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神に殺される世界(前)

「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」の2巻発売決定記念 後編は0時に投稿します。

「世界喰イがやってきて、世界の人員でどうすることもできなければ、倒さずともいいので世界喰イを押し返してほしい」


 世界喰イちゃんが解き放たれて、いつかこういう依頼がくるんじゃないかなと思っていた。

 でも思っていたよりも早くそんな機会が来てしまった。倒さなくて良いなら別にいいのだけれど。ついでに世界喰イちゃん討伐依頼は、混沌神に許可を得てからにしてくれと言っているのでまずこない。


 で、今回の仕事なのだけれど、依頼した神の考えていることがよくわからない。世界喰イちゃんに食べられないように、自分の世界を守ってほしいというのはわかる。

 何なら人をだいぶ大事にしている神なのだろう。実はそんなところをすでに何度も見ている。神託はバシバシ下ろすし、人を守るために力を与える事もしている。


 でもそもそも、わたしたちが降り立てる時点で、この世界は先が見えているようなものだ。いつかの世界のように寿命でもって世界が崩壊するというわけでもない。せっかく寿命を迎えられそうな世界があるのに、世界喰イに喰われたらたまらない、それならいっそ終末神に……みたいな感じなら、わたしもわかるのだけれど。


「仕事の事?」


 わたしが長いこと考え事をしていたせいか、文月が気になったようで尋ねてくる。


「この世界の神が何を考えているのかなーって考えていました」

「この世界を守りたいんだよね?」

「わたしが降り立てるこの世界を守りたいというのがまずわかりません。いや、こちらは何となくわかろうとすればわかるのですが、守るためにわたしを呼ぶというのもさっぱりです」

「少しでも長くこの世界を保ちたいって話なら、呼ばない方がいいもんね」


 終末神は降り立った世界の寿命を少しずつ減らしてしまう。だから、世界喰イちゃんが来ることが確定しているのであればまだしも、予防的にわたしを呼ぶのはリスクが大きすぎると思う。

 だから何か考えているのだろうけど、何を考えているのかわからない。


 わたしを罠にはめようとしているのかなとも思ったけれど、わたしに手を出すというのはリスクが大きい。これでも結構な数の世界で依頼をこなしてきたのだから。わたしの力を必要としている神の数は多く、わたしに手を出したことがばれると、その神たちと敵対する可能性がある。いままでわたしが依頼をこなしてきた神からも同様の可能性がある。


「まあ、考えても仕方がないですね」

「ところでこの世界はどうして崩壊するの?」


 わたしが理解を諦めたからか、文月が話を変える。


「んー、実はその辺曖昧なんですよね。この世界の発展具合と方向性だと世界への影響はそこまでないはずなんです。

 それなのにどうしてか、世界への負担が大きいんですよ」

「そうなんだ」

「でもフィーニス様は何となくわかっていますよね?」


 ルルスに指摘されて、うなずいて返す。これでも一応神様なので、目星くらいはつけている。


「たぶんここの世界を作った神のせいですね。人により良い生活を送ってもらうためか、過度な発展をさせないためか、世界への干渉が多いんですよ」

「あー、なるほどね」


 かつて神様も言っていたような気がするけれど、神託を下すのだって世界に負担を強いる。頻繁に行えば世界の崩壊を早めるほどに。それなのに神託を下すだけではなくて、力を与えることもあるし、何なら乗り越えるべき悪とかいって魔王的なのを作ってもいる。


 じゃあ世界喰イちゃんも自分で追い返せば……となりそうなものだけれど、そこまでするとわたしが来る以上に世界を壊しかねないから、わたしを呼んだのだろう。自分でやるよりはだいぶ世界への被害は減らせるから。もっとほかの方法考えたほうが良いんじゃないかと思うけど。


