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あなたの『謎』、聞きます  作者: 佳景(かけい)
第2話 遺書
18/62

―18―

 さっきは気にも留めずに聞き流してしまったけど、言われてみれば確かにおかしい。


 『たけちゃん』さんの家族には、何か問題がある気がした。


 その「問題」が、自殺した女の子にあんな文章を書かせたのだろう。


 きっと女の子はお母さんに知られずに、お父さんにだけメッセージを伝えたかったのだ。


「『ペンタブ』さん、女の子の書いた文章を読もうと思うんですけど、メモを取ってもらった方がわかり易いと思うんで、何か書く物を用意してもらえますか?」

「わかりました。ちょっと待って下さいね」


 引き出しを開けるような音がした後、『ペンタブ』さんが言った。


「用意できました。どうぞ」

「じゃあ、読みますね。『とらがかんむりをかぶってひっくりかえったヨ。すこしあるくとおてらがあった。さよなら、おとうさん』。『ヨ』だけ片仮名で、後は全部平仮名です」


 とても遺書とは思えない、意味があるような、ないような文章だった。


 でも人生の最後にわざわざ書き残したのだから、きっと何か伝えたいことがあった筈だ。


 私にはそれを読み取ることはできないけど、『ペンタブ』さんならできるかも知れない。


「どうです? 何かわかりましたか?」

「うーん、そうですねえ……」


 『ペンタブ』さんはもう頭を回転させ始めているようで、心ここにあらずといった声でそう言うと、それきり黙った。


 多分考えをまとめているのだろう。


 『ペンタブ』さんは、女の子のメッセージを読み解けるのだろうか。


 自分のことでもないのに、少し緊張しながら『ペンタブ』さんの言葉を待っていると、少しして『ペンタブ』さんが沈黙を破った。


「これを書いた女の子は、小学校五年生だと言っていましたよね?」


 『ペンタブ』さんの声は、さっきと打って変わって、しっかりとしたものだった。


 まだ完全に読み解けてはいないのだとしても、何か取っ掛かりを掴んだのかも知れない。

 

 私が「はい」と答えると、『ペンタブ』さんは言った。


「小学校五年生なら、『すこし』や『あるく』といった言葉は、漢字で書く子の方が多くありませんか? 一文字も漢字を使わずにこの文章を書いたところに、意図的なものを感じます。平仮名と片仮名だけしか書かれていないのは、もしかしたら『漢字』が謎を解く鍵だからなのかも知れません」


 なるほど。

 

 書かれている物だけじゃなくて、敢えて書かれていない物に目を向けることで、見えてくる物もあるという訳だ。

 

 私は『ペンタブ』さんの逆転の発想に、すっかり感心して言った。


「じゃあ、漢字で書けるところは漢字に直してみればいいってことですか?」

「どうでしょう? 試しに一通りの漢字を書き出してみたのですが、ぱっと見た感じでは、漢字そのものに意味があるようには見えませんね……」






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