アルフレッド・ジブゼレラ
国軍第1部隊の将校であるアルフレッド・ジブゼレラは訓練中に急な来客の連絡を受けた。
「なんだ、ジョサイアか、緊急だというから何かと思ったよ」
ジョサイアの姿を見て、アルフレッドは片手を上げた。
「緊急だ」
王太子の側近のジョサイアが真面目に言うから、アルフレッドは考えた。
今日は、聖女が見つかったと聞いて王太子が会いに行ったはずだ。
そこにジョサイアとクリスチーネも同行することになっていた。
本物の聖女ならば、何十年ぶりということになる。
「すぐに屋敷に帰ってほしい。僕が乗って来た馬車がある」
「ああ、我が家の馬車はすぐには準備はできないだろうからな。そんなに急ぐのか?」
普段の帰る時間からはかなり早い。
馬車から馬は外して休ませているだろう。
「僕も信じられないことが起きている」
ジョサイアが言えば、アルフレッドが断ることはない。
「そうだ」
とアルフレッドは近くにいた兵士にメモを渡した。
「これを我が家の馬車の御者に渡してくれ。
僕は先に帰るので、今日の夕方に注文した本が届くから、書店に寄ってから館に戻るように言づけてくれ」
「はい、士官殿」
兵士が去ると、アルフレッドは屋敷に持ち帰って処理する書類を鞄に詰めて立ち上がった。
馬車の中で、ジョサイアは大まかな説明をする。
「シスター見習いが、力を隠していたなど信じられないな。
しかも、街で見つかった聖女候補よりも力が強いなどと」
アルフレッドの言うことはもっともである。
聖女を保護する場所にいながら、隠し通せるなどありえない。
しかも、併設の孤児院の出身ならなおさらだ。
「力だけでない、彼女が孤児の平民とは信じられないと思うぞ、本人を確認すれば分かる」
ジョサイアは、自分も感じている異様さは言葉では説明できない。
部屋の外があわただしくなって、クリスチーネは立ち上がった。
「お兄様が帰ってこられたに違いないわ」
その言葉が終わらないうちに、ノックされてトビラが開いた。
アルフレッドは聖女というシャルナにまず視線を向けた。
シャルナは、両手で口元を覆って震えながら立ち上がった。
「完璧です!」
クリスチーネと同じ銀の髪、整った顔にひきしまった身体、長い手足、何よりも軍服である。大股で歩く姿は勇ましい。
もう、鼻血がでそうだ。
「絶対に、死なせません! 失ったら人類の損失です!」
シャルナの理性はボロボロになって、本音になっている。
「シャルナ、死なせない、ってどういう事?」
クリスチーネの言葉で、やっとシャルナが現実に戻ってくる。
「あ、うーん」
シャルナも、小説の中でクリスチーネは一人っ子だったからとは言えない。
「稀に未来が分かる時があって、クリスチーネ様は兄弟はおられず喪服であったのです」
そこまで言われれば、クリスチーネ達も分かる。
アルフレッドが亡くなるのだ。
「お兄様なのね? それで直ぐに戻すように言ったのね?」
自分が死ぬと言われたアルフレッドは、気分のいいものではない。
「失礼だが、僕には信じられないな」
シャルナは、アルフレッドを直視できないとばかりに目を細めて見る。
眩し過ぎて、本能が血圧を上げている。
「クリスチーネ様のお兄様、どこかケガをしているところはありませんか?
私はシャルナといいます」
名前を知らないから、こう呼ぶしかない。
それで、アルフレッドも名乗ってなかったと思いだした。
アルフレッドを見たシャルナが興奮して、名前どころではなかったのだが。
「僕は、アルフレッド・ジブゼレラ。
軍部で第一部隊の将校をしている。
ケガといえば、訓練中には多少の傷はできる。大したことはないが、今朝の鍛錬で腕に」
言いながら、アルフレッドは上着を脱ぎ、シャツの袖をまくると、すでにカサブタになったキズがあった。
「はぅ!」
上着を脱ぐためのボタンを外す仕草が色っぽ過ぎる。シャルナは鼻を押さえながら、もう片方の手で、恐る恐る傷に触る。
もう、頭の中は桃色、アルフレッドの筋肉乱舞、である。
一瞬触っただけなのに、カサブタだった傷は、傷跡もなく完治していた。痛みも違和感も感じない。
アルフレッドは、不思議そうに傷のあった腕を動かすけれど、支障になるものはない。
小さな傷とはいえ、シャルナが傷を治すのを初めて見たクリスチーネとジョサイアも、奇跡に立ち会ったかのように感動していた。
「間違いなく聖なる力だ。
そうなると、聖女殿の仰る僕が死ぬのは真実ということなのだろう」
アルフレッドが達観して、シャルナに向き合ったが、シャルナの方が床に手をついた。
「嫌です!
絶対に死なせません」
これほどの目の保養、助けてみせます、そのために私はこの世界に来たに違いない。
でも・・・ちょっと汗臭かった。
見る分にはいいけど、男らしいって、近寄ると汗臭い。
クリスチーネは礼拝堂で近くにいたけどいい匂いだった、女の子もいいかも。
シャルナの中の優香は、煩悩まみれである。




