世界を崩壊させない方法(3)
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「終末で、目が覚めて、フィーニスぼんやり考えた。感覚的には数千年。十数億年はいけたのでは?」
「フィーニスちゃんはくまさんじゃないでしょ?」
「良い顔だと思うんですけど、どうでしょう?」
「まあ、フィーニスちゃんはかわいいよ。良かったね」
「よかったな」
目が覚めたわたしが崩壊しかけている世界を見て口を開くと、文月がいい具合にツッコミを入れてくれる。それを聞いていたルルスは特に反応を見せなかったけれど、一緒にいたヴィアトリクスさんが吹き出していた。
どうやらネタがわかったらしい。
とりあえず、ヴィアトリクスさんの作戦に乗っかって、長期休暇を享受していたはずなのだけれど、こうやって目が覚めたということはなにかしら事態が動いたのだろう。
何事もなければ億年は寝ていられるはずだったので、急速に動いたと見ていい。
そしてここにヴィアトリクスさんがいると言うことは、彼女の作戦は上手くいっていないのかもしれない。
「とりあえずルルス。どうなったのか、聞いても良いですか?」
「私も詳しいところはわからないのですが、フィーニスさま自身は自分が眠って――封印されていたことは自覚されていますか?」
「ヴィアトリクスさんが世界喰イちゃんを捕まえて、ため込んだエネルギーを使って世界を再生させて、わたしの長期休暇が始まったんですよね?」
「言い方に思うところはありますが、その通りです。すでに世界喰イは解放され、お腹が空いたと別の世界に行きました」
「何か言っていました?」
「お母様はお寝坊なの、と言ってました」
「世界喰イちゃんとはまたお話ししないといけないみたいですね」
お母様とは呼ばないようにって言っていたはずなのに。
まあ、言ったのは少なくとも数千年前だろうし、忘れてしまったのかもしれないし、空腹で思わず言ってしまったのかもしれないけれど。
「世界喰イちゃんのことはおいておいて、上の方はどうなったかわかりますか?」
「混沌神とこの世界を創った神がヴィアトリクスを生み出した神を糾弾して、その責任をとるようにと決まったようですね」
「あー、やっぱり責任そっちに行きましたか」
ちらりとヴィアトリクスさんの方を見ると、息をついていた。それがどんな感情なのかわからないけれど、彼女の思惑通りにはいかないかもしれない。
彼女の望みはこの件で責任をとらされて、消滅させられることだっただろうから。とはいえ、わたし的にはここで責任をとらされなくて良かったんだろうなって思う。
下手したら消滅もさせて貰えないかもしれないから。なにせ彼女はとても希有な存在だから。
この世界の神からすれば……って話であり、興味を持っている神も少なからずいる。
「ヴィアトリクスの処遇については、未だにわからないままですね。上が混乱しているせいで、後回しにされているみたいです」
「で、わたしが目覚めるのがはやまった原因は何なんでしょう?」
「フィーニスさまが長らく活動できない状況を良しとしない神が多かったみたいですね。いくらか世界喰イに食べさせて、崩壊を早めさせました」
そんなに急かさなくても良かったのに。
まあ、話は何となく分かったので、ヴィアトリクスさんと話すか。そう思ってヴィアトリクスさんの方に行くと、彼女は不思議そうな顔でわたしを見た。
「どうかしましたか?」
「またメイドしますか?」
「しません。今の立場でやると、目立ちますよ?」
「それは困りますね。今回は国王とかより上の立場でしょうし」
「偉人くらいには有名ですね。生きているのも伝えていますし、立場としては世界で一番上といえなくもないです」
世界が崩壊しかけたところから、正常なところまで戻した存在だから、救国の英雄とか言う話ではない。この世界すべての存在が敬うべき相手と言っても過言ではないだろう。
そうして正常に戻った世界は、神々の戯れによりまた崩壊させられていくわけだけれど。
「ともあれ、お疲れさまでした」
「そうなればいいですけどね」
「どう扱われるかはわかりませんが、貴女の繰り返しは終わると思いますよ。さすがにこれまで通りというわけにはいかないでしょうから」
「……やっと消滅できるのね」
敬語の崩れて、万感の思いでヴィアトリクスさんは呟く。わたしは肯定も否定もしない。でもうらやましく思う。わたしだって消えたい。
「ヴィアトリクスさん的にはあとは消えることができれば、満足ですか?」
「今更多くは求めません」
口調が戻ってヴィアトリクスさんは左右に首を振る。
「ですが、もしも機会があれば文句の一つも言いたいですね」
「――……一発叩くくらいは良いんじゃないですか?」
復讐を考えないのかと尋ねようと思ったけれど止めた。なんだかいつかのわたしへの質問みたいだし。代わりに文月に問いかける。
「そういえば、わたし起きましたけど、世界崩壊までまだ時間ありますよね?」
「その辺はフィーニスちゃんの方が詳しいと思うけど……まさか」
「寝ます。何かあったら起こしてください」
「やっぱりー」
言うべきことは言ったので、二度寝をしようと思う。なかなか二度寝をする機会というのはないから、たのしみだ。100年くらいは寝られると予想して、目を閉じた。
本後日談も次で最終回の予定です。
明日更新できればいいなーと思ってます。