地下牢⑦
自分の部屋から見て正面の抉れた地面が見える部屋を這いずり出た。
布の切れはし越しからも焦げ臭さが鼻について、若干の肉の焼けるような香ばしさが漂ってくる。
上空のほうは白と茶色が混じったような煙が残る物の地下牢周辺の景色が見えてくる。
地下牢は2回建てのアパートのような高さの要塞にあったみたいで、中世をイメージさせるような石材のブロックで作られているようだった。
這い出た周囲以外にも爆発で破壊されたのか、転々と壁に大きな穴あいていた。
はっきりと見えないがこの壁は500mほど横に延びている。けっこうな長さだ。
端まで行くとさらに真横に壁が続いているので、正方形つくりの要塞なのかもしれない。
中央に目を凝らすと布や木材が散乱していて所々燃えている。見たことのない車輪のついた箱のようなものがたくさん倒れている。
「三つ指だから、カエルのような顔って思っていたけど、顔は普通の人なんだな……」
散乱している物以外に看守と同じような服装の生き物が目に見える範囲で数人倒れていた。
遠目ではっきりとしないが顔の作りは元の世界の人間と同じだ。
「た、助けるべきなんだよな。死んでたらどうしようか」
「死んでいるかもしれない人を助けるのは、誰にとっても不安なことです。周囲の状況を確認し、リスクを評価してください。また、自己防衛具や適切な道具を使うことで、自分自身の安全を確保することができます。」
普通の高校生をしていたら経験する事のない状況に足と声が震える。
AIさんの機械的な聞き慣れた声に安堵感を抱きながらも目の前に意識を戻すと非現実感に吐き気がこみ上げてくる。
とりあえず言われた通りに周囲を観察してできることをしていこう。
幸いなことに中央手前のところに水桶が見えたので口の中に入らないように身体と布に水をかける。
大規模に火が生じてはいないが熱風により皮膚の表面がジリジリしていた。
中央で倒れている人はここより熱いはずだ。全員は無理だけど火から離れている人は助けたい。
水をかぶって熱さは和らいだものの、目を開けていると乾燥してきて何度もまばたきをしてしまう。
半目になりながら、煤汚れる中央に向かい、一番手前の倒れている人に声をかける。
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
水をかぶっている間、話が通じない時のことも考えて英語やら身振りをしたほうが良いのかなと考えたけど目の前まで来ると余裕がなくなり同じことを繰り返し聞いてしまう。
「火が近いからあっちまで運びますよ」
「んがあ、ぐあ、くとぅるふ、ぐあ、たん」
ま、まさか、彼の神様の信者たちなのか。三つ指なのもなんだか納得してしまう。
心なしか看守の服装と思っていた服も信者の正装のように見えてきた。
この要塞は宗教的な建造物で、俺は異教徒か生贄か、目的があってとらえられていたのかもしれない。
元の世界のTRPGな知識が非現実的な状況を上回って一瞬思考停止ーー冷静になれたが、すぐに本来の目的を思い出す。
「無理だけど引きずっていくから」
「らぁ、つたむ」
脇の下に腕を差し込み足を引きずらせるように火から遠のいていく。
脱力していて自分よりも背丈があるので本人には悪いが早く火の手から離す。
水桶の近くまで来たところで仰向けに寝かせる。地面に直接だが枕代わりに厚みのある板を挟む。
息も無理なくできているようで、大丈夫そうだと判断して、次の助けられる人がいないかと中央を再度見返す。
先ほどまではなかったところまで火が移動していた。
燃えやすいものもなかったけど、油が流れ出たのかもしれない。地面の液体に沿って火の範囲が広がっていた。