペンタブ』さんが言った。




