42. ホームラン
俺は、今、火山スライムキングの縄張りの近くの岩陰で、シロとオリ姫に作戦を伝えている。
「オリ姫、お前、手を伸ばせるか?」
「キュイ!」
オリ姫は、嬉しそうに返事をして、触手のような手を伸ばした。
「20センチか……思ったほど伸びないな……」
「キュイ……」
オリ姫は悲しそうな声を出す。
「シロ、お前、硬い糸を出せるか?」
「出せると思うよ!」
「そしたら、5メートル、イヤ、10メートルの棒のような硬い糸を出してくれ!」
「了解!」
シロは、返事をすると、10メートル程の硬い棒のような糸を指先から出した。
「オリ姫、触手で、棒の先を掴めるか?」
「キュイ!」
オリ姫は、出来るよ! とばかりに、嬉しそうに棒の先に捕まった。
「良さそうだな!」
「良さそうじゃないよ!
このオリ姫付きハンマーで、僕に闘えって言うんでしょ!
こんな、オリ姫付きの10メートルもある長い棒で闘うなんて、とてもじゃないけど重すぎて無理だよ!」
シロが絶対無理と、俺に抗議をしてくる。
「大丈夫だ、遠心力を使う」
「遠心力?」
「そうだ。物を回転させると、なんらかの力が向上し、よく分からないが、凄い力を発する事が出来るのだ!」
俺は、遠心力について、実際、よく分からないので、適当に説明する。
「説明は、よく分からないけど、オリ姫付きハンマーを回転させながら、火山スライムキングと闘えという事でしょ?」
「そういう事だ! 念の為、オリ姫の触手と棒の先を、粘着力のある糸でグルグル巻にしておけよ!
オリ姫が目を回して、棒を離してしまうかもしれないからな!」
「ご主人様は、鬼畜ですか!」
「俺は、肉付きの鬼でも、畜生でも無い。ただの骨だ!」
「それは、自慢する所じゃありませんから」
シロはブツブツ言いながらも、当たり前のように、オリ姫を、糸の棒に固定していく。
俺から言わせると、シロの方が鬼畜なのだが……。
そんなこんなで、火山スライムキングを攻撃する準備が出来た。
「シロ、回転しながら少しづつ火山スライムキングに近づき、あの活火山に向かって、火山スライムをぶっ飛ばすんだ!」
「エッ! 回転しながら進むんですか?」
「そうだ! 遠心力というのは、回転する程、力が増すのだ!
それでも火山スライムキングは、一発食らったくらいでは死なないと思うので、
一匹、ぶっ飛ばしたら、俺達もスグに、火山に向かう!」
「火山スライムキングを、分断させて、一匹づつ確実に倒すという事ですね!」
「そういう事だ!」
やはりシロは、脳ミソが有るので飲み込みが早い。
「理解したら、火山スライムキングをぶっ飛ばしてやれ!」
「了解!」
「キュイ!」
シロは、オリ姫付きハンマーを担いで岩陰から飛び出し、そして、オリ姫付きハンマーを回転し始める。
「オリ姫! 我慢するんだよ!」
「キュイ!」
オリ姫は、ヤル気満々だ。
シロは、オリ姫付きハンマーを回転させながら、火山スライムキングに、ジワジワと近づいていく。
そして、回転は、火山スライムキングに近づくにつれて、グングン加速していく。
「キュイ! キュイ! キュイ!」
オリ姫の悲痛な叫び声が聞こえてくる……。
頑張ってくれ、オリ姫。
俺のペットなら、俺の為に働くのだ!
こんなにもペットを虐待して、俺は、勇者にあるまじき鬼畜と思われても、全く問題ない。
何故なら、今の俺には、人間のような、心臓も、優しい心も、何も無いのだ!
「キャッ! ハッハッハッハッーー!!」
「オリ姫! ご主人様が嬉しそうに笑ってるから、まだまだ回転上げるよ!」
「キュイ?!」
オリ姫が、『嘘でしょ?! 』と、言ってる気がしたが、シロは、お構い無しに、オリ姫付きハンマーを、今まで以上に回転させた。
「キュイ! キュイ! キュイィーー……………」
オリ姫の叫び声が、回転と共に聞こえなくなってくる。
どうやら、目を回し気絶してしまったようである。
そして、そんなシロ達の様子を、ボーッと見ていた火山スライムキングの一匹が、何を思ったのか、フラフラとシロ達に近づいて来るではないか?!
多分、『近づいたら駄目だと分かっているのに、気が付いたら、思わず近づいてしまっていた』という、よく分からないアレである。
兎に角、説明出来ないアレが、今、火山スライムキングに起こっているようであった。
火山スライムキングは、フラフラと吸い付けられるように、極限まで遠心力で高められたオリ姫ハンマーに近づいて行く。
そして、
カッキーン!!
遠心力で力を増したオリ姫付きハンマーが、見事に、真芯で、火山スライムキングにヒットした。
そして、火山スライムキングは、オリ姫ハンマーの形に凹み、そのまま活火山に向けて、吹っ飛ばされて行った。
ピューーン!
火山スライムキングは、一直線のライナーで、活火山の中腹に飛んで行く。
そして、
ドッカーン!!
火山スライムキングの巨体が、活火山にぶつかり、地響きが、山の麓の俺達がいる所まで響き渡った。
「よし! よくやった!
そのまま、火山にずらかるぞ!」
「エッ! エッ……!
ご主人様ぁ~スグには無理ですよぉ~!
目が回って、真っ直ぐ歩けませんよぉ~!」
シロはフラフラしながら、俺に助けを求めてきた。
「やれやれ……」
俺は仕方がないので、シロとオリ姫に、第2階位光属性回復魔法を掛けてやった。
「ご主人様ぁ、ありがとうございます!」
「キュイ!」
シロとオリ姫が、俺に感謝の言葉を掛けてくる。
「分かったから、スグに行くぞ!
多分、火山スライムキングは、気絶していると思うが、目を覚ましたら厄介だからな!」
「了解です!」
「キュイ!」
俺達は、急いで、火山スライムキングを吹っ飛ばした活火山を登る。
そして、土煙が舞う活火山の中腹に到着すると、
そこには、火山スライムキングが体ごと土の中にめり込み、目を回して気絶していたのであった。
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