「そこまで手塩にかけてきた人を外的要因で失うのは、嫌なんじゃないかな?」

「つまりわたしによる緩やか且つ目に見えにくい崩壊の進行はよくて、世界喰イちゃんの急速且つわかりやすい崩壊はだめって事ですか」


 言わんとすることはわかる。わかるけれど、ちょっと神らしくはないかなと思わなくもない。


「何にしても、こんなところで話す内容ではないですね」


 ルルスに言われて軽く周囲をみる。沢山の人が集まっている、お食事処。客の年齢層は若く羽振りの良さそうな女性が多い。生前的な表現をするなら、カフェだろうか。

 想像するいわゆるカフェほどおしゃれではないけれど、この世界基準では画期的で、何より甘いものが売られている。


 果物などはともかく、砂糖的な甘さを求めるには結構な金額が必要で、必然的に若くお金を持っている女性が集まる。上流階級に属する女性たちも女性であることは変わりなく、お店の至る所から会話している声が聞こえる。


「内容が聞こえないようにしていますから、大丈夫ですよ」

「それは理解しています」

「ほら、若者向けのカフェでひっそりと大事な話をするって言うのは、一種のロマンがあるじゃないですか」

「んー、ちょっとわかるかな」


 全く共感してくれそうにないルルスはともかく、文月的にもそこまでピンと来ていないらしい。

 来ていないなら仕方がない。別の話題にすることにしよう。現状この世界ではやることがなくて暇なのだ。





 魔物がいる世界は比較的仕事を探しやすくて助かる。魔物自体に賞金がかけられていることもあるし、そうでなくても牙や爪などを素材として買い取りはしてくれる。

 そうした魔物を狩る人々をまとめる組織があるところと無いところがあるけれど、前者の場合その組織に入ることができれば後はその組織の人がいろいろしてくれるから楽。でも中にはそういった組織にはいるために、紹介状が必要な事もあり、そうなると入るのは面倒になる。


 後者だと魔物を狩った後、個人で買い取りをしてくれる人と交渉することになる。それが面倒くさい。そのかわり組織に属していないので、行動の自由がより大きい。


 どうしても紹介状が得られなかったり、そもそも魔物がいない世界にいってしまうと働くことを諦めるか、バイトするか、珍しいものを探して店に売りつけるかする事になる。

 別に働かなくても生きてはいけるのだけれど、その世界でやることによっては長期間滞在することになり、無一文で町に居続ければそれだけで目についてしまう。


 だから基本的に文月やルルスにバイトをさせて、わたしがものを売るみたいな事が多い。仮にも神様なので、高価なものの1つや2つは持っているのだ。なくても世界で探してくればいい。

 それを全く用事がない国で売って、すぐに国を出て、他の国のお金に替えるなり、そのお金を使えるところで買い物するなりするわけだ。


 まあ、とはいえ基本的に文月とルルスががんばって働いている。この世界でもそうで、基本的にわたしは寝ている。で、ルルスと文月が働いて、二人が働いたお金で外に連れ出される。わたしはずっと寝ていてもいいのだけれど、あまり寝過ぎて仕事ができなければ元も子もないと、ルルスに起こされて外に連れて行かれるのだ。


 わたしはニートではない。普段の仕事は二人にさせているけれど、わたしも全く何もしないわけじゃないから。ニートになればずっと寝ていて良さそうなので、むしろニートになりたい。ご飯も何もいらないから、寝る場所だけほしい。というか眠りのじゃまをしないのであれば、寝る場所もいらない。適当に宙に浮かんで眠るから。


 それに最近はルルスも各世界の食べ物――特に甘味――を食べて回るのを楽しみにしている節がある。ちょくちょく服装も替わっているし、アクセサリーもいくつか持っているらしい。

 何というか女の子になったなーと思って、「女の子になりましたね」というと、文月は同意してくれた一方で、ルルスはわかっていないような顔をしていた。


 こんな感じだから、他の人から見るとわたしは二人にだけ働かせて、楽しているように見えるらしい。否定はしないけれど、それでたまに面倒ごとに巻き込まれる事がある。ちょうど今みたいに。


「二人を解放しろ」

「何のことでしょう?」


 わざわざ宿の部屋まで押し掛けてきて、見知らぬ男性がそんなことを言う。見た感じこの世界の神から力を与えられた系の人物らしい。ということは、勇者の一人か。この世界に複数人いる勇者は、勇者と言うだけでそれなりの発言権を持つ。神に選ばれた者になるから、その理由はわかりやすいけれど。


