世界を崩壊させない方法(エピローグ)
一連の騒動が大体片づいて、二柱でわたしの世界へと帰ってきた。花畑の中にある天蓋つきのベッドも、さすがに久し振りに見る気が……しないか。そんなに寝られなかったし。
「どうして、この世界に人が増えるんですかね?」
「人は増えていないですよ」
「あと、非常にうらやましいんで、立場を変わってください」
「絶対に嫌」
ヴィアトリクスさんが口調を崩して否定する。口調を崩してと言うか、口調が安定していないといった方が正しいかもしれない。
軽口で言ってはみたものの、わたしと彼女とでは大きくその扱いが違うので、立場を変わることなんてできない。なんとも悔しい話だ。
「ともかくヴィアトリクスさんは、今回の結末で良かったんですか?」
「悪くはないわ……ないですね」
「今更口調は気にしなくていいですよ」
一応彼女の上司を押しつけられたので、わたしのほうが立場は上だけれど、言葉遣いを気にするというのがそもそも人の感覚だ。人に感化されて気にする神もいるけれど、せいぜいローカルルールでしかない。
「直接何かできなくても、私を作り出した神は力を奪われて、世界に落とされたし、私は好きなタイミングで消えることができるもの」
「まあ、間違っても神なんかにならないように、気を付けてくださいね。そう簡単に消えられなくなりますよ」
実例が目の前にいるのだから、説得力はましましだろう。
ヴィアトリクスさんは人から外れたものの、どちらかと言えば文月やルルスに近い存在だ。
さて、結局ヴィアトリクスさん周りの話がどうだったのかと言えば、世界喰イちゃんみたいな話である。
◇
世界喰イは、混沌神がわたしをみて、似たようなものを作ろうとして生まれた存在。
なにを間違ったのか、世界を回ることはできても、崩壊しかけた世界を食べることに特化した食いしん坊になってしまった。混沌神としては、それで結果オーライというか、できたものでいかに混沌を作るかみたいな方向に考えが向いているので、何かと気にかけてもらっている。
対してヴィアトリクスさんは、混沌神とは別の神がわたしを見て、世界喰イちゃんとは別のアプローチで終末神のような存在を作ろうとした結果生まれた存在になる。
多くの終末世界を経験させ、勤勉に学び、それを繰り返すことでやがては神に近い存在に至るだろうと、そう考えたらしい。終末世界に転生するように細工をしただけで、話しかけることも、手を貸すこともしなかったのは、その神が楽をすることを嫌う神だったから。
でも、彼女はその意図に反して、一度諦めてしまった。だからその神はヴィアトリクスさんのことを見限った。
何とも上位存在らしい傲慢さで人をもてあそんだものだ、と感心する。そもそもヴィアトリクスさんに説明しないで、勝手に見限るなんて神でなければ許されない。場合によっては神でも許されない。許されなかった。
わたしたち上位存在というのは、生まれてから何となく自分がなにをすべき存在なのかがわかる。その感覚で言えば、ヴィアトリクスさんは神に手を加えられた段階で、その役割を理解し邁進すべきだったと言うのが、かの神の主張。
ヴィアトリクスさんにとってはたまったものではないだろうけど、それだけだと別にその「神D」は裁かれることはない。
でも今回はヴィアトリクスさんがわたしに出会い、いくつもの世界に影響を与えるほどに大きな事件を起こした。
それは上位存在の中でも大きな問題になる。そして神Dはヴィアトリクスさんのような存在を作り出したのにも関わらず、放置し、数々の世界の崩壊を引き起こしたとして、その力を取り上げられた。
取り上げた力の七割は神Dの使徒に分け与えられ、新たな神として引き上げられ、残りの三割は最後にヴィアトリクスさんがいた世界の神に分け与えられた。
その後、何かに封印されて、迷惑をかけられた神の世界へと落とされた。扱いとしてはその神の使徒となる。ただし、ほぼ自由はないため、ルルスや文月とは大きく扱いは違う。
そしてヴィアトリクスさんの処遇だが、自由に消滅できるスイッチ(のようなもの)を渡され、属性が近しい終末神の元で働くこととなった。
ぬるい処置のようだが、そもそも上位存在と人でありスケールが違う。神Dが裁判で処罰が決まったのだとすれば、ヴィアトリクスさんはそもそも法律で罰せられる存在ではない。
とはいえ、迷惑をかけたということで、自由消滅権が与えられた。それをヴィアトリクスさんが望んだから。
で、便利屋のわたしの元においておけば、神々のために働くだろうってことで、わたしの元にきた。半分くらい、わたしが引っ張ってきたものだが。なぜなら便利そうだから。
「確認ですが、世界の寿命を戻す類の力は無くなっていますね?」
「ええ、無くなっているわ」
「あるといろいろ面倒になったので、良かったです」
「同じことをするには、世界をいくつも使うことになるから、大丈夫だと思うのだけど」
「そう考えない存在もいるわけです。どこかで世界の力を食べている幼女もいるわけですし」
ヴィアトリクスさんの力については、混沌さんにだいぶ調整してもらっている。混沌とはなんぞやと言いたくはなるが、彼曰く能力のランダム変更も混沌の権能だと言っている。言わんとすることはわかる。
わかったので、終末神としてのわたしをランダムで変更してくれとお願いした。
でも「ほぼ同格の存在を相手には使えないよ」と断られた。はたしてそれは、同じ神だからなのか、神に成り立てのわたしにだったら使えたけど今はもう使えないのか。
なんだか悲しいことを言われそうなので、尋ねてはいない。
思い出したら悲しくなってきたので、不貞寝をしよう。なんだかんだ今回は後始末で結構働いたし。
「では、わたしは不貞寝します」
「突然ね」
「わたしが寝ている間のことはルルスや文月に聞いてください。わたしもなにしているか知りません」
「放任ね」
「それでは……」
「待って、他の使徒は待たなくてもいいのかしら?」
あわてるヴィアトリクスさんに首を傾げたくなったけれど、考えてみれば仕える神が眠りにつくというのは、一大イベントなのかもしれない。
最初のうちは文月もルルスも寝るときには近くにいたような記憶もある。でもそんなことしていたら、彼女たちが大変なだけだ。わたしとしても別に誰かがそばにいてほしい訳じゃない。
「構いませんよ。いつものことですから」
「それならいいのだけれど」
「それでは、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
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また本編の書籍版の完結をもって、本後日談も最終話とさせていただきます。
設定的に延々と続けられるものではありますが、一つの区切りとしてはここらがちょうどいいでしょう。というか、区切りをつけるためのヴィアトリクスだったので、彼女の地獄が終わったところで終わらせてもらいました。
本編含めここまでお付き合いいただきありがとうございます。