61. シロの大冒険(2)
アムルー冒険者ギルドは、石造りの立派な3階建ての建物だ。
他の街にある冒険者ギルドより、大きいらしい。
ハルマン王国では、王都の冒険者ギルドに次ぐ大きさなのだとか。
それもこれも、アムルーダンジョンのお陰である。殆どのダンジョンは、攻略済みか、攻略不可能ダンジョンと認定されているのだが、アムルーダンジョンは、その大きさもあって、まだまだ謎が多いダンジョンと言われている。
ドロップアイテムも多岐に渡っていて、冒険者を飽きさせない。
そんな訳で、必然的に冒険者が多く所属し、大所帯の冒険者ギルドになっているのだ。
シロは、そんなアムルー冒険者ギルドの扉を、勢いよく、バーン! と、開く。
それと同時に、アムルー冒険者ギルドの冒険者達の目が一斉にシロに向けられる。
現在のシロの容姿は、アムルー冒険者達が知る、金色の魔王の副官アラクネの姿ではないのだ。
勿論、ステータスも、金色の魔王によって隠蔽されている。
「何だ、ルーキーかよ!ビビらせやがって!」
「オイ! ただのルーキーじゃ無さそうだぜ! あのチビッ娘が着てるローブ、アラクネの作ったローブじゃないのか?」
「そしたら、貴族の娘かなんかか?」
「なんだ、お貴族様か……どうせ、依頼か何か出しに来たんだろ」
値踏みが済んだのか、冒険者達は、シロへの興味を失い、また、酒場と兼用になってるエントランスのテーブルで酒を飲み始める。
まあ、冒険者達も馬鹿では無いので、貴族の娘と思われるシロに、ちょっかいなど出さないのである。
シロは近くで、酒を飲んでる冒険者に訪ねる。
「『鷹の爪』って、どこにいる?」
「はっ? 『鷹の爪』だって? 『鷹の爪』なら、いつもの指定席に居るぜ」
冒険者は、酒を飲みながら目配せする。
シロが、冒険者が目配せした先を見ると、一番奥の席で偉そうに酒を飲んでるラインハルト達を発見した。
「オジサン! ありがと!」
シロは、飲んだくれのオッサンにお礼を言う。
「うるせぇー! 俺はオジサンじゃねー!」
飲んだくれのオッサンが、何か言ってるが、シロは無視して、真っ直ぐラインハルト達が向かう最奥の席に向かった。
そして、
「ラインハルト、久しぶり!」
空っぽのジョッキに囲まれて、飲んだくれているラインハルトに声をかけた。
「何だお前? ここはガキンチョが来る所じゃないぜ。ガキンチョは早く家に帰って、ママのオッパイでも吸ってろ!」
ラインハルトが、シロと気付かず生意気な事を言っている。
「ラインハルト、君、いつからそんなに生意気になったの?」
「はっ? 誰だお前? 俺がS級パーティー『鷹の爪』のラインハルト様と知って、おちょくってるのか!」
「おちょくってなんかないよ! 本当に僕の事、分からないの?」
「お前なんか知るかよ!」
「アナスタシアは?」
シロは、アナスタシアの方を見る。
「えっ?う……ん?……アッ!」
どうやらアナスタシアは、シロに気付いたようである。
ロリコンと噂のケンジなどは、最初から気付いていたらしく、何故か土下座している。
「お前ら、どうしたんだよ?」
ラインハルトは、アナスタシアとケンジの態度に首を傾げる。
「ラインハルト、本当に分からないの?彼女の顔をよく見なさいな!」
アナスタシアが、ラインハルトに助言というか、忠告をする。
「はっ? 顔だ?」
「仕方が無いな」
シロは、ラインハルトにだけ見えるように、副眼の6つの目を開ける。
「なっ! 姐さん! 失礼しやした!」
ラインハルトは、シロと気付くと途端に態度を変え、その場で土下座した。
「おい! なんだ? なんだ?」
「なんで、ラインハルトとケンジが土下座してるんだ?」
「あの貴族の娘、余っ程の大貴族の娘なのか?」
突然、アムルー冒険者ギルド最強パーティーの『鷹の爪』の二人が土下座するものだから、エントランス中が騒がしくなってしまった。
「ねえ、マイちゃん、雑談室空いてるかしら?」
アナスタシアは、空いたジョッキを下げに来たギルド職員に声をかける。
「アッ! ハイ! 空いてるので使って下さい!」
「そう。ありがと! ほら、ラインハルト、ケンジ行くわよ!
シロさんも着いて来て下さい」
「ハーイ!」
アナスタシアが、先頭を歩き、シロを案内する。
その後ろを、ラインハルトとケンジがヒョコヒョコ着いていく。
雑談室は、6人くらい座れそうな大きなテーブルが1つだけ置いてある個室で、どうやら、遮音の魔法がかけられているようであった。
「申し訳ございません!」
部屋の中に入るなり、ラインハルトが改めて土下座する。
「気にしてないから立って、ラインハルトが分からなかったって事は、僕、ちゃんと人間に見えてるんだね!」
「どこから見ても、人間にしか見えないですよ!
