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私がいなくてもにゃん三郎がお腹を空かせないように、十九時になると給餌機から餌が食べられるように設定しているから、とりあえずは自分のご飯のことだけ考えればいい。
今晩のメニューは、お鍋だ。人参、長ネギ、豆腐、じめじ、豚肉を入れ、昆布つゆで簡単に味を付けて、煮えたら出来上がり。
温まるし、簡単で良かった。
煮えるのを待つ間に、使った包丁やまな板を片付けていると、パンツのポケットに入れておいたスマートフォンが振動して着信を知らせてくる。
私は手に付いた泡を洗い流すと、エプロンでさっと手を拭いてから、スマートフォンのディスプレイを確認した。
そこに表示されていた名前は「時友舞依」。
お母さんの名前だった。
最後にお母さんと話したのは、確か一ヶ月前、それとも二か月前だっただろうか。
相手をするのが面倒で、こちらから連絡することはほとんどないのに、お母さんはこんな風に時々電話やメッセージをくれる。
まだお皿洗いの途中だし、見なかったことにして後で適当に「ごめんね」メッセージでも送ろうかとも思ったけど、私は敢えて電話に出ることにした。
別にお母さんのことが嫌いな訳ではないし、たまには相手をしてあげてもいいだろう。
私は通話ボタンをタップして言った。
「はい」
「もしもし、文音?」
聞き慣れたお母さんの声は、特に風邪っぽい訳でもなく、元気そうだった。
昔から滅多に風邪なんて引かなかったけど、五十四歳になる今もそれは変わっていないらしい。
「お母さんだけど、今電話大丈夫?」
「うん、平気。何か用?」
「別に用はないんだけど、元気にしてるかなって思って。たまには文音からも連絡してよ。いつもお母さんから連絡してるじゃない」
「あー、ごめんごめん。いろいろ忙しくてさー、つい忘れちゃうんだよねー」
平日はともかく、休みの日は暇を持て余していることも多いけど、お母さんには友達との約束で何かと忙しいということにしていた。
その方が、うるさく言われなくていい。
「お父さんと武人は? 元気にしてる?」
武人は私の弟だ。今大学一年生で、人並みにサークル活動やアルバイトでキャンパスライフを謳歌しているらしい。
武人も昔からお母さんに似て丈夫だったし、お父さんも大きな病気なんてしたことがないから、多分元気にしているだろうとは思ったけど、案の定お母さんは言った。
「二人共元気だから、大丈夫」
「そ。こっちも元気でやってるから、心配しないで」
私としてはそろそろ電話を切り上げたかったけど、「それじゃ」と言う前に、お母さんが訊いてくる。




