世界を崩壊させない方法(2)
本編最終巻配信中です!
「だからって、なの――世界喰イちゃんを捕まえるのはどうかと思うけど」
「他に方法が思いつかなかったもので」
「500年世界を牛耳ってきた使徒様は違うね」
「たかが500年だとは思いますが……誉め言葉として受け取ります」
この世界の王。フィーニスちゃんがヴィアトリクスと呼ぶこの女の子は、500年という時間を自嘲する。
彼女にしてみれば途方もない年齢であると同時に、大したことのない期間なのだろう。あたしもフィーニスちゃんの使徒として人としての感覚をなくして久しいけれど、ヴィアトリクスちゃんもまた只人というには常軌を逸してしまっている。
そんな彼女だけれど、あたしやルルスちゃんを見る目は少しおびえているようだ。
なぜか緊張しているヴィアトリクスちゃんが、何かにじれたらしく話し始めた。
「貴女たちはなにもしないのですか?」
「しないけど、なんで?」
「貴女たちが仕える神を封じたんですよ?」
「フィーニスちゃんが消えたわけじゃないし、あたしはそんなにきにしないかな。ルルスちゃんは?」
さてヴィアトリクスちゃんだけれど、まず世界の崩壊のボーダーを反復横跳びさせるかのごとく、世界の寿命をもてあそんだ。そして世界喰イ――なのちゃんをおびき出して捕らえた。
なぜそんなことができたのかといえば、ヴィアトリクスちゃんが転生前の世界のエネルギーをその魂に宿して転生したから。
そして世界の中の存在として、世界の寿命を回復させた。フィーニスちゃんのような神にはできなくて、神と同等の期間存在し、経験を蓄積させてきたからこそできた荒技。
ある意味で神の意思が絡んだからこそ起こった奇跡。
そしてなのちゃんを捕まえた後は、世界崩壊のボーダーを踏み越えて、フィーニスちゃんが派遣されてくるのを待った。
以前なのちゃんのことをフィーニスちゃんから聞いていたヴィアトリクスちゃんは、なのちゃんが複数の世界を取り込んでいることを知っているだろうし、そのエネルギーを使ってこの世界を延命させることができると踏んだのだろう。
それから、混沌神のおもしろ半分でフィーニスちゃんがきて、それを知ったヴィアトリクスちゃんが、世界を無理矢理蘇生させた。結果フィーニスちゃんが世界に降り立てる条件から外れてしまい、強制的に睡眠に入った。この世界の崩壊が確定するまでの間、封印されてしまったといってもいいだろう。
思わず「恐怖の大王かな?」と思ったけれど、思うだけにとどめておいた。たぶんだれもわからないだろうし。
そんなわけで、ヴィアトリクスちゃんはあたしたちを警戒しているらしい。そしてあたしはもちろん、ルルスちゃんも大して気にしていないだろう。
「フィーニスさまが寝ているのはいつものことですからね。気にするまでもありません。むしろ今の状況を喜んでいるんじゃないでしょうか?」
「そうだよね。帰ったら百年しか寝られないし、この世界でずっと寝ていたいって思ってそう」
「……神っていうのは皆そうなんですか?」
なんかヴィアトリクスちゃんがあきれている。フィーニスちゃんは寝ててもかわいいからいいのに。
「他にもいるかもしれないけど、フィーニスちゃんは特殊だから」
「そう言えば、言っていたかもしれませんね。当時は必要な情報を聞き出すのに精一杯だったので、あまり記憶にありませんが」
「まあ、仕方ないんだろうね」
興味がないことはあたしもあまり思いだそうとしないし。それにヴィアトリクスちゃんは、一応人の範疇だからあたしたちよりもできることに制限があるだろうし。
とりあえず、簡単にフィーニスちゃんの話をすると、ヴィアトリクスちゃんは大きなため息をついた。
「人も神もろくでもないですね」
「いろんな存在がいますからね。関わった存在が悪かったんですよ。フィーニスちゃんやあたしも、ルルスちゃんも、ヴィアトリクスちゃんも」
「その中でも、私が一番可哀想ですね」
それは否定しない。あたしは言うほど可哀想じゃないし、フィーニスちゃんはある程度好きに過ごしているし、ルルスちゃんも捕まっていた間を加味しても死は許されていた。
対してヴィアトリクスちゃんには終わりがない。何度死んでも生まれ変わってしまう。死ぬことなく上位存在に変わったあたしと、人のまま数多の死を経験してきたヴィアトリクスちゃんとでは、同じ期間存在していたとしても、中身は全然違う。
何せあのフィーニスちゃんをして、死ぬのは嫌だと言うのだから。
「でも、今は余裕があるよね?」
「後は待つだけだと思っていますから。貴女たちの神はあまり自覚はなさそうでしたが、他の神にとってわりと重要な存在のなのでしょう?」
「便利に使われる存在って感じかな。いろんな神様に恩は作ってるよね」
「と、言うことは私は神の敵と認定されるでしょう。そして私はふつうに死ねばまた生まれ変わります。また同じことをするでしょう。今回以上のことをするかもしれません」
冷静そうなヴィアトリクスちゃんの瞳は、狂気に歪んでいる。
「そしたら神々は私を完全に消すしかありませんね?」
心からのきれいな笑みでヴィアトリクスちゃんはあたしに問いかける。
正直あたしに問いかけられても答えようがないので曖昧に笑っておく。この世界にきた発端が混沌神であることを考えると、まあ上はだいぶおもしろいことになっているけれど。
ともあれヴィアトリクスちゃんは世界をまたいで、なのちゃんを捕まえてまで準備して、自殺をしようとしているのだ。自分では死ねないから正確には自殺とは違うのかもしれないけれど、死ぬために行動している。
「ところで私はいつまで待てばいいと思いますか?」
「神様って気が長いから、数千年、下手したら数億年とかかかるかも」
「やはりたかが500年ですね」
「それでもこの世界の人からすると長いですし、そろそろ表舞台から消える準備とか始めたらどうですか?」
「……たしかにそうかもしれませんね。手伝ってくれますか?」
「フィーニスちゃんが寝ている間はやることないし、あたしは良いよ。ルルスちゃんは」
「気が向いたら手伝います」
「まあ、ルルスちゃんはそうだよね」
基本的に人を好まないし。あ、そういえば。
「ヴィアトリクスちゃんは寿命はないの?」
「その質問今更過ぎませんか?」
おそらくあと1~2話で後日談も完結になります。
ただ更新は一日空くかもしれません。