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79. 兄と弟

 

「お前、本当に俺の事、忘れちまったんだな!」


 俺と同じ孤児院出身で、俺が兄と慕っていたという、アムルー冒険者ギルド長のブルース・モレルが、馴れ馴れしく話し掛けてくる。


 普通、見ず知らずの奴に、いきなりタメ口で話されたらカチンと来るが、ブルース・モレルにタメ口で話されてもカチンと来ないという事は、やはり、ブルース・モレルは、俺の大事な人だったのだろう。


「俺も、アンタのハゲヅラだけは覚えてるが、それ以外の事は、全く覚えてないんだ……」


「ガッハハハハ! そんなのどうでもいいよ!

 俺がお前の兄貴で、お前が俺の弟だという事は一生変わらない。

 例え、お前が魔物になっちまったとしてもな!」


「全く気にしないのか?」


「当たり前だろ! 俺はお前の事を、ちっちゃい頃から知ってるんだぞ!

 お前は、基本、優しい奴だからな!

 実際、魔物になってからも、人を一切殺してないだろ!」


「それはそうだけど……」


「まあ、そういうこった! 後の事は、全部、俺に任せておけ!

 俺の顔が利く、アムルーの冒険者共と、ハルマン王国だけは、絶対にお前の敵にならないように抑えてみせるからよ!」


「そうか……それは助かるけど」


「ねえ、ご主人様、ギルド長って、ご主人様のお兄ちゃんだったの?」


 俺とブルースの話を、今まで黙って聞いていたシロが、不思議な顔をして聞いてきた。


「そうみたいだな」


「フーン。そしたら、僕のお兄さんにもなるのか」


 シロが、勝手に納得している。


「なんでそうなるんだよ?お前は俺の下僕だろ?」


「僕は、将来、ご主人様のお嫁さんになる予定だから、お兄さんで合ってるよ!」


「セド、お前、やっと結婚する気になったのかよ!」


 ブルースがニヤニヤしながら、世話焼き親父のように聞いてくる。


「なんで俺が、魔物のシロと結婚しないといけないんだよ!」


「何言ってんだ? お前も魔物だろ!」


 ブルースが痛い所をついてきた。


「俺は、体は魔物だけど、心は人間なんだよ!」


「でもお前、シロちゃんの事が好きなんだろ?」


「嫌いではないけど……」


「そうだよな。お前、昔から奥手で、女の子に告白とか出来なかったもんな!

  挙句には、『俺には決まった女なんか要らない!風俗で働く全ての女が俺の女だ!』って言って、素人女には、一切手を出さなくなったもんな!」


「なるほど、なるほど。ご主人様は、奥手なのですね」


 シロは、魔法の鞄からメモ帳を取りだし、メモり出す。


「そんで、お前に影響されて、ケンジの奴も風俗好きになっちまったんだよ!」


「なるほど、ロリコンケンジも、ご主人様に、多大な影響を受けているっと!」


 シロは、どうでもよい事まで真剣な顔をしてメモっている。


「お前、そんな事までメモらなくていいから!

 というか、こんな世間話をする為に、ここに来た訳では無いだろ!」


「アッ! そうでした。それでお兄さん、ご主人様のB級冒険者の件なんですけど」


 無駄に有能なシロは、すぐに話を切り替える。


「そんな事なら、問題ないだろ!

 セドの冒険者カードを再発行すればいいだけだし!」


「兄貴、姿形が変わっちまったし、新たな名前で、冒険者登録したいんだけど?」


「まあ、それもそうだな。死んだと思われていたセドが生きていて、姿形まで変わっていたら、他の奴らに怪しまれるか……そしたら、セドからセドリックに登録名を変えたらどうだ?

 確かお前、セドという愛称でギルドカード作ってたろ!」


 ブルースが、ナイスな提案をしてくれた。


「なるほど、セドリックか。やっぱり俺には白熊より、セドリックのほうがしっくりくるな!」


「えぇぇぇーー! ご主人様の名前は、やっぱり白熊ですよ!」


 シロが、納得いかないと不満を口にする。


「何だ? 白熊って?セドが新しく考えた二つ名か?」


「兄貴もそう思うよな! 『白熊』って、名前というより、どう考えても二つ名だもんな!」


「何だ? 『白熊』って二つ名、もしかしてシロちゃんが考えたのか?」


「そう、コイツ、やたらに白色に執着するんだよ!」


「そうか。シロちゃんが作る、鮮やかで色褪せない白色の服は、商人に人気があるからな!」


「えへへへへ」


 シロが、ブルースに白色を褒められて喜んでいる。

 どうやら、ブルースもシロの扱い方が分かってきたようである。


「まあ、シロはほかっといて、兄貴、セドリックという登録名で、新しく冒険者カードを作ってくれよ!」


「勿論だ。確か、B級冒険者が良かったんだよな?

 A級でなくて良かったのか?」


「えっ! A級に出来るのか!?」


「お前、何言ってんだ? お前、本当はA級だったろ!

 だけど、A級だと、ギルドの依頼を定期的に受けなくちゃならなくなるのが嫌だからって、ずっとB級冒険者をやってたんだろ!」


 ブルースが、驚愕の事実を教えてくれた。


「そうだったの?」


「そうだ! だから、お前にはA級冒険者になってもらう!

 これから、ジャンジャン働いてもらって、溜まってる未解決クエストを消化してもらわないといけないしな!」


「それは、絶対なの?」


「当たり前だろ! お前達の秘密をバラしても良いのか?」


「それは、駄目!」


「そしたら、A級冒険者で決定な!」


 なんか、ブルースの術中にハマってる気がする……。


「お兄さん! 僕もご主人様と同じA級冒険者になりたいな!」


「おお! 任せておけ! なんてたって、シロちゃんは、セドの未来の嫁さんだからな!

 何でも、お兄ちゃんに任せておけ!ワッハッハッハッハッ!」


 なんかよく分からないが、シロと俺が、将来結婚する既成事実が固められていってる。


 まあ、兎に角、シロの事は置いといて、俺は、晴れてA級ギルドカードをゲットする事に成功した。

 ちょっと、身内を使って、ズルしてる気もするけど。


 実際は身内と言っても、俺自身、全くアムルー冒険者ギルド長ブルース・モレルの事は覚えていない。

 だけど俺は、ブルース・モレルの事を、いつの間にか、自然と兄貴と呼んでいた。


 よく分からないが、まあ、そういう事なのだ。


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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