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あなたの『謎』、聞きます  作者: 佳景(かけい)
第1話 サンタクロースへの手紙
3/62

―3―

 私は「ごめんなさい」と言いかけたけど、ふと『ペンタブ』さんの少し前に話したお客さんの話を思い出して言った。


「『ペンタブ』様が期待されている話とは、少し違うかも知れないですけど、いいですか?」

「勿論です!」

「じゃあ、お客さんから聞いた話なんですけど……」


 本当はこうやって他の人に話すのは良くないのだろうけど、『ペンタブ』さんは本当に困っているみたいだし、今回だけならいいだろう。

 

 もし『ペンタブ』さんがあの謎を解いてくれたら、きっとあの人も喜んでくれるだろうし。


 私は続けた。


「その人、男の子のお孫さんがいるんですね。今小学二年生だそうなんですけど、幼稚園の頃から毎年サンタさん宛てに絵や手紙を書いて、欲しい物をおねだりしてるんだそうです」

「そういうの、僕も子供の頃やってました。プレゼントが届いた日には、サンタクロースにお礼の絵を描いたりしてましたよ」


 『ペンタブ』さんは私の話を聞いている内に大分冷静さを取り戻したみたいで、落ち着いた声でそう言った。


 その微笑ましいエピソードに、私は思わず頬が緩むのを感じる。


 「サンタクロースに手紙を書く」のはよく聞く話だけど、プレゼントが届いた後にお礼の絵を描いたなんて聞いたのは初めてだ。


 少年時代の『ペンタブ』さん、何ていい子だったのだろう。


 私の勤める会社は、終業後のミーティングに残業代が付かなかったりするなかなかのブラック企業で、どうしても心が荒みがちになるけど、少年時代の『ペンタブ』さんのピュアさに物凄く癒された気がした。


 私が久し振りにほんわかした気持ちに浸っていると、『ペンタブ』さんが言う。


「僕のことはさておき、その男の子は今年もサンタクロース宛てに手紙を書いた訳ですか?」


 『ペンタブ』さんにそう訊かれて、私はほわほわしていた意識を慌てて現実に引き戻した。


「そうなんです。来月クリスマスですから、その男の子は最近サンタさんに手紙を書いたそうなんですよ。ご両親はその手紙を見てプレゼントを用意するつもりだったんですけど、その子が探偵の出てくる児童文学が大好きで、ちょっとした謎解きを仕掛けて来たらしいんです」


 私はほとんど本を読まないし、児童文学を読むような年でもないから、その本のことは知らなかったけど、あのお客さんが言うには今子供達の間で大人気なのだそうだ。


 私も子供の時に好きな漫画に出てきたおまじないを真似したりしていたし、男の子が謎解きを仕掛けようと思った気持ちもわかる気がする。


 謎を作るなんて、私にはとても無理だけど。


「その謎解きって、どんなものだったんですか?」

「言ってみれば、宝探しです」

「宝探し、ですか?」


 訝しげな声で聞き返してきた『ペンタブ』さんに、私は言った。


「家の中のどこかにサンタさんへの手紙を隠して、それをサンタさんに見付けてもらおうとしてるんだそうです。まだ子供ですから、そんなに難しい場所に隠した訳じゃないと思うんですけど、娘さん夫婦が家の中を探し回っても、全然見付からないそうなんですよ。そのお客さんも一緒に考えてあげたそうなんですけどわからなくて、このままだとプレゼントがクリスマスに間に合わないかも知れないって、凄く困ってるそうなんです。何でもその男の子が言うには、『新聞記者が好きな鳥はなあに?』っていうなぞなぞがヒントなんだそうですけど、これって答えは『キジ』ですよね? 家の中で『キジ』に関係した場所なんてありますか?」






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