―14―
約束の十四時まで、あと五分。
トイレから帰って来た私は、いつの間にか姿が見えなくなっているにゃん三郎の居場所を確かめようと、炬燵布団をめくった。
すると、炬燵の隅で人間みたいに仰向けになって寝ているにゃん三郎がいて、思わず頬が緩む。
この家に来た頃は絶対こんな体勢で寝転がったりしなかったのに、気付いたらこんな寝方をするようになって、すっかり気を許してくれるようになった。
言葉が喋れなくても、こっちの言いたいことはちゃんとわかってくれるし、気持ちも伝わるらしい。
私は一旦炬燵を離れると、チェストから取って来たメモ帳とシャーペンを炬燵のテーブルに置いた。
そうして、約束の十四時になったことを確かめてから、お客さんに電話を掛ける。
「はい」
電話に出たのは、男の人だった。
声の感じからすると、多分四十代から五十代くらいだろう。
これくらいの年の男の人が、『たけちゃん』なんて、ちょっと可愛い感じの名前を使うのはちょっと意外だったけど、渾名か何かなのかも知れない。
「ご利用ありがとうございます。先程ご予約頂きました、『肉球ぷにぷに』と申します。こちら、『たけちゃん』様のお電話でお間違いありませんか?」
「そうだけど」
少しぶっきらぼうな話し方。
あまりいいお客さんではなさそうで、ちょっと憂鬱な気分になったけど、私はできるだけその憂鬱が声に滲まないようにして言った。
「よろしくお願い致します」
私がシャーペンを手に取りながらそう言うと、『たけちゃん』さんは早速切り出した。
「プロフィールに『謎を聞いてくれる』って書いてあったけど、自信あるの?」
私は目を瞬かせた。
とうとう『ペンタブ』さんが待ちに待った、謎を話してくれるお客さんが現れたみたいだ。
都合良く謎を聞かせてくれるようなお客さんなんて、一人もいないかも知れないと思っていたけど、世の中は私が思っているよりずっと広いらしい。
一体どんな謎で困っているのだろう。
ちょっと興味が出てきて、私は言った。
「絶対解けるとはお約束できませんけど、頑張ります。どんな謎でしょうか?」
私は『たけちゃん』さんの話に質問や相槌を挟みながら、一通りのメモを取ると、一週間後の十四時に予約を入れてもらう約束をしてから電話を切った。




