クリスチーネの拉致
シャルナの教室に駆け込んで来たのは、クリスチーネのクラスメイトの令嬢だ。
「クリスチーネ様が!」
急いでかけて来たのだろう、ドレスは乱れ、肩で息をしている。
「王太子殿下が、クリスチーネ様を無理やり引っ張っていきました」
ガタン!!
シャルナが急に立ちあがった為に、椅子が大きな音を立てて倒れる。
「どこ!?
クリスチーネ様はどこ!?」
シャルナは令嬢の肩を掴んで、クリスチーネの居所を聞く。
「分かりません、後を追おうにも殿下の側近の方が邪魔をして、
だから、ここに知らせに来たのです。
聖騎士様に知らせるのに、もう一人が教会に向かってます」
イルゼーンが教室から飛び出し、シャルナは追いかけながら指示をする。
「ラジー、ヤフレッツ先生と王宮のジブセレラ公子に連絡して!
他の生徒の目撃者を辿れば、居場所にたどり着けるわ」
警備が強化されたから、学院からクリスチーネ様を連れて出られるはずがない。きっと学内に居る。
「私がヤフレッツ先生に知らせに行くわ」
そう言って、エミリーは駆け出し、ジャスミンは座り込んでいる令嬢に付き添っている。
その様子をミレミアが見ていた。
殿下が、公爵令嬢を連れ去った?
どうして、いまさら公爵令嬢なの!?
きっと、あの部屋に連れていったに違いない。
教室の中は大騒ぎになっていて、ミレミアが教室を出て行くのに気が付いた者はいない。
ハウエルはクリスチーネの身体を放すと、後ろ手に教室の扉を閉めた。
そこは空き教室で、ハウエルの側近候補の学生達も後ろに控えている。
口を塞がれ、抱えられるように連れて来られたのが離されて、よろけるように床に倒れ込んだ。
「この淫売が!
お前はいつからあの騎士と通じていたのだ!」
ハウエルは怒りも顕わに、クリスチーネを罵る。
反対に、クリスチーネはハウエルの言葉の意味を半分も理解できない。
いったい、何を言っているの?
あの騎士とは誰だろう?
だから、反応が遅れた。
ハウエルが再度、クリスチーネの腕を掴む。
「止めてください、殿下!」
クリスチーネの叫び声が、教室に響く。
クリスチーネを連れ去るハウエルの目撃者はたくさんいた。
身体を寄せ合って歩いている王太子と公爵令嬢は、公爵令嬢が抵抗しているようにも見えたからだ。
それを王太子の側近候補達が囲って、見えなくさせているのは不自然であり、他の学生が近寄らせないようにしていたからだ。
イルゼーンの後を追うようにシャルナが入ると、すぐにキースと合流した。
キースも全力で走ってきたのだろう、額に汗が流れている。
「こちらです!」
生徒の中には、クリスチーネを心配して後を追った者がいて、道案内をしてくれた。
そして、辿り着いたのは、専門授業で使う教室が並ぶ一角だ。
専門授業がない時は、人も少なく、空き教室のようになっている教室もある。
道案内した生徒が、空き教室の前で身を屈め、ここだと囁く。
強行してクリスチーネに危害が加えられないように、慎重に扉をゆっくり開こうとした時に中から、ハウエルの声が聞こえた。
「お前は婚約時代から男をくわえこんでいたんだ。とんだあばずれだな!
公爵家も知っての上で、僕を騙していたのは反逆ということだ」
原因はクリスチーネにあるとして、クリスチーネの抵抗を封じてしまえば、おとなしくなるだろう。
そして、他の男に嫁げない身体にしてしまおう。
既成事実が出来れば第2妃になるしかないだろう、とハウエルは企んでいるのだ。
いきりたつシャルナが扉に手をかけた時、下衆な笑い声が聞こえた。
「殿下、次は俺らにまわしてくださいよ」
ハウエルの側近候補の声が聞こえる。
「バカな事言うな、おま・・」
ハウエルの声は扉が開く音にかき消された。
ガンッ!!
扉を叩きつけるように開けて、キースが教室に飛び込んだ。
クリスチーネの腕を掴んでいるハウエルの手を捩じって放させると、その勢いのまま殴りつけた。
ダン、音を立ててハウエルは倒れ込み、尻餅をついた。
キースはハウエルを見もせず、上着を脱ぐと、恐怖で震えているクリスチーネにかけた。
「もう大丈夫です、クリスチーネ嬢」
小刻みに震える身体を両手で抱いたクリスチーネが、キースを見上げる。
瞳は潤んで揺れている。
「キース様・・」
言葉と共に、涙が流れ落ちた。




