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1. 骨野郎

 

 カツン。カツン。カツン。


 やたらに響く乾いた音が、頭に響く。


 ここは何処なんだ?


 辺りはやたらジメジメして薄暗い。

 俺は訳が分からず、ずっと歩いている。


 俺は確か、コンビニに行って、その帰りに……。


 アッ……全て思い出した!


 俺は、トラックに轢かれそうだった少女を助け、そのまま代わりにトラックに轢かれて死んでしまったのだ。


 そして、よくある異世界転生。


 神様が出てきて、「お主は、死ぬ筈じゃなかったのだが、手違いで死んでしまったのじゃ! 代わりに記憶を持ったまま異世界に転生させ、チートスキルを与えるのじゃ!」と、お決まりの話を聞かせられて、異世界転生させられたんだった。


 しかしだ……。


 前世の記憶が戻るのが遅すぎる!


 俺は既に、一度死んでしまって骨になってしまっているのだ。

 一度死んだというのは語弊があった。

 実際には、異世界転生特典で貰った不死スキルが働いて、死ねずに骨になってしまったのだ。


「ジーザス!」


 俺は四つん這いになって、石畳の床をガンガン叩く。

 しかし、肉がないので、ガンガンというより、コンコンという、乾いたシュールな音になってしまう。


 肉が無い事が、こんなに寂しいなんて……。


 何故、こんな事態に陥ってしまっているかというと、不死スキルと共に、神様に貰った超隠蔽スキルのせいだと思う。


 俺は異世界特典で、神様に、一番ポテンシャルが高いであろう勇者にして貰った。

 勇者になれば、超人的な力を手に入れられるし、特殊な魔法まで使えてしまうのだ。


 しかしだ……勇者にも欠点がある。


 勇者だと世間の人にバレてしまうと、世界を救えだの、魔王を倒せだの、やたらに他人に命令されてしまう。

 それでは社畜だった前世と、同じ事の繰り返し。


 それを回避する為に、超隠蔽スキルを神様からゲットしたのだが、その超隠蔽スキルのせいで、骨になってしまうまで、前世の記憶が戻らなかったみたいだ。


 超隠蔽スキルは、自分が隠したいモノを自在に隠すスキルである。

 そして、その名前からも分かるように、何処までも隠蔽したいモノを隠蔽できてしまう。


 俺はこの超隠蔽スキルを使って、異世界転生する前に、職業 勇者のステータスと、異世界転生特典スキルを隠した。


 前世の記憶が何時戻るか分からないので、勇者のステータスを隠したのだ。


 俺の記憶が戻る前に、人々に勇者だと認識されてしまうと誤魔化せなくなってしまう。それを回避する為の、必要な措置だったのだ。


 そして、この超隠蔽スキルの凄い所は、ステータスを隠すだけでなく、実際の能力まで隠蔽というか、使えなくしてしまう所である。

 下手に勇者の力を出してしまうと、超隠蔽スキルを使っていても、凄い奴だと思われてしまうしね。


 そう、俺は勇者の力を、自分の為だけに使いたかったのだ!


 もう金輪際、人に利用されるのは嫌なのだ。

 上司に意味無く営業努力が足りないなど、毎日、愚痴と嫌味を言われてた前世の日々が思い出される。


 やたら高いコピー複合機なんて、簡単に売れる訳ないだろ!

 今の時代、飛び込み営業なんて古いんだよ!

 今はネットの時代なんだ。

 コピー機なんて、みんな安いのをネットで買ってるんだよ!


 社畜時代を思い出したら、ジンマシンが出てきた。

 というか、今の俺は骨だけだから、ジンマシンなど出てないけど……今更ながら肉が恋しい。


 そんな訳で、超隠蔽スキルの効きが余りに強かったせいか、俺は成人しても異世界転生者だと気付かずに、普通に冒険者になり、ダンジョンの罠だった床のトゲトゲに刺さって命を絶ったのだった。


 というか、実際は、トゲトゲに刺さっても不死スキルのせいで死ねずに、腐って肉が削げ落ち骨だけになった事により、やっとトゲトゲの罠から脱出できて、今に至るのだが……。


「こんな事、有るかー!!」


 俺は、自分の運の無さに今更ながら絶叫した。

 しかし、肉が無いので上手く発音できない。

 人間が聞いたら、多分、こんな感じで聞こえているだろう。


「うぎゃぎゃぎゃ、ぎゃー!」


 うん、俺はもう人間では無いな。


 取り敢えず、心を落ち着かせよう。

 叫んだって、何も始まらないのだ。

 叫んで人生がやり直せるのだったら幾らでも叫んでやるが、そうではない。


 今やる事は、そう、アレだ。

 超隠蔽スキルを解く事だ。


 と、思った瞬間、身体中から魔力が溢れてきた。

 どうやら、超隠蔽スキルを自分自身で解こうと思えば、いつでも超隠蔽スキルは解けたらしい。


 まあ、超隠蔽スキルを自分で掛けていた事をスッカリ忘れていたので無理だったけど……。


 兎に角だ。

 これで、勇者のポテンシャルを手に入れた筈だ。


 取り敢えず、ステータスを見てみる。


 種族: スケルトン lv.1

 職業: 勇者

 称号: 不死者、思い出すのが遅すぎた男、骨なのに勇者、運の無い男

 スキル: 超隠蔽、不死、鑑定

 力 15

 運 3

 HP 30

 MP 80



 な……なんだこれ……滅茶苦茶弱すぎるし、残念な称号の数々。

 というか、種族が人間ではなくスケルトンになっているし……俺は既に、人ではなく魔物っていう事なのか?

 しかも、lv.1って……。

 俺は人間だった時、lv.30のそこそこの冒険者だったんだぞ!


 そもそも、俺は異世界で勇者になって、ハーレムを作りたかったのだ。

 だけど、骨の体でチ〇コもないのに、どうすればいいんだ?


「ハーレム作っても、S〇X出来ないなんて、どんな罰ゲームだよ!」


 こんな感じで、俺の異世界転生は、骨の体になってから始まった。

 

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