 だから宿のわたしたちの部屋までやってくることができたのだろう。


 うん、勇者の恐ろしさがよくわかるね。悪いことをしたら、きっと力を神に奪われるとかありそうだ。そうでなければ、勇者が好き放題するだろうし。この世界の神には是非とも目の前の彼をどうにかしてほしい。

 わたしの願いもむなしく、勇者の彼は現状に至るまでの説明をしてくれた。


 何ら難しいことはない。文月とルルスを仲間にしたかったけれど、断られたらしい。

 その断る理由として、仕えるべき相手がいるからとか、そんなことをいったようだ。これ自体は仕方がない。上に言われているというのが、なんだかんだで簡単な断り文句だから。


 まさか断られるとは思っていなかったらしく、断ると言うことはさぞやすばらしい人物なのだろうと思っていたら、それが怠け者のわたしだったから強行してきたらしい。

 いろいろはしょっているけれど、ストーカーとかしてそうだ。でもわたしを見た上で、わたしも含めてパーティに入れようとか言わないあたり、ある意味でまともなのかもしれない。


「それはわかりましたが、別にわたしは強制はしていませんよ」

「奴隷にしているか……何かの契約で無理矢理働かせているんだろう?」

「奴隷にはしていませんし、無理矢理働かせてもいません」

「信じられるかっ!」

「そう思うのであれば本人に聞いてみてはどうですか? 偽り無く話してくれて構いませんよ」


 勇者君と話している間に二人が戻ってきたので、任せることにする。だって相手するの面倒くさいし――というわけではなくて、きっとわたしが何をいっても聞いてくれないし。わざわざ最後の言葉を付けたのは奴隷で強制していないというアピールのため。

 戻ってきた二人は露骨に嫌な顔をして、勇者君を見ている。


「確かに仕方なく労働をしているところはありますが、ご主人様に仕えているのは自分の意志です」

「あたしもそうだよ。むしろあたしは、フィー……ご主人様のところに押し掛けてきたから、働くくらいはね」


 二人がわたしの名前を呼ばないのは、勇者君にわたしの名前を知られたくないからか。案外わたしは愛されているのかもしれない。

 それとも、わたしの名前を言いたくないだけ? だとしたら悲しい。確かに良い主人ではないけれど、悪い事はしていないと思っていたのに。


「ご主人様、変なこと考えていますね」

「それくらいしかする事がないですから」


 ルルスに指摘されて、開き直る。別にわたしはこの勇者君の相手をする義務はないし。

 この世界の人からしたら、勇者の話をまじめに聞かないのは良くないのかもしれないけれど、わたしはあくまでもこの世界の神に依頼されてきた、神の側の存在なのだから。ちゃんと話す気があるなら聞くけれど、今回は言いがかりも言いがかりだし。


「それなら、改めて伝える」


 二人の話を聞いて黙って引き下がるか、逆ギレを始めるかと思ったのだけれど、勇者君はまるで自分が上位者かのような一方的な口調で話し始める。


「世界のため、魔王を倒すため、彼女たちの力が必要だ。だから神より力を授かった者として彼女たちを……」


 自分のパーティに寄越すように要請するとか、命令する、と言おうと思ったんだろうな。でも、彼は急に黙って、目をぱちくりさせている。

 それから「で、ですが」と焦ったような声を出した。どうやら神託を受けているらしい。どうやらこの世界の神が現状に気がついたようだ。


 それはそれとして、ここの神は電話でもするかのような気軽さで神託を下ろしてくるなー。似たようなことを世界の負担を少なくやることはできるのだけれど、それでももっと条件が限られる。特定の場所でだけとか。


 で、神に直接何か言われたらしい勇者君は「君たちを諦めないといけないようだ」と言い残してどこかにいってしまった。


「何しにきたのかわかりませんが、なかなかのメンタルでしたね」

「でもフィーニスちゃんに謝っていないし、自分は間違っていないって思っているのかもね」

「まあ、この世界だと間違っていないんでしょうね」


 勇者はたぶん神の遣いとかそう言う類の認識だろうから。で、勇者が暴走したら今回みたいに神が対応すると。それがこの世界の仕組みであれば、わたしは何もいうつもりはない。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[一言] 神託が軽い世界( ˘ω˘ )
[一言] ほんとに信託軽いな。
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