世界を崩壊させない方法(1)
本日9月7日「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」の最終5巻の配信開始です。
もう配信してます。よろしくお願いします。
もう何度目かの起床。何桁回数かはさっぱり覚えていないけれど、ぼんやりとしているこの瞬間が、好きであり嫌いだ。
ぼんやりぽやぽやしている時間は心地がよいが、起きたということは働かないといけないから。便宜上神と呼ばれる人から見た時の上位存在であるので、睡眠というものがそもそも必要ないため、この話をしても誰も共感してくれないのだけど。
「フィーニスちゃん、おはよう」
「おはようございます。起きたくなかったです」
「それをあたしに言われてもね。神様に起こしてもらう?」
「それならまだ、文月かルルスが良いです」
目覚めた瞬間から神様の顔を見るのは勘弁ねがう。気分的には上司に起こされたようなものだから。わたしへの依頼窓口になってくれているのは感謝している――それはそれで神様にもメリットはあるみたい――し、不要であっても睡眠がとれる身体にしてくれたのは嬉しいけれど、それはそれ、これはこれ。
「とりあえず、神様のところに行ってきます」
「うん、待ってるね」
そう言った文月は、すぐに視線を別に向けた。その先にはいかにもなテーブルと椅子。テーブルの上にはお菓子とお茶、そして椅子の上にはルルスが座っている。
二人が仲良くしていることは良いことだ。そんなことを思いながら、神様の元へと向かった。
◇
神様のところに行ったのはいいけれど、どうやら混沌神からの依頼らしく、すぐにそちらに向かうことになった。
「それでどんな依頼なんですか混沌さん」
「そう急かすなよ、終末君」
相変わらず胡散臭く、キャラがはっきりしない神だなーと思う。
そしてとてもとても嫌な予感がしている。混沌神からの依頼と言うだけで、嫌な予感もなにもないけど。
「最近、君の姉妹たるうちの子がいなくなったんだよ」
「世界喰イちゃんいなくなったんですね。というか、やっぱり動向を把握しているんですね」
「まあ、生みの親だからね。でも今はどこに行ったのか分からなくなっちゃたんだ。そろそろ、あの子のエネルギーを回収しないとなーと思っていたんだけどね。タイミングが悪い」
そう言うことは、表情を一致させてから言ってほしい。
「何か言いたげだね」
「せめて言葉と表情を一致させてほしいです」
「いやぁ、ごめんごめん。どうにも楽しくてね。ある意味で空前レベルでねぇ」
果たしてなにを企んでいるのだろうか。出来れば、わたしの仕事と無関係であってほしいんだけど。
「一応いっておくと、手は出すつもりだけど大本は別だよ」
「世界喰イちゃんが関わっているけど、黒幕ではないと言うことですか」
「わかる?」
「わからないです」
考えたくないだけともいう。とにかく混沌神が今まで体験したことがないような楽しいことが訪れるらしい。しかもそれは、かの神が主導していないときた。
「それで終末君への依頼だけど、最後に世界喰イが現れた世界に行ってほしい――」
◆
前兆のない嵐。夏に降り出す雪。頻発する地震。そこに住む誰もが何か良くないことが起こっていると予想するには十分すぎる世界。
人の感覚だと緩やかに。世界の感覚だと急激な早さで崩壊に向かっている世界に、一人の女の子が生まれた。両親はその子の誕生を喜び、同時に異常をきたしていく世界を思うとその将来に不安がよぎった。
しかしその子が産まれてから、世界が落ち着きを取り戻し始めた。突然嵐になることが少なくなり、地震もその数を減らした。全くの元通りとはなっていないが、確実に世界が以前の形へと戻っているのだとそう思わせるような状況へと変わった。
陰鬱だった人々の雰囲気が明るくなり、女の子が五歳になったとき、女の子に膨大な――それこそ世界に匹敵するほどの――何か――エネルギー――があることが明らかになった。
その子が産まれてから世界が良い方向へと向かっていることが判明したのも相まって、国はその子を神が遣わした子だと祀りあげた。
初めて国王と女の子が相対したとき、女の子は全く緊張した様子を見せなかった。その上、五歳とは思えないはきはきとした言葉で「わたしの名前はヴィアトリクス。神に遣わされ、この身には世界を平穏に導くための力が宿っています」と告げた。その言葉を戯れ言だと嘲笑する者もいたが、女の子は特に気にした様子もなく、何かを待つように外を見た。
突如として雨が降り出した。風が強まり、窓に雨が打ち付けられる。滝のように窓を伝う雨水の向こう遠くには、穏やかな光が降り注いでいる。
女の子が意味ありげに国王に笑みを向けると、国王は女の子をあざ笑った者たちに謝罪をさせ、女の子もそれを受け取った。
次第に風が収まり、雨が止む。その様を見た者たちは、大きな安堵と少しの畏怖を覚えた。
そんな中、国王は女の子に対して、決して年端も行かない女の子にするような口調ではない厳かな声で問いかける。
「そなたが生まれたということは、この世界はもう大丈夫ということか?」
「それはもちろん――わたしもそう思っていました。ですがわたしだけでは足りないようです。しばらくの平穏は約束できますが、そこから先の保証ができません」
「ではどうする?」
「わたしの力はおおよそ死にかけの世界一つ分です。ですから……」
「より大きな力を持つ存在を探すということか?」
目の前の女の子にすら勝てる存在はいないだろうに、それ以上を探すなどとうていできることではない。不信感をにじませた国王に女の子は首を左右振って国王の言葉を否定した。
「いえ、探して見つかるものではありませんから、この世界に来てもらいます」
自信たっぷりの女の子の言葉にその場にいる誰もなにもