シャルナは自由恋愛がしたい
転生ものは久しぶりに書くので、ドキドキ楽しみながら書きたいと思ってます。
子供時代から芸能界にいた優香は世間知らずで傲慢な面もありながら、孤児として社会の底辺で育ったシャルナと融合していきます。
楽しく読めるように頑張りますので、よろしくお願いします。
violet
人気小説の映画化撮影の最中だった。
王国の建国記念舞踏会で、悪役令嬢が聖女を襲わせた罪を衆人環視の前で暴露されて断罪される、というシーンであった。
豪華に着飾った王太子の婚約者の公爵令嬢が、王太子に振り払われて床に倒れた時、不慮の事故。
そういうには被害が大きすぎた。
ガッチャン、ガラガラ!
ドン!!
落ちて来たライトの下に流れ出る血。
「優香ちゃん!」
「誰か!!」
「こっち持て、持ち上げるんだ!」
現場は怒涛のような喧噪になった。
『悪役令嬢クリスチーネ役の人気女優、愛染優香が、落ちて来たライトの下敷きになり、緊急搬送。意識不明の重体』
そのニュースは全国に流れたが、夕方には重体から死亡の報道になった。
天才子役と言われ、作品にも恵まれた愛染優香は、テレビ、舞台、映画と活躍の場を広げ、不動の人気を得ながら、20歳の短い人生を終えた。
葬儀には生前に親交深かった芸能人だけでなく、CMスポンサーである企業や財界人、政界からも参列者が並び、ファンは葬祭場の周囲や沿道を埋め尽くした。
『美人薄命、その通りの美しい人でした』
『どんな役でもこなせる、才能あふれる女優でした』
『優しい人でした。新人達にも気を使ってくれて』
亡くなった人間は美化される。
才能があり美しいのは間違いないが、子役から成功した世間知らず、我がままに育った子供大人、まるで悪役令嬢クリスチーネそのもの、と週刊誌でたたかれていた記事は消えていった。
その日、シャルナは何度目かの溜息をついた。
聖堂の掃除という日課をこなしながら、指先を見た。
やばい、こんなに力があったらすぐにバレる。
王都で1番大きい聖堂に併設されている孤児院で育ったシャルナは、シスター見習いとして修業中の身であるのだ。
それが1週間前、女優であった記憶があふれ出たのだ。それと同時に、今まで感じた事のない力が身体に満ちた。
優香の記憶を思い出したシャルナは、ここが優香が撮影していた映画の原作小説の世界と瓜二つなのに気が付いた。
王家も悪役令嬢の公爵家も、国名も同じだ。
顔を知らないが、王太子ハウエルも王太子の婚約者クリスチーネも実在する。
原作にシャルナなどいない、モブだ。
ヒャッホオオオ!
雄たけびを上げそうになった。
優香は、ステージママと事務所にガチガチに管理され、金銭も恋愛も自由にならなかった。
モブのシャルナなら、自由恋愛だ!
鏡に映るシャルナは質素な衣服で手入れされていないが、優香の姿そのものである。
少しつり目の美貌、細い身体。
教会には聖騎士がいて、若く美しい筋肉をしている。
あの中の一人か二人、この美貌で誘惑して恋愛を楽しむんだ。
キスだって、仕事でしかしたことがない。
キスもその先も、想像するだけで興奮してくる。
それには、この力は隠さねばならない。
もし、力があるから聖女なんて認定されたら、一生教会に飼い殺しである。なにより、シスターも神官も清貧質素を常とした禁欲生活だ、そんなの耐えられない。
優香は役作りのために原作を読みこんであった。
ハウエルとクリスチーネは幼い頃からの婚約者だ。お互い結婚の意味を理解し歩み寄ろうとしていたが、それはクリスチーネだけのようであった。
聖なる力を発揮した街娘ミレミアが聖女として教会に迎え入れられると、ハウエルはミレミアに惹かれていき、クリスチーネを邪険にするようになる。
王太子の婚約者であり公爵令嬢のクリスチーネのプライドが、ミレミアを認められず、ハウエルとの仲を裂くために実力行使するようになる。
クリスチーネは聖女に危害を加えたとして、婚約破棄のうえ断罪される。
ミレミアは聖女として教会と王太子の間に挟まれ、王太子の好意に素直になれないが、王太子の強い愛で結ばれるという話である。
何もかもに恵まれたクリスチーネの苦悩を前面に出すことで、人気を得た作品であった。
だから、悪女役とはいえ、優香は主役だったのだ。
シャルナは優香の女優としての知識をいかして、シスター見習いを演じて、適当な所で失敗をし教会から放逐されようと考えていた。
それまでに、聖騎士様をGETできればよし、そうでなければ、街の商人とか困らない程度の生活が出来ればよし、の男を見つけよう、と決めていた。
エキストラのような役であるシャルナ、なんて楽な役。
聖騎士様と手を繫いでデート、夕暮れの公園でキス、その日はお泊り、と考えるだけで頬がゆるむ。
私はエキストラ。
まずは、真面目なシスター見習いを演じて、聖騎士様の好感を得なければならない。
出来るだけ、聖騎士様の目につくところで掃除をしよう。
水の入った桶を持ち上げて、シャルナは井戸に向かった。
重そうに歩いても、声をかけてくるのはシスター達である。
併設の孤児院で育ったシャルナは、シスター達にとって可愛い娘であり、妹だ。
重そうだね、持ってあげる、と声をかけてくる聖騎士様の姿はない。
チッ、と小さく舌打ちして、シャルナはシスターに笑顔を向ける。
「シスターリーナ、おはようございます」
「おはよう、シャルナ」
シスターリーナはシャルナを手招きすると、荒れた手に薬を塗ってくれた。
「働き者の手だね」
そう言うシスターリーナの体温が手から伝わってくる。
「ありがとう、シスターリーナ」
シャルナは孤児であったが、優しいシスター達に育てられた。
優香は、演劇だけでなく、歌、ダンス、芸能事のレッスンで分刻みのスケジュールで睡眠を削って仕事の生活。
豪華な食事、快適な生活空間で育ったが、学校も仕事で休みがち、高額な出演料を優先する母親との会話も仕事のことだけ。
シャルナと優香の両方の記憶を持つ今は、本当の母親よりも、シスターの方に愛情を感じている。




