お支払はげんきんですか♪
「お支払は現金ですか?」
「もちろん」
荒野のど真ん中にポツンとある絵画屋の唯一の客である男が店主である老人に紙幣を渡した。
紙幣にはこの国で最も憎まれた男。侵略者パーチェンの顔が印刷されている。
「これで終いだな」
「お互いにの」
男は店の外に出てマッチに火を付け、この店の最後の商品。『英雄バーチェン』の絵を地面に捨ててマッチをその上に乗せた。
絵は数分かけてパチパチと燃え始めた。
「お前も物好きじゃの。『パーチェン専門店』のワシの店の商品をとうとう買い占めた」
「そうすると思ってたくせに」
男は店にある『パーチェンの顔が描かれた商品』を長い時間をかけて全て現金で買い。全て燃やした。
男は母国を侵略したパーチェンを憎んでいた。
「これで最後かの?」
「そうだよ」
老人は紙幣を握りしめている。
これがこの国に残った最後の紙幣。老人は火の中に紙幣を投げた。
これでこの『星』からパーチェンの顔をした全てのものが無くなった。
「『戦争は女の顔をしている』と誰かが言ったそうじゃがそれは違う。戦争は『戦争を起こした者』の顔をしているに決まっとる」
「あんたは世界一のパーチェン嫌いだよ」
「ああ幸せじゃよ。これで次の世代の子供達はパーチェンの顔を知らずに生きていける」
「だったらこの星を捨ててあんたも避難しろよ。この星も長くねぇよ。……せめて毎日ガスマスクをしてくれ」
「あんなの息苦しくてたまらん。もうマスクはいらん。ワシは戦争が始まり戦争が終わったこの国で死ぬ」
「……また来るよ」
老人はガスマスクをした男が宇宙船に乗り込み。飛び立ち消えるところまでを安楽椅子に座りながら見届けた。
放射能に汚染されたこの星に唯一住む老人は満足そうに微笑みながら息を引き取った。