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一週間後。
私は久しぶりに会おうという友達の誘いを断って、家にいた。
今日は、『たけちゃん』の予約が入っている。
もう少しで約束の十四時だ。
またあの人と話すのかと思うと、ちょっと気が重かった。
主犯にしろ、そうでないにしろ、あの人はきっと娘さんを死に追いやっている。
そういう人とは関わり合いになりたくないというのが本音だったけど、あの人にガツンと言ってやれるのは私だけだから、この機会を逃す手はなかった。
ソファに座った私は、炬燵布団から頭だけを外に出して、隣で寝ているにゃん三郎の頭をそっと撫でる。
にゃん三郎は閉じていた目を開けると、その大きな両目で私を見た。
疑うことを知らないようなその目は、私を信じ切っている。
私が酷いことをするなんて、にゃん三郎は夢にも思っていないのだろう。
きっと自殺した女の子も、最初はこんな目で両親を見ていたに違いない。
この目を裏切るなんて、どうしてそんなことが『たけちゃん』にできたのか、全然理解できなかった。
だって、こんなに可愛いのに。
「私は、にゃん三郎をずっと大事にするからね」
にゃん三郎は「うん」と返事をするように一声鳴くと、再び目を閉じた。
私に子供はいない。
でも、自分を全力で信じてくれる相手を傷付けることが、とても罪深いことはわかる。
そのことをあの人に、ほんの少しでもわかって欲しかった。
私はスマートフォンの時計が十四時を表示したのを確認すると、私は例のアプリから『たけちゃん』に電話をかける。
『たけちゃん』はちゃんと約束を覚えていたようで、すぐに電話に出た。
「はい」
一週間前と同じ、ちょっとぶっきらぼうな話し方。
もしかしたら嫌なことが多いのかも知れないけど、ストレス発散に子供に当たるような真似をしていたのだとしたら、本当に最低だと思う。
嫌なこととも上手く付き合っていくのが、大人というものだろう。
中には上手くできなくて、心を病んでしまう人もいるけど、そういう人の方がよっぽど健全に違いない。
「ご利用ありがとうございます。先日ご予約頂いた、『肉球ぷにぷに』です」
仮にもお客さんだから、最低限の礼儀は尽くすつもりだったけど、思った以上に素っ気ない声が出た。
私は自分で思っている程、大人ではないのだろう。
でも大人になるということが、自分より弱いものをいじめ殺すことを見て見ぬ振りすることなら、私は大人でなくてもいい。
それが正しいことだなんて、絶対に思いたくなかった。




