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70. 竜田揚げ

 

「キャァァァァァァァァァァーー!」


 アムルー城塞都市は、現在、大変な騒ぎになっている。


 5000を越えるレスター王国の兵士と、40人の冒険者が、素っ裸でアムルーダンジョンから出てきたのだ。


 レスター王国の兵士に聞いた話によると、金色の魔王とアラクネによって、装備品と持ち物を全て奪われてしまったらしい。


 彼らは、お金が無いので、着る物も食べる物も買えず、アムルー城塞都市の大通りでブルブル震えているのだ。


 多分、今日は、素っ裸で野宿であろう。


 まあ、2、3人、素っ裸にされたのであれば、優しい誰かが毛布ぐらい与えるであろうが、5000人ともなると流石に無理である。

 また、一人だけに与えてしまうと不公平になってしまうので、アムルー城塞都市として、レスター王国の兵士に何も与えない事に決めたのであった。


 まあ、レスター王国本国から物資が届くまでは放置という事で、暫く、アムルー城塞都市の風紀が乱れてしまう事になったのだった。


 そして、今現在、アムルー冒険者ギルドで盛り上がっている話は、いつ、S級パーティー『テンペスト』の装備が売りに出されるかという話である。


 流石は、S級パーティーと言われている事もあって、『テンペスト』は、相当良い装備を身に付けていたのだ。


 多分、アラクネと直に交渉している『鷹の爪』なら、『テンペスト』の装備をアラクネから物々交換できると、アムルーの冒険者達は踏んでいるのだ。


 今現在、『鷹の爪』の元には、アムルー城塞都市で店を構えてる武器屋や防具屋から、『テンペスト』の装備を手に入れたら売ってくれという話が沢山来ているとか。


 まあ、今現在のアムルー城塞都市は、こんな感じで、それほど混乱していない。

 俺やシロの実力を知っている、アムルー城塞都市に住んでる誰もが、レスター王国軍が負ける事や、素っ裸にされる事は想定済みだったようだし。


 というか、素っ裸にされる事が想定済みって、俺は一体、アムルー城塞都市に住んでる人達にどう思われてるのだ……。

 絶対、鬼畜な変態魔王だと思われてるに違いない。


 まあ、こんな所が、シロの偵察によってもたらされた情報である。



 そして、レスター王国との戦いが終わった俺達はというと、現在、第22階層の湖畔のログハウスに戻り、待ちに待った、鶏の唐揚げパーティーの準備をしている所だ。


 そもそも俺達は、片栗粉の為に第5階層に行っていたのだ。


 ハッキリ言って、レスター王国との戦いは序で。


 まあ、序でと言っても、俺の損失は相当なものであったけど。


 そう、俺は折角ゲットした、口の周りの皮を失ってしまったのだ!


「ジーザス!」


 俺は思い出して、思わず叫んでしまう。


「ご主人様、そろそろお肉に味が染みたんじゃないですか?」


 シロが、俺の叫びをスルーして、質問してくる。

 シロは、俺がイキナリ叫んでしまうのも、脳ミソが無いせいと分かっているのだ。

 そう、脳ミソが無いので、思った事を そのまま口に出してしまう事を。


 みんな勘違いしてるかもしれないが、俺は元々、知的で冷静な男なのだ。

 冒険者時代など、頭良過ぎて、言わなくていい事まで言ってしまい、他人をよく怒らせていたけど。


 アレ?今と一緒か?


 まあ、兎に角、脳ミソさえ戻れば、頭が良くなるというか、元の頭の良さに戻る筈なのである。


 そんなこんなで俺は、シロに命令して、味を染み込ませた鶏肉に片栗粉をまぶす。


 俺が作ってるのは、どうやら竜田揚げのような気もするが、俺自身、竜田揚げと唐揚げの線引きがよく分からないので、全てをひっくるめて唐揚げという事にしておく。


 その辺の所を、いちいち突っ込まないでくれると嬉しい。


 兎に角、片栗粉をまぶした鶏肉を、熱したオリーブ油に投入する。


 パチパチパチ。


 揚げ物をする時に発する、音がとても懐かしく感じる。

 というか、この世界には揚げ物自体がそもそも無いのだ。


 オリーブ油は、サラダや炒め物を作る時に使うだけで、それ以外には料理で使わない。


 そんな事を頭の中で考えていたら、パチパチという音から、チリチリという音に変わった。


「シロ! 今だ! 唐揚げを網の上にあげるのだ!」


「了解です!」


 シロが揚げてくれた鶏の唐揚げは、白い衣で中が赤く見える竜田揚げのような感じで完成した。


 思わず、涎が垂れてしまう。

 まあ、いつもと同じように、骨しかないので、涎が垂れた気がしただけだけど。


「それではシロ、食べてみるが良い!」


「ご主人様、僕が最初に食べていいんですか?」


「良い良い。俺はシロに鶏の唐揚げという、異次元の料理を食べてもらいたいのだ!」


「そんなに言うなら、食べてみますね!」


 シロは出来たてホヤホヤの鶏の唐揚げを、口に入れる。


「熱っ!」


「そうだろそうだろ! 出来たてホヤホヤは熱いのだ!」


「知ってたんですか!」


「知ってるもなにも、だからシロに最初に食べさせたんだぞ!」


「ご主人様は、鬼畜ですか! そうやって、熱がる僕を見て楽しんでるんですね!」


「まあな!」


 俺は勇者らしく、ニヤリと笑う。


「まあな! って、ご主人様も熱々の鶏の唐揚げを食べて下さいよ!」


「そんなもの、幾らでも食べてやるぞ!」


 俺は、そう言うと、熱々ホカホカの鶏の唐揚げをペロリと食べる。


「肉ウメェェェーー!」


 俺は、理性が吹き飛び叫んでしまう。


「熱くないんですか?」


「熱い訳ないだろ! 今の俺には、肉も皮も無いんだぞ!」


「そうでした……」


「そうだった……」


 俺はまた、皮を失った事を思い出し、フツフツと怒りが沸き起こってきた。


「糞っーー! レスター王国のヤツらめ! 俺の口の周りの皮を返しやがれーー!」


 俺は、口の周りの皮を失ってしまった激しい怒りを、鶏の唐揚げを食べながら、湖に向かって叫んだのであった。


 ーーー


 ここまで読んで下さりありがとうございます。

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