キースの警護
1週間の学院の閉鎖の間に、学院の警備は強化され、外部からの出入りが見直された。
学院が再開されたが、軍の巡回警備の対象地点となった為に、ものものしい雰囲気になっていた。
ジブゼレラ公爵家の馬車が正門に着くと、ライジーとジャスミンが駆け寄って来た。
馬車の到着を待っていたらしい。
シャルナ、クリスチーネと順番に降りる。
「では、クリスチーネ様、行ってまいります」
シャルナがライジー達と教室に向かうと、クリスチーネも友人の令嬢と3年生の教室に向かう。
イルゼーンは、重症のケガが1週間で治ったとするわけにはいかず、後1週間治療の為に休学することになっている。
「クリスチーネ」
後ろから声をかけてきたのは、ハウエルである。
「おはようございます、王太子殿下」
学生らしく過度にならない挨拶をして、クリスチーネはハウエルには近寄らない。
「同じ教室なんだ、一緒に行かないか?」
ハウエルの言葉に、クリスチーネは即座に否定する。
「申し訳ありません。
もう婚約者ではありませんので、同行できかねます」
「そんな事言っていいのか?
公爵家で保護しているあの少女が、聖女であるミレミアを虐めているそうじゃないか。
聖女は国の重要人物だ、公爵家の責任問題だぞ」
だからクリスチーネにハウエルの言う事をきけ、とハウエルは言っているのだ。
クリスチーネが友人に目配せをすると、彼女は1歩、クリスチーネから離れる。
それを見て、ハウエルは自分の言い分を認めたかと、口元を緩める。
「殿下、ミレミア様は聖女候補であって、まだ聖女ではありません。
それをお間違えないようにしてください」
クリスチーネにとって聖女はシャルナであり、ミレミアが聖女と認められることはないと考えている。
「ミレミアしか大きな聖力を持っている者がいないのだ。ミレミアが聖女になるのは決まっている。
王家に聖女を取り込む為に、婚約を解消したことで機嫌を悪くしているのか?
仕方ないとわかっているだろう?」
ハウエルがクリスチーネの手を取ろうとしたのを、クリスチーネはかわす。
「殿下、不用意に令嬢に近づかれませんようお気を付けください」
後ろから声をかけられて、ハウエルが振り返ると、そこには聖騎士の制服のキース・カニンガムがいた。
「カニンガム卿」
クリスチーネが安心したような表情でキースに声をかけるのが、ハウエルは気に入らない。
聖騎士で1番の実力があり、見目麗しく、令嬢達に人気があることはハウエルも知っている。
「どうして部外者が学院内にいる?」
ハウエルは警備強化されたはずだ、とキースを追い出そうとする。
「今日からしばらく、学院内の教会に派遣されましたキース・カニンガムです。
ジブゼレラ公爵の依頼を受け、ノラロ司祭の指示で参りました」
学院内の教会と言っても、礼拝堂があるだけの小さな建物だ。聖騎士のトップが警備にくる教会ではない。
つまりは、学院に滞在する為に、学院内の教会に派遣された形になっているという事だ。
しかも、それはクリスチーネを警護する為であり、ジブゼレラ公爵の依頼だとハウエルは理解したが、自分からクリスチーネを遠ざける存在であるとも理解した。
「ジブゼレラ公爵家のクリスチーネ様とシャルナ様を、お守りするのが役目です。
以後お見知りおきください」
キースがハウエルに挨拶を終えると、クリスチーネは友人と共に歩き出し、キースがその後を守るように歩く。
それを見ながら、ハウエルは拳を握りしめた。
父親である王は、クリスチーネを第2妃にすることを諦めて、他の令嬢を探すように言われている。
クリスチーネ本人の希望であると、言わせないとダメなのだ。
ミレミアでは王太子妃の公務はできない、と誰もが思っている。
「カニンガム卿、ありがとうございます」
教室まで送られて、クリスチーネはキースに礼を言う。
「クリスチーネ様、どうかキースとお呼びください。しばらくお側で守らせていただきますので」
聖騎士の制服で教室までくるのだから、キースは目立っているが、キース自身が普段から目立つことに慣れているので、周りから注目を浴びていても平気である。
クリスチーネが教室に入ると、あの聖騎士は誰、とか、有名なキース・カニンガム様よね、とクラスメイトに囲まれて、遅れてやってきたハウエルが近寄る隙はなかった。
キースがクリスチーネを警護する為に、学院の教会に居るという話は学院中に広まり、キースに警護してもらいたかったミレミアは、クリスチーネへの不満を煽るのだった。
「クリスチーネ様はジブゼレラ公爵家の力を使って、聖騎士であるキース様を無理やり護衛にしているのよ。
キース様は聖騎士の尊厳を踏みにじられているのだわ。
公爵家って、何でも許されるのね」
それは、クリスチーネを妬んでいた者達には心に響く言葉だった。




