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電話を切った後、私は『ペンタブ』さんとの約束通り、サイトのプロフィール画像をバラの画像に差し替えた。
『たけちゃん』さんからは一週間の猶予をもらっているけど、『ペンタブ』さんはいつ予約を入れてくれるだろうか。
『ペンタブ』さんは漫画とは別の仕事もあって忙しいみたいだし、この時期ならインフルエンザなどで体調を崩して寝込んでいてもおかしくない。
まあ、『ペンタブ』さんと連絡が取れたとしても、謎が解けるとは限らないから、結局謎は解けないままなのかも知れなかった。
『たけちゃん』さんには「謎が解けるとは限らない」ことは伝えてあるけど、ちょっと怖そうなお客さんだし、できれば怒らせるようなことは避けたいのだけど。
とりあえず今の私にこれ以上できることはないし、あれこれ考えても仕方がなかった。
私はスマートフォンを炬燵のテーブルに置くと、大きく伸びをする。
家事は午前中に終わらせたし、暇になってしまった。
こうなると、「実家に帰るべきか」という問題に、嫌でも意識が向かってしまう。
お父さんもお母さんもまだまだ元気だし、去年はちゃんと帰ったし、今年は無理に帰らなくてもいいだろうか。
そんなことを考えていると、真っ暗になっていたスマートフォンの画面が明るくなって、アプリの通知が表示された。
画面をタップすると、そのままアプリ画面が開かれて、『ペンタブ』さんが申し込んでくれたことを知る。
良かった、これで『たけちゃん』さんを怒らせずに済みそうだ。
「すぐに話したい」ということだったから、私はすぐさま『ペンタブ』さんに電話をかけた。
「はい」
『ペンタブ』さんは、すぐに電話に出てくれた。
でも少し眠そうな声だ。
本当にかけて良かったのかなと思いながら、私は言う。
「お久し振りです。『肉球ぷにぷに』ですけど、何だか眠そうですね。かけ直しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと原稿が遅れ気味で、あまり眠れていなくて……」
仕事をこなしながら漫画を描くのは大変だろうから、寝不足なのも納得だ。
「頭、ちゃんと動きそうですか? お客さんから謎を聞けたんですけど」
「時々間違えて男性キャラが巨乳になっていたり、壁から人が生えていたりしますが、多分大丈夫ですよ」
「ホントに大丈夫な状態でそれだったら、最早狂気を感じるんですけど……お客さんから一週間後の十四時まで時間をもらってますから、今すぐじゃなくても大丈夫ですし、とにかく寝て下さい。かけ直しますから」
「いえ、今は本当に時間がないですし、行き詰まっているので、ちょっと気分転換がしたいんです。今度のお客さんは、どんな人だったんですか?」
本当に大丈夫なのかなあと思ったけど、『ペンタブ』さんが話して欲しいと言うなら、その通りにするのが一番いいのだろう。
この状態でちゃんと謎が解けるかは怪しくても、時間はあるし、この間みたいに録音してもらって後でゆっくり考えてもらってもいい。




