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17.勇者は魔王に共感しない

昔あるところに国がありました。

民は平和に過ごしていました。

しかし魔物が現れると、民はその恐怖に怯え、国は闇に包まれた。

このまま国は滅ぶのかと危惧したそのとき、勇者が現れた。

彼は「私が悪の王、魔王を倒してきましょう」と言って、遥かなる旅に出たのだ。


15時の時計を見つめ、お菓子をつまみ食いしている、血色の悪いオッサン。その頭には王冠がある。

「そろそろか―」

「勇者参上!!」

勢いよく扉を開け、ドヤ顔を見せつける、若い少女。

「お前が魔王だな!」

「ああ、そういうのいいから。座って座って」

「あ、はい」

少女は勇者。オッサンは魔王。椅子に座り、面と向かう二人。

勇者が現れたのに、魔王が驚かないのは、勇者がこの時間に来ることを知っていたからである。それは水晶で覗いたとかではなく、電話である。今の時代、魔王城もアポが無ければ入れないのである。

「ファンタジーの世界に電話なんてあっていいの?」

「スティーブなんたらが、発明しちゃったから仕方ないじゃん。便利なんだもん」

幻想と書いてファンタジー。

つまりなんでもありということでいいでしょう。

「で、なんで勇者さんは私を倒しに来たんですか?」

「それは私が勇者だからです」

「……は?」

「使命だからです」

魔王が倒されるランキング一位。使命。

もう少し具体的に理由を伺う魔王。

「だって、悪いことしてるじゃん? ほら、村焼き払ったりとか。人襲ったりとか」

「先にやってきたの、人間じゃんかよ」

「へーそうだっけ?」

とぼける勇者に対して、魔王は資料を手渡した。

資料には様々なグラフと文章が書かれている。

「ケガ人とか、修繕費とか、こっちのほうが圧倒的に多いのですよ。むしろ、ボコボコにされてんのこっち」

「だったらなんです? 魔王がデータなんて使わないで」

「いやさ、私たちはちゃんと、村人がいない時間帯に焼き払ったんですよ。でもあんたらは、いきなり火炎瓶とか投げてきたじゃん。ちょっとひどくない?」

魔王の嘆きに勇者は欠伸した。

なお、魔物のケガ人の大多数は勇者のせいである。

「あーもう、めんどくさいから、そろそろ決着つけよ」

「いやいや、なんでそうなるです? 話し合いで解決しましょうよ」

「そういうのは、私じゃなくて王様に言ってよ」

「だってメールしても既読無視するもん」

魔王は水晶に映る王城を覗いた。

巨大な結界に城は囲まれている。

「知らんわ、めんどくさいな。もう倒されればいいじゃん」

「それは困るって、勝てる気しないもん」

「えー」

「このまま戦ったら瞬殺だよ。それでいいの?」

「よくない?」

「まだ旅を始めて一時間だよ。歯応えなく終わっちゃうよ?」

「まぁそうかなぁ。あ、じゃあ四天王とかと一緒にかかってきていいよ。負けイベントにしよう」

「四天王とか将軍とかもういないよ。あんたが全部倒しちゃったから」

魔王はいろいろ言いたいことがあるらしい。

資料の一部を示した。

「しかも私を倒したところで、世界は平和にはなりません。これが推測データです」

「あー? よめなーい」

勇者は田舎娘だった。

しかし義務教育もまとめでないのは、まともに学校に行っていない不良だったからだ。

「あーもうめんどくさい。もういいよ。戦おう」

「いや、だから私を倒しても―」

「だからもう、あんたを倒したことにして、もう終わりでいいじゃん。瀕死までにしとくから、死んだふりでもしてスマホで写真撮ればいいよ」

「いや、それはできない」

「なんで?」

「魔王としての尊厳が……」

「もう魔物、ほとんど病院にいるよ? もういいじゃん」

「でも……」

「白旗上げるか、死ぬかだよ。降参してもたぶん処刑じゃん、死んだふりのほうがマシだよ」

痛いところを突かれた魔王。

まさか小一時間で魔王軍勢がほとんどやれてしまうことは想像できなかった。

アポとか言ってたけど、あれは遺書を書く時間を確保するためだった。

「じゃあ入ってくるところからやり直すんで、あそこの玉座? に座っといて」

「あ、はい」

年齢200歳の魔王、15歳の少女の言いなりとなる。

渋々玉座に座っていった。

「魔王! 私は勇者! 倒しに来たぞ!」

「よ、よくぞ、来たな、勇者よー」

「ちょっと、ちょっと、しっかりやってよ。情けないって」

「いやでもさ、もう魔王軍、俺しかいないし」

「自信ないのわかるけど、それじゃ盛り上がんないって」

「でも……」

「言わせてもらうけどさ、私、あんたを倒すために三年くらい修行してたの。けっこうきつかったよ。なのになにこの弱さ、ふざけんな。時間返せ」

「ご、ごめん」

完全に心が折れている魔王。

もう威厳とかプライドとかそんなものは粉々になっていた。

「もうさっさと終わらせよ、ほら、魔王っぽいセリフ言って」

「ご、ごほん……どうしてこの世に悪しき者は存在するか。どうして我ら魔物が存在するのかわかるか。それはお前ら人間が―」

「あーもういいや!」

一撃で魔王は倒された。

半ば魔王のめんどくささに、うんざりしたらしい。


魔王が倒されたことにより国は平和に戻った。

しかし数日経つと、また新たな魔王が現れ、再び国は闇に覆われた。

そのとき勇者はバカンスに行っていたため、国は滅んだ。

終わり。


なんだこれ


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