それに、髪の色と目の色がピンク色になってるので、全く分からなかったですよ!」
ラインハルトは、ヘコヘコしながら言い訳をする。
「そっか! ありがと! それは置いといて、今日来た理由は分かるよね?」
「ハイ! レスター王国の事でやすね。」
「そっか、アイツらレスター王国の兵隊さんなのか……で、なんでレスター王国の兵隊さんが、わざわざアムルーダンジョンに来てるの?」
「それは、姐さん達のせいですよ!
姐さん達、レスター王国の王子のケツの穴に、木の棒突っ込んだでしょ!」
「そ……そんな事もあったかな……」
シロは、こんな所で黒歴史を言われると思ってなかったので、少し動揺する。
「そのせいで、レスター王国が怒っちゃて、アムルーダンジョンの攻略に来たんですよ!」
「そ…そうなんだ……」
どうやら、原因はシロにあったようだ。
確かにシロは、王子ぽい金髪美少年のケツの穴に、木の棒を突っ込んだ記憶があったのだ。
男の癖に、「アッハ~ン」と、妖艶な喘ぎ声を出していたので、シロの記憶に鮮明に残っている。
「勿論、ハルマン王国は、国の中に他国の兵隊を入れるのが嫌で、突っぱねてたんですが、
レスター王国が30億ゴル支払うから、アムルーダンジョンを1ヶ月間貸し切りにさせてくれという提案をして来て、それをハルマン王国が受け入れちやったという訳ですよ!」
「そ…そうなんだ……」
「それで、俺達『鷹の爪』にも、レスター王国から金色の魔王を倒す手伝いをしてくれって、依頼が来たんですが、勿論、断りやした!」
「そっか、ありがとね」
「何、言ってるんですか! 俺と姐さんの仲じゃないですか!
それから、この件は、一切、アムルー冒険者ギルドは関わっていませんから安心して下さい!
誰も、レスター王国の奴らなんかを手伝いませんから!」
「ハハハハハ。そしたら、レスター王国の兵隊さん、みんなやっつけちゃっていいんだね」
「姐さん、だけど注意して下さいよ! レスター王国は他国のS級パーティーを雇ったようですし、それにレスター王国には、スケルトンの天敵、聖女がいやすからね!」
「ふーん……。S級パーティーって、ラインハルト達と一緒でしょ!
そしたら大した事ないかな」
「確かに、あっしらは姐さんに比べたら大した事ないですけど、レスター王国には聖女もいるんですよ!」
ラインハルトが、聖女を強調する。
「あれ? 言ってなかったけ?
僕のご主人様、勇者だから光魔法効かないし。
この前も、魔王軍が送り込んできた1万のゴーストを、光魔法を使って、殆ど一人で倒したって言ってたよ!」
「あれって、冗談じゃなかったんですか?」
「本当だよ! だから、人間1人も殺してないでしょ!」
「人間殺してなくても、ケツの穴に木の棒突っ込むのは、相当鬼畜な行為ですけど……」
再びラインハルトが、忘れてしまいたいシロの黒歴史をぶり返す。
「それは、それだよ! ただ、あの時は、無意味に挑まれるのに辟易してたから、仕方なくだよ!
現に、アムルー冒険者ギルド所属の冒険者には、木の棒突っ込んでない筈だよ!」
シロは、ラインハルトに仕方がなかった事だと説明し、自分自身にも、ご主人様の命令だったので仕方がなかったと言い聞かせた。
「確かに、うちのギルドの連中は、誰も被害受けてないですけど……」
ラインハルトも、なんとか納得してくれたみたいである。
「まあ、一応、今の現状は理解できたよ!
それで、またお使い頼めるかな?」
アムルーダンジョンの現状を理解できたので、シロは、上層階まで上がってきた、本来の目的を果たす事にする。
「今度は、何をご所望で?」
「片栗粉」
「片栗粉?」
「そう、ご主人様が鶏の唐揚げを食べたがってるんだよ!」
「骨の旦那が、鶏の唐揚げを?」
「そう。なんでも、お弁当に入ってて一番嬉しいオカズNo.1らしいよ!」
「鶏の唐揚げが何なのか分かりませんけど、取り敢えず、片栗粉を手に入れればいいんでやすね!」
「お願いできるかな?」
「すぐに若い奴に買いに行かせるので、ここで待っててくだせい!」
ラインハルトは、そう言うと、雑談室から急ぎ出て行った。
「で、シロ様、また、服が欲しいのですが……」
ラインハルトが、部屋から出て行くと、すかさずアナスタシアが話し掛けてきた。
「対価はあるの?」
「勿論です! シロ様は人化できるんでしたら、街で買い物する為に、纏まったお金があっても困らないですよね!」
「う~ん……それはそうかも……」
シロは、冒険者から奪った小銭は持ってるが、大金は持ってない。
「でしたら、ここに3000万ゴルあります! これで、新しい服を作って下さい!」
アナスタシアは、自分の魔法の鞄から、大量の金貨を取り出す。
「そんな大金! ご主人様が、10万ゴルでも大金と言ってたのに!」
シロは、見た事のない光り輝く金貨に目を奪われてしまった。
「シロ様の作られた服は、それ程、価値があるという事ですよ」
アナスタシアは、真剣な顔をしてシロに告げる。
「そうなの……なんか悪いね……」
アナスタシアは、シロの様子を見て ほくそ笑む。
シロがアナスタシアに作る特注の服は、全て億超えの価値があるのだ。
そして、シロが、自分が作った服の本当の価値を知る事になるのは、まだまだ先の話なのであった。
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