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あなたの『謎』、聞きます  作者: 佳景(かけい)
第2話 遺書
17/62

―17―

「暗号みたいな――って言うか、本当に暗号なのかも知れないですけど、わざわざそんな書き方をした理由って、何だと思います?」

「特定の人だけに何らかのメッセージを伝えたかったから、というのが妥当なところでしょう。ミステリーやサスペンスだと、『大きな会社や組織の秘密を知って殺された人が、生前に暗号でメッセージを残していて、死後にその暗号に気付いた人が暗号を解いて、重大な秘密を知る』なんてパターンがありがちだったりしますけど、小学生ならそのパターンは考え難いですね」

「確かによくあるパターンですけど、そのパターンを知ってるってことは、『ペンタブ』さんってミステリーとかサスペンスが好きなんですね」

「そう言う『肉球ぷにぷに』さんもでしょう? ちなみに僕は遊び心いっぱいの、所謂バカミスが好きです」

「へえ、ちょっと意外ですね」


 バカミスというのは、「バカバカしいミステリー」もしくは「おバカなミステリー」の略語だ。


 さっき『ペンタブ』さんが口にしたサスペンスや、サスペンス寄りのミステリーとは対極にあるイメージだけど、ミステリーなら一通り押さえているのかも知れない。

 

 私がそんなことを考えていると、『ペンタブ』さんが訊いてきた。


「『肉球ぷにぷに』さんは、どんなミステリーがお好きですか?」

「私はほとんど本を読まないんで、ドラマや映画で見るくらいですけど、泣ける系のミステリーが好きですね」

「ああいう系は構成が見事ですよね。ちゃんとミステリーの謎解きのクライマックスの部分と、人間ドラマにおける感情の盛り上がりがリンクしていて、よくできているなあと感心します」


 私はドラマや映画を見る時に、いちいち構成がどうのこうのと分析したりはしないけど、『ペンタブ』さんは流石漫画家だけあって、見ているところが違うみたいだ。


 『ペンタブ』さんのミステリー漫画は、どんな作風なのだろう。


 バカミスが好きなら、コミカル路線だろうか。


 ちょっと気になったけど、『ペンタブ』さんから話してくれるならともかく、私からプライベートなことをあれこれ訊くのは控えるべきだった。


 私達はあくまで、『愚痴聞き屋』とそのお客さんなのだから。


 私はすっかり逸れてしまった話を戻そうと、控えめに言った。


「あの、遺書の話なんですけど……」

「すみません、すっかり脱線してしまいましたね」


 『ペンタブ』さんは少し決まりが悪そうに言うと、急に黙った。


 どうしたのかなと思って話し掛けようとした時、『ペンタブ』さんが尋ねてくる。


「ちなみに、その遺書は誰宛てでした?」


 どうやら、『ペンタブ』さんは黙っている間に、どこまで話したのか思い出していたみたいだ。


 私はメモに目を落として、『ペンタブ』さんの質問に答えた。


「宛名に関しては特に聞いてませんけど、平仮名で『さよなら、おとうさん』とは書いてあったそうです」

「『さよなら、おとうさん』ですか……亡くなった女の子は父子家庭なんですか?」

「いえ、お母さんもいるそうですから、お父さんっ子だったんじゃないですかね?」

「いくらお父さんっ子でも、両親が揃っている子が父親にしか別れを告げないなんて、不自然ですよ。お母さんと折り合いが悪かったとか、そういう話は出ませんでしたか?」

「いえ、特には聞いてませんけど……」






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