表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/65

シャルナの魂胆

教員室に行くと、担任が待っていた。

シャルナは、公爵家の後見ということで、上位クラスの1組となった。

そこには聖女も同じクラスと教えられて、先行き不安になったが、2年生には能力別のクラスになると聞いて安心した。


クリスチーネとは教員室で別れ、シャルナは担任につれられて教室に向かうことになった。

「まだ、時間は早い。

少し確認してもいいかな?」

担任のカールス・ヤフレッツが、書類を机に置いた。

「公爵家で家庭教師をしていたのは、僕の師なんだよ。

その推薦状がこれだ」

そう言いながら、紙をめくっていく。

「言語は4か国語を習得しており、歴史以外の知識は学者でさえ及ばないだろう。

これを読んで、ありえない、と僕は思ったわけだ」

他の教師も集まってきて、シャルナを取り囲んだ。彼らも推薦状を読んでいるのだろう。


『ありえない、というのは確認しないと気が済まない、ということですね?』

シャルナは仕方ない、と隣国の言葉で答える。

『そうだ』

カールスも言語を変える。


シャルナは、周りに集まった教師を見渡した。

「どこの言語でも大丈夫です、話しかけてください。お答えいたします」

ニヤリとシャルナが眉をあげると、教師たちが我も我もと他国語で話しかけた。


早々に音を上げたのは、教師側だ。

「まいった。今、6ヶ国語を話したぞ」

カールスもシャルナを認めざるを得なかった。


「聖堂にはたくさんの国から巡礼に来られます。

そこで言葉を覚えました。

聖堂の図書室で、たくさんの本を読んだのですが、残念ながら国家の歴史の本は少なかったのです」

シャルナは、優香の知識を聖堂の図書室で得たとごまかし通す。

「独学でしたので、人とは違った考え方をするかもしれません。

それを学院で勉強したいと思ってます」

変な事を言っても独学のせいと、先手を打つ。


「そろそろ時間だ」

カールスが立ちあがると、シャルナも後ろを付いていく。

教員室を出る時に、聞こえたのは他の教師たちの感嘆ともいえる会話だ。

「ジブゼレラ公爵家が後見になる理由があったな。

よく、見つけ出した」


シャルナは、教師達にこれ以上ない好印象を与えたのだ。


王太子に歯向かった今、教師を味方につけるのは大きい。

王家の権力になびく教師もいるだろうが、教師という職業に就く人間は、自分の知らない知識への好奇心が大きい。

そして、才能ある人間を自分で育てたいという。




「シャルナ・ファビラリオと申します。

どうぞよろしくお願いします」

1年1組の教室で、シャルナが挨拶をすると、ミレミアと目が合った。

ミレミアは、正門でのトラブルがなかったかのように手を振っている。

カールスは、それに気が付いてシャルナを見た。

カールスが、知り合いか、と聞く前にシャルナは首を横に振る。


クリスチーネの断罪を無くす為には、ミレミアが皆の信頼を得ないようにしなければならない。

今朝の様子をみても、王太子がミレミアに入れ込んでいるのは間違いない。

王太子が、公爵家を荒立てることなく婚約解消するには、クリスチーネの過失が必要だ。

原作では、クリスチーネの心が病んで、聖女であるミレミアに害をなすのだが、ここではそんなことはさせない。

となると、王太子がクリスチーネに冤罪をかけることも考えられる。


そうなる前に、他の人間が王太子やミレミアを信じないようにすればいい。


シャルナに用意された席は、ミレミアの斜め後ろだった。

シャルナは、手を振るミレミアに返事することなく、横を通り過ぎようとして大きく転んだ。


ガッチャン、ガタガタ!

隣の席の男子生徒を巻き込んで、シャルナは倒れ込んだ。


「ひどい」

小さく呟いたシャルナは、怯えたように肩を震わせた。

ミレミアは、急なことで茫然としている。


「君、血が出ている!」

巻き込まれた生徒が、シャルナを助け起こしながら様子を確認した。

「大丈夫です、これくらい」

シャルナが手を押さえて、立ち上がるとカールスが駆け寄ってきた。


「どうした、大丈夫か? 救護室に連れて行こう」

状態を見ようと(かが)んだカールスに、巻き込まれた男子生徒が(ささや)いた。

「先生、よく見えなかったけど、足を引っかけられたみたいです」

カールスは驚いてシャルナを見ると、シャルナは横目でミレミアを見た。

「そうか。

彼女を救護室に、連れて行ってくれるか?」

カールスは、男子生徒に指示をすると、授業を始める為に教壇にもどった。


『ひどい』

小さく呟いたシャルナの声は、ちゃんと側に居た男子生徒に聞こえたようだった。


婚約者の前で、王太子と手を繫ぐなどしたのだから、これぐらいの報復は当然よ。

救護室に向かいながら、シャルナはほくそ笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