残された者
王宮とはいえ、下級侍女の部屋は狭い。
エミリーとシャルナは二人部屋で、高位貴族であるエミリーがよく耐えている。
シャルナが危険だと言うたびに、エミリーは楽しいから大丈夫と笑った。それが、シャルナには嬉しくって、エミリーは絶対に守ろうと思う。
その夜もいつもと同じ夜だった。
すでに、エミリーもシャルナも眠りについていた。
ただ眠れなかっただけかもしれない、それとも何か予感がしたのかもしれない。
シャルナは、ベッドに仰向けになって天井にある染みのような汚れを見ていた。
原作では王とはどんな人だった?
何度も読み返したのに覚えてないということは、書かれていなかった?
原作は、悪役令嬢クリスチーネを断罪して、大団円で終わっているけど、現実はそうではない。
当然だ、その後も生きて行くんだから。
そしてシャルナとミレミアが違うけど、原作では王の希望通り、聖女はハウエルの妃になった。
ここにきて、強制力というやつなのか?
窓の外で何かが動いた。
シャルナはエミリーを起こさないように気をつけながら、部屋をそっと出る。
動いていたのは、女性だった。
近寄ろうとして、女性を警護する騎士が控えていることに気づく。
騎士の方も、当然シャルナに気がついていて、言葉も出さずに威圧してくる。
下級侍女のシャルナは、小さく礼をして夜の暗闇に隠れていく。
あの女の人誰だろう?
警護が付いているって、王族か高位貴族に違いない。
考えながら歩くシャルナの前に、イルゼーンが立っていた。
シャルナに隠れて付いている護衛が、イルゼーンに知らせたらしい。
「ゼーン、あれは?」
イルゼーンは、シャルナを案内しながら答えた。
「王妃陛下だ。
唯一の王子ハウエル殿下が、王太子から外されて伯爵に降下されたのと、王陛下が新しい愛人を囲われている事で、心に異常を起こされている。
夜になると、王宮を歩き回ってハウエル殿下を探しておられる」
イルゼーンの後ろを歩いて良かったと、シャルナは思う。
あまりの驚きに、この表情を見られなくて良かった。
ハウエルは、クリスチーネと婚約解消してミレミアを次の候補とした。
ミレミアの悪意には関わってなかったが、クリスチーネを第2妃に望み、拉致して強姦未遂で、ジョサイアとアルフレッドを激怒させた。
それでも、王妃にとって、ハウエルは期待の王太子であったのだ。
ミレミアと関わるまでは、優秀な王太子であり、女性を襲うなどありえない事だった。
シャルナも優香の記憶がない孤児院の時代は、ハウエル王太子を敬愛していた。国民として、ごく当たり前の事だった。
ハウエルは己の行いを報う事になったが、大きな影響を残した。
「陛下は、王妃様の事?」
放置しているの、と言葉は続かなかった。
「知らないはずなかろう。
王は、この国の最高権力者だ」
前を向いたまま、イルゼーンは歩みを止めない。
イルゼーンはアルフレッドから、王妃の事を聞いていたのであろう。
ハウエルに王妃がいたように、ミレミアにも家族がいたろう。
優香がライトの下敷きになって、ママはどうしたのかな?
今頃思い出すなんて、ママが拝金主義と思っていたけど、私も親不孝だ。
アルフレッドに会いたいな・・・
イルゼーンはシャルナが部屋に入るのを確認すると、見つからないように足音を忍ばせて離れて行く。
「いなかったから心配した」
部屋に入るとエミリーが起きていて、シャルナの姿に安心したようだ。
「ごめん、少し気になることがあって。
そこまでゼーンが送ってくれた」
待っていてくれて、ありがとう、エミリー。
シャルナの心が温かくなる。
「そう、それなら良かった。もう、寝よう」
エミリーがベッドに横たわると、シャルナもベッドに入った。
ベッドが暖かくて、ゆっくり目を閉じると、すぐに寝入ってしまった。




