35. 本物の勇者
「ご主人様! 先に行ってて下さい!
僕は第12階層で用事がありますんで!」
シロが12階層に着くと、俺に先に行くようにと言って来た。
俺に隠し事でもあるのか?
「お前、牙狼族の肉を独り占めするつもりじゃないだろな!」
「違いますよ! 仲良くなった冒険者と取引する為ですよ!
多分、ご主人様が現れたら、冒険者達が腰抜かしちゃいますから!」
成程、そう言う事なら仕方が無い。
元人間の俺的にも、人間とは敵対したくない。
確かに、顔が金色で、見た目が怖すぎる俺が出てきたら、冒険者もビビってしまうだろう。
シロもパッと見は怖い感じだが、よくよく見れば可愛らしい顔をしてる。
ここは、シロに任せるのが正解だろう。
それに、俺が喋ると、みんな失神しちゃうしね。
俺は、シロに任せて、一人で第5階層に向かった。
ーーー
「何が起こっているのだ?」
俺が第5階層に到着すると、今までよりどう考えても冒険者がたくさんいた。
今までだと、第5階層にいる冒険者パーティーは5組ほどしかいなかったのに、気配を感じるだけでも、俺の近くに7組はいるのだ。
もしかして、シロの服を目当てに、これだけの冒険者パーティーが集まっているのか?
どう考えても、アムルー城塞都市に常駐している冒険者パーティーの数じゃない。
まあ、たくさん人がいる方が、俺的には都合がいいけど!
俺は、いつものように、冒険者にお願いをする。
「冒険者の皆さん! 色んな物を借りに来ましたよ!」
(骨語)
「ギィギィギィギィ! ギィギィギィギィギィーー!」
俺が、丁重にお願いすると、近くにいた冒険者パーティーの殆どが気絶した……のだが、
「ん!?」
近くにいた冒険者パーティーの1つが、俺の元に真っ直ぐ向かってきている。
『嘘だろ……。
第5階層にいるような冒険者パーティーで、俺の不快な叫びが効かないような冒険者パーティーがいるのか?』
とか、頭の中で考えていると、その冒険者パーティーが、俺の前に現れた。
「当たりだ!」
「噂のアムルーダンジョンに現れたという魔王で間違いないな」
「金色のスケルトンだから、コイツで間違いないよ!」
『魔王だと?
て言うか、俺が魔王?
というか、俺は正真正銘の勇者なのだけど!』
「こいつを倒せば、俺達が勇者だ!」
『だから、勇者は俺だって!』
と、思ってたら、戦士風の男が、俺にお構いなしに、斬りかかってきた。
俺はよろけながらも、なんとか紙一重で避ける。
冒険者とは、戦いたくなかったんだけど、斬りかかられたら仕方が無い。
俺は、この世界にない魔法、エアーバレットを戦士の足に向かって、放った。
ピュン!
「グッ!」
俺が放ったエアーバレットは、戦士の腿を貫通した。
第2階位の威力のエアーバレットだったが、魔力を極限まで圧縮してるので、実際には、第5階位の魔法の威力である。
「第4階位火属性魔法、ファイアーランス!」
続けて、魔法使い風の男が、俺に向けて火魔法を放ってきた。
俺は、それもエアーバレットで迎え撃つ。
ドピュン!
魔法使い風の第4階位魔法も、俺のエアーバレットで、相殺させた。
次いでに、5人いる冒険者パーティー、全員にエアーバレットを放つ。
ピュン! ピュン! ピュン! ピュン!
「ウッ!」
「グッ!」
「痛っ!」
「ギャァー!」
俺は狙い澄ましたように、それぞれの右脚の腿にエアーバレットを貫通させた。
「糞ッ! 第3階位光属性魔法、オールヒ……」
ドピュン!
僧侶風の男が、オールヒールの呪文を唱え終わる前に、僧侶の杖をエアーバレットで、粉砕させた。
そして、
「本物の勇者の俺を倒そうなんて、100万年早いんだよ!」
と、生意気な冒険者パーティーに、注意した。
(骨語)
「ギィギィギィギィギィギィギィ、ギィギィ、ギィギィギィー!」
すると、
「頼む! 殺さないでくれぇ……!」
「殺さないで下さい……」
「ヤメロォーー!俺に近づくなぁーー!」
「僕を食べても不味いですよぉ……」
「近づくなーー!」
と、冒険者達は、よっぽど俺の声が不快だったのか、今更ながら恐れおののいてる。
殺す気など、更々なかったけど、ここまで怖がられるとは……。
俺って、そんなに恐いのか?
コイツら、ほんの3分程前までは俺を発見して喜んでいただろ……。
少しムカついたので、お仕置しておく事にする。
「第3階位闇属性魔法、ナイトメア!」
「うわぁぁぁ……助けてぇ……!」
「腕がぁ……」
「俺の肉は、美味しくないぞーー!」
「止めてぇーー! 僕を食べないでぇーー!」
「肉棒だけは、食べないで~!」
どうやら、冒険者達は、俺に体を食べられる悪夢を見ているらしい。
まあ、俺に攻撃を仕掛けてきたお仕置きだな。
それにしても、俺が、どれだけ肉棒が欲しいと言っても、男の肉棒など食べないのだが……。
本当にムカつく奴らだ。
コイツらには、誰かに起こされるまで、ずっと悪夢を見てもらおう。
起こされなかったら、魔物に本当に食べられちゃうかもしれないけど。
それについては、俺には関係無い。
なんたって、コイツら知らないし。
俺は、アムルー城塞都市のA級以上の冒険者パーティーなら大体知っている。
なんせ、俺はアムルー冒険者ギルド所属の冒険者だったのだ。
しかし、A級以上の冒険者パーティーであろう、コイツらは全く見た事が無い。
アムルー冒険者ギルド所属の冒険者パーティーなら、もっと優しくしてやるのだが、コイツらは完全に、シロの服を目当てに来た、よそ者の冒険者だ。
こんな奴らに、俺が優しくしてやる謂れはない。
そうだ。コイツらまあまあ強そうだったから、金目の物を持ってるだろう。
俺は、チャチャっと、全員の魔法の鞄を奪った。
いつもなら、魔法の鞄ごと奪う事は無いが、コイツらは俺を殺そうと襲ってきたので、そのお仕置だ。
次いでに、装備品も奪ってしまおう。
第5階層で、素っ裸で生きられるか知らないけど。
俺が直接、コイツらを殺した訳じゃないから、俺の人を殺さないという誓いは、ギリギリ守られる筈だ。
それに俺は、コイツらのような冒険者などに舐められる訳にはいかない。
なんせ、俺はハーレム勇者を目指す男なのだ。
そんな俺が、勇者でもない普通の冒険者などに、負ける訳にはいかないだろ。




