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1.夢と死

 この世には法則がある。地球上のどこかで物体を落とせば、だいたいその物体は一直線に地面へ落下していく。この摂理を変えることはできない。仮にできたとしても、それも法則の上ということになる。


 すなわちほとんどすべてのことは決まっているといえる。計算しきれるかは不明確であるが、法則さえ応用できれば事象は再現可能なのである。たとえば、お気に入りの店で出てくる美味しい料理の味がほとんど変わらないように。


 だがこの事実を認められないのが人間である。魂や意思というものが法則的であるか、また機械的であるのか。これに対する答えを模索すると頭が痛くなり、自分を見失ってしまう。

自分自身が誰かに操られているのと変わらない。もしそうであれば今までやってきたことに意味があるのかとか、自分が存在する理由はどこにあるのだとか。


 また、それに抗うことは無効か。完全に覆すことのできない法則というものを否定して生きていくことは無意味なのか。

 

 これらに葛藤するある男の話がある。


彼は有名なスポーツ選手の息子であった。テレビで活躍する父親の姿に憧れ、自分も同じように偉大でカッコいいスポーツ選手になろうと心煌めかせていた。

そのために彼は父親へ積極的にそのスポーツを教わった。そのおかげもあり、彼は小学生のときから周りとは比べ物にならないほど強い選手であった。しかし彼はそこで満足せず、さらに努力を続けた。友達が遊んでいるときも練習ばかりして、恋愛もすることはなかったのだ。

そこまでしても負ける日もあり、そんな日は寝る時間を削って必死に練習に取り組んだ。父親からやめたほうがいいと注意されても彼は続けた。だれもその野望を取り上げることはできなかったのだ。どうなってもいいから勝ちたかったのだ。

でも彼は高校の大会で優勝することはできなかった。不幸にも原因は怪我などではなく、技量であった。どれだけ汗を流しても叶わないことがあると実感した。そのときは枕を涙で濡らし、好きだったスポーツも憎み、これまでの時間の無謀さを恨んだ。


だが次の日の朝には練習を再開していた。気持ちよりも先に体が動いていた。


 彼の実力は十年に一人の逸材と言われるほど卓越していた。それゆえに国境を越えてまでオファーが届いていたのだ。初めは外国に行くつもりはなく、国内のチームに所属しようとした。彼は自分の実力を認識していたためである。

 最終的に彼は外国へ向かった。父親に背中を押されて、挑戦しようと思ったのだ。たった一人で言葉も通じない場所に足を踏み入れる恐怖に苛まれつつも、未知の領域への寸分の好奇心に震えていた。

 

 それから数十年。彼は見事に世界屈指のスポーツ選手へ成長し、夜な夜な観客の期待を裏切らない活躍をした。


 殴り合ったチームメイトとも協力し、テレビの世界の超越的だった選手と肩を並べた。怪我をしながらも踏ん張り続けた。また結婚もした。

家族を持ち、さらに心を強くもった彼は着実に実力を上げていき、ついに優勝した。彼は初めて憧れに到達し、ようやっと彼の努力は実ったのである。諦めなければ成し遂げられるということをトロフィーに流れた涙が証明したのだ。

 その後も昼夜年中スポーツに熱中して、怪物たちをなぎ倒していった。何度も勝ち、何度も負け、その度に自分を見直し、鍛えた。

もはや気持ちだけでもなく、才能だけでもなく、運だけのようにも思えた毎日。負けた原因がわからない日は全てに嫌われたように思えた。そのたびに家族を思い出し、現実に立ち向かおうと決心し直す。

その辛い日、ガックリして帰っていく背中、それを裏返し歓喜に覆われた日を繰り返し、何度も泣き笑って過ごした。優勝したときに一番うれしいのは観客の声援だった。信じてついて来てくれたことが嬉しくてたまらなかった。


でももう体は限界であった。彼は引退を表明した。


 やりきったと言えば納得できる気もした。すべての人の感謝された気もした。だけどもうあの時間に戻れないと思うとやり切れない。ここまで諦めきれなかったこと、無理だったことも死ぬ気で続けてきたから、もう不可能だという現実への悔しさが残る。

 同じように引退したあの人に聞けば、仕方ないと言われた。別の人はあの日々が尊いからこそ価値があるのだと言った。いくらかその言葉で誤魔化そうとしたが、気づけば練習しようとしている自分がいた。初めて少しで体が痛む。

 限界だということはわかっているはずなのに、やめられない。無理だと告げられてもまだ可能性をどこかに探してしまう。それほどに彼は愛していたのだ。このスポーツができないのなら生きる価値がないと続けてきたからこそ。


 彼は自殺した。多くのファンがその死を嘆いた。


やっぱり巨乳派です。ごめんなさい。

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