2 野良犬ちゃんをお風呂に入れたらめちゃくちゃ嫌がられた
僕は鳥の鳴き声で目が覚めた。
僕は目覚まし時計というのは嫌いだ。あの無理やり起こす方法は体のリズムを壊すので絶対に身体への負担が大きい。
さてと、起きるか…。
身体を起こすためにベッドに手をつくと妙なふくらみと感触があった。
「あれ?なんだ?この異物は…。」
僕はかけ布団をめくると、そこには裸の幼女が寝ていた!
「どわあああああぁぁぁぁ!」
幼女はめくられた毛布の中にまたするすると入っていくと顔だけ出した。
「おはよう。お兄ちゃん!」
「お前、なんでここで寝てるんだ!」
「ここが落ち着くから…」
「なんで裸なんだ!昨日服を着せただろ!?」
「寝てる間に脱げちゃった。てへぺろ。」
「とにかく服を着なさい!」
これからこんな日々が続いていくのか…。
僕の静かでまったりとした朝が…(泣)
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昨夜…
「よろしくね。お兄ちゃん!」
うーん…
それにしても、すごい汚れているな…髪はボサボサでノミとかシラミがいそうだし、身体もよごれだらけ。おまけに、この幼女の足跡がそこら中に付いている。
こんな状態で家に入れるわけにはいかない。
「まず、家に入る前にお風呂で身体を洗うぞ。」
「お風呂?」
よく分かっていないようなので、そのまま抱え、風呂場に連れていき、シャワーをかけた。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁああぁぁーーー!やだやだやだやだ!」
「こら!暴れるな!」
あとで分かったことだが、犬はお風呂がストレスになるらしい。
自由に動けなくなるストレス、シャワーの水圧によるストレス…。
「特に髪が汚いからシャンプーするぞ。」
僕は人間用のシャンプーをかけてごしごしと洗ったが、全然泡立たない。
「毛が逆立って気持ち悪い!匂いが強すぎて鼻がもげるー!」
「そんなこと言っても、もっと洗わないとしつこい汚れが取れないぞ!」
「いやだー!早く終わってーーー!」
うーん…犬はお風呂が嫌いなのか。しかたない。
僕は幼女を抱きしめると、背中に手を回させ、ぎゅっとできるようにした。
「大丈夫。もうすぐ終わるから、お兄ちゃんをぎゅってしてなさい。」
まだストレスで震えているが、ぎゃあぎゃあと騒ぐことはなくなった。
よし、それじゃあ乾かすか。
僕はバスタオルで身体中を吹いて、髪の毛にドライヤーで乾かした。
「これすごくうるさい…。」
幼女はドライヤーを指さして言う。
「そうだなぁ…人間でもうるさいと感じるからなぁ…。」
ある程度乾かすと、今度は髪にブラシをかける。
自分にブラシをかけたこともないが、やっぱり女の子だからきれいにしてやりたい。
今までの自分では絶対に思いつかないだろう。
とりあえず幼女の髪にブラシをかけてみた。
「痛い痛い痛い!」
髪が引っかかって、思い通りにブラシが入っていかない。けっこう洗ったのになぁ…。
僕は髪が痛くならないように、根元を手で押さえながら、少しずつブラッシングをしていった。
ボサボサだった紙がだんだんブラシが通ってさらさらになっていく。
本当は腰まである長い髪を切りたいところだが、今日はこれくらいにしておこう。
久々に達成感を感じたような気がする。
「はい、今日はこれでおしまい!またお風呂に入ろうな」
「やだっ!」
お風呂は嫌われてしまったようだ。ちょっとストレスにならないような入れ方を考えていかないとな。
少し落ち着いて自分の腰を見ると大量の抜け毛が…。
まさかと思い、風呂場を見ると排水口が抜け毛で詰まっている…。
僕は抜け毛の掃除をしていると幼女はリビングではしゃいでいた。
「ひゃっほー!」
ソファで飛び跳ねたり、破壊された窓から入ってくる風を感じたりとリラックスをしていた。
お風呂のストレスから解放されたからか、少し興奮状態になっているようだ。
「頼むからその辺のものを破壊するなよ。お前の攻撃力は規格外なんだから」
「はーい!」
抜け毛の掃除を終えると、幼女が近くに寄ってきた。
「どうした?帰り道まではもうちょっと距離感があったのに。」
「んーん。今はこれが一番ちょうどいい距離感!」
そうか。心を許してくれている証なのかな?
「そういえばお前…」
うーん、いつまでも「お前」って呼ぶのもかわいそうだな。
そうだ!名前が欲しいな。
「お前、名前はあるのか?」
「ううん、ないよ」
「じゃあ、お前に名前を付けようと思う。」
「ほんと!?…でも名前をつけるとその人の精神力を使うっていうけど大丈夫?」
どこの知識だよ。
「ちなみに僕の名前はササミ。」
「ササミ好き!」
急に好きと言われるとドキッとするなぁ。
「ササミだけじゃなく、牛肉とか、サツマイモも好き!」
なんだ。僕の名前を鶏のササミと勘違いしただけか…。
少しがっくりした。
「うーん…。牛肉、サツマイモじゃあ、名前にしにくいな…。」
ペットとしてでなく人間として生きていくためには、人間の名前としてもおかしくない名前じゃないといけないぁ。
「他に好きなものあるか?」
「うーん。チーズ、かぼちゃ、ばなな、桃、林檎…」
けっこう贅沢なもの食べてるなぁ。生ごみを漁りながらいろんなものを食べてきたのかな?
「おっ!桃とか林檎なら人間の名前でもいそうだな。どっちがいい?」
「桃!」
「よし!それじゃあ、お前の名前は桃だ!「栂村 桃」(んがむら もも)!」
「わーい!私の名前!うれしい!でも苗字がダサい…。」
「変えられないからしょうがない。僕も幼稚園からそれでいじられ続けてるよ…。」
これで、幼女…もとい桃も少し人間らしくなってきた。
「よし、それじゃあそろそろ寝るか。そのうち犬小屋みたいなのも飼ってやるからな。今日は部屋の隅で毛布を掛けてやるかなら勘弁してくれ。」
「おやすみ、桃」
「おやすみ、お兄ちゃん」
そして、朝…
桃は僕のベッドで裸で眠っていた…。