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6.五月病がパンデミック

今日は五月八日。

ゴールデンウィークが終わり、土曜と日曜が過ぎ、いつもの忙しい日常へ戻る時刻だ。

来るな来るなと思っても来てしまう残酷な日だ。

でも何かおかしい。

今は早朝。窓の外を見ても車は一つも通らず、歩くサラリーマンも小学生の姿も見当たらない。

一体どういうことだろう。これでは昨日と同じ。

もしかして今日も何かの祝日だったのか。

リモコンをテレビに向けた。

「ピー」

どの局も放送休止している。

ならばスマホで調べるか。

「……それらしい記事はない」

これは異様だ。

僕は部屋を出て隣人の出木杉田君のところへ走る。

インターホンを押しても反応がない。

「あれ、空いている」

あの出木杉田君がこんな横着なことをするわけ。

僕は恐る恐る扉を開く。

「なんだって!?」

緑紫の肌で唸りながら倒れている何かが玄関にいた。

まるでゾンビみたいだ。

「グルル……」

あの顔は出木杉田君。出た目玉でこちらを睨んできた。

やっぱりゾンビだ。

僕はすぐに逃げだした。殺されるという恐怖に身を震わせながら必死に走った。

「うわ!」

転んでしまった。腰が抜けた。

もうダメだ。喰われる。

どうせ喰われるなら美女が良かったと今を呪った。

「……あれ?」

いない。

全然いないのだが。

あれ、もしかして追ってきてもない感じか?

その事実に腰がビックリして立てた。

そのまま出木杉田君の部屋に音も立てずに歩いていく。聞こえるのは激しい鼓動の音だけ。

「グルワワワ……」

「いるなぁ」

こっちを睨んできている。涎を垂らしている。

どういうことだ。

ゾンビにしては大人しいぞ。

もしかしてまだ意識が少しあるのか。抗っているのか。

そうか出木杉田、俺に逃げろと言っているのか。

お前はやっぱりいいやつだな。でも、俺は逃げないぞ。

俺はお前を見捨てない。

「出木杉田!」

俺はゾンビとなってもなお、凛々しい顔つきの出木杉田に近づいていく。

「ガルルゥ!!」

「あぶな!」

普通に噛みついてきた。

意識なんもないじゃねえか。

「騙しやがって、やっぱりお前は最低な奴だな」

俺はそう吐き捨ててマンションの外へ歩き出す。

特に理由はない。


やはりまったく人気はない。

見回しても無人。車も走っていない。

なんか一人ぼっちみたいだ。

「助けてえええええええええええ!」

「なんだなんだ?」

悲鳴のほうへ走っていく。

どうやらコンビニのほうからだ。

自動ドアの向こうで倒れている薄着の美女を見つけた。

「大丈夫ですか!」

俺は美女の体を揺らし声をかける。しかし返事はない。

気絶しているようだ。

「グルルル!」

すぐ近くで仰向けになっている店員の服着たゾンビがいる。

こいつに襲われたのか。でもこいつも動いてないが。

「助けて……」

美女が薄めで呟く。何かしんどそうだ。

こういうときはどうしたらいいんだ。

医者に連れていくのが一番か。って医者もいないんだった。

じゃあ薬局でなんかの薬を取ってくればいいか。ってなんの薬を取ってくればいいんだ。

あ、だったらそれを医者に聞けばいいじゃん。って医者いないんだった。

「くそう!」

俺にはどうすることもできない。

この女は何らかの要因で死んでしまうかもしれない。

だったらできることをするしかない。

「よし!」

俺は美女の顔をまじまじと見つめた。息を呑む。

そして自分の顔を近づけた。

これは人工呼吸であってやましい気持ちはない。断じてない。

「なに!?」

「グルルワ!!」

美女が顔色変えて襲ってきた。

ゾンビになってるじゃねえか。

俺は美女にビンタしたあと、必死に走り出した。

「くそ! あとちょっとだったのに!」

悔しさを噛みしめながら走る。

でも待てよ。どうせもうこの世界はゾンビだらけなんだろ。

いつ死ぬかわからないなら、もうここで美女に殺されるほうが。

俺は立ち止り両手を広げた。

「わが生涯に一片の悔いな―あれ?」

デジャブ。誰も追ってきてない。

俺はすぐにコンビニへ戻る。

「ああ、やっぱり」

自動ドアのガラス越しに倒れたまま唸っている美女があった。

どうやら美女はゾンビになっても俺のことを嫌っているらしい。

なんでこんな世の中になってまで絶望しなきゃならないんだと俺は俯きながら自宅に帰ろうと後ろを向いた。

「止まれ!」

「え?」

「いいから手を上げろ!」

銃口をこっちに向けて黒いヘルメットに防弾着の姿が多数。軍隊みたいだ。

俺は大人しく両手を上げた。

「お前、嚙まれたか?」

「いいえ」

「じゃあ体液とか浴びたか?」

「いいえ」

「わかった。ならついてこい」

張りのある声で俺を連行する軍人。銃口は向けられたまま。

帰って寝ようと思ってたのに。


ヘリに乗り軍人は話した。

「2023年5月7日の深夜、突如日本でゾンビが大量発生した。朝方には、ほとんどの人がゾンビになってしまい、我々は生き残った人を保護している。」

まじでゾンビかよと驚いたものだ。

噛みつかれたりしたらウイルスがどうたらこうたらするらしい。

涙ながら軍人はそう語った。

「この状況は絶望的だが、阿賀背博士によると抗体があればどうにかワクチンを作れるかもしれない。そのためには抗体を持つ人間を見つける必要がある」

「へぇ?」

「君を調べさせてもらうぞ!」

「え?」

俺は基地に連れていかれた。

あんなところやこんなところまで体の隅々まで調べられた。

しかも博士はジジイだったので最悪だった。

てかそれセクハラだからな。女の子にもやっているならそれは逮捕されるべ……いや、待て。

「この作業は老人一人にやらせるには大変すぎる。俺が助手になってやろう」

「それは大丈夫じゃよ。いざとなったら若返られるから」

「おい待てよ。それはどういう―」

「知らなくていいことじゃよ」

それからの話は覚えていない。

ただ目を開けたとき軍人の人たちや看護婦の人たちが嬉しそうに涙を流していた。

「どうかしたんですか?」

「ついに見つけたんだよ!」

「ええ、見つけたんですよ!」

「何を?」

「あなたが抗体を持っている人だったんです!」

「これでワクチンが作れる! 妻も元に戻る!」

そうか。俺が救世主だったのか。

どこか嬉しい。

「む? 起きたかね?」

「博士!」

軍人は目を輝かせた。看護婦は俯いた。

だけどこれでもう終わりなんだ。後でこのジジイを訴えればいい。

「これでゾンビは無くなるんですよね!」

軍人は博士に言う。

だが博士は首を傾げた。

「何を言っておるんじゃ?」

「え? 抗体が見つかったって」

無慈悲に博士は涙を流す軍人を馬鹿にしたような目つきを飛ばす。

「ああ、確かにこいつは抗体じゃよ」

「じゃあ」

「抗体は抗体でも五月病の抗体じゃがね」

五月病の抗体?このジジイ、ボケてるのか?

「これでワクチン作って投与しても、ゾンビが動き回るだけじゃよ。わっはっ―ぼふ!」

軍人は博士を殴った。何度も殴った。

そのせいで博士は気を失い、三週間たった今も起きていない。


どうやらゾンビも五月病になるらしいです。

なお、主人公に抗体があるのは引きこもりだからです。

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