ジブゼレラ公爵家の駆け引き
学院を出て、騎馬で軍本部に向かう。
アルフレッドは、風を切りながら、その気持ちよさを堪能していた。
父であるジブゼレラ公爵と共に、王に謁見したのが昨日の午後。
謁見というよりは、処理報告と言うべきだろう。
すでに提出した書類とは別に、一束の書類。
表紙には、王妃マルゲリータ歳出記録、とある。
王は、眉をひそめた。
今回は、軍支出金の横領のはずだが、関連しているとなると、大問題である。
「聡明な陛下ならば、すでに察しておられたと思います」
ジブゼレラ公爵が、恭しく言葉を選ぶ。
「王妃陛下の予算より、支出が大きく上回っております。
ご実家の侯爵家から援助はなく、懇意にしている貴族からの支援金のようです。」
ここまで聞けば王も悟り、額に手を当てた。
とんでもないスキャンダルである。
軍費を横領しているのを、王妃が協力して発覚するのを隠していたのだ。
「ジョゼフ・カウンデル伯爵、第1部隊長で、横領の主犯です。
今回、カウンデル伯爵家の粛清と、王妃の処断となると、王家も大きくゆらぎましょう。
王妃の罪を隠すわけではありません。
少し時期をずらすのです」
ジブゼレラ公爵は、ニヤリと口元を引き上げた。
時期をずらせば、王妃を処断しても揺るがない体制にするか、王として王妃を処断して王家のへの信頼の低下を少なくすることが出来る。
「それと、今回の報奨を希望する」
公爵の言葉に、わざわざ公爵が出向いた真意はここにあった、と王は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「報奨を希望しなくとも、十分に報いる結果になるはずだ」
長い期間の横領、発覚しないように巧妙に隠されていた。それを暴いたのはアルフレッド・ジブゼレラ、若き将校で次期公爵。
アルフレッドが抜きんでた才覚があっても、軍内の調査だけであろう。
カウンデル伯爵と王妃の関係は、ジブゼレラ公爵が内密に調べさせたのは確認するまでもないだろう、と王は言葉になっていない部分を推測する。
「陛下、今回の件では、息子が発見し処理に当たったとはいえ、私は部外者です。
だが、報奨という形で陛下に即断していただきたい事があるのです。そしてそれを申請できるのは、息子ではなく、ジブゼレラ公爵である私しかいないのです。
我が娘、クリスチーネと王太子殿下の婚約を、解消していただきたい」
ジブゼレラ公爵の後に、アルフレッドが続く。
「陛下、私は軍費の横領を調べ、確かな証拠を立証しております。それは即時公表すべきであり、軍規の見直しも必要と考えています」
矢面に立ち、責任の立場を受けるとアルフレッドは表明している。
反面、ジブゼレラ公爵が王妃の件では、しばし目をつむると言う。
王は片肘をつき、公爵とアルフレッドを見た。
「羨ましい息子であるな。
そして、私には息子の意を聞かずに、息子の婚約解消を即断しろということか」
婚約者候補の家系を集めた園遊会で、ハウエル自身が選んだのがクリスチーネであった。
「最近の王太子殿下の聖女候補へのかかわりは、寵愛と言われても仕方ありますまい。
陛下も、お聞きに及んでおられるのでしょう。
そのようなところへ、娘を出せるはずがありません。
聖女候補は第1妃で、娘を第2妃とされないようにするまでです」
公爵が先手を打って、王に判断をせまる。
「聖女候補は妃と認めるには、問題が多そうだが、仕方あるまい。
王太子ハウエルと、ジブゼレラ公爵令嬢クリスチーネとの婚約を解消とする」
王の言葉を受けアルフレッドは王の前を辞したが、ジブゼレラ公爵は残り、早急に公表すべく王と調整にはいった。
王は結果として、婚約解消を王太子に告げるのであろう。
その時に、父であるディオモント・ジブゼレラ公爵は、アルフレッドに囁いた。
「あの娘を逃すなよ」
もちろんですよ。
父上は、聖女としてのシャルナを外に出すまいと考えているのでしょうが、聖女でなくともシャルナは目を惹く。
アルフレッドは馬の手綱を引きながら、先ほど学院の教室で見た男子学生の中に、アルフレッドに睨むような視線を向けて来た学生を思い出していた。
手を打っておく必要があるな。
頬を染めて戸惑っていたシャルナが、他の男に視線を向けるなど許しはしない。
だが、学院内で強引に、女性の意に反する行為があるのも事実だ。
そんな事させはしない、どうするか、とアルフレッドは思考を巡らせていた。
王太子がクリスチーネとの婚約解消を納得していないのも、確認した。
二人を守る為に、護衛の人選が最優先である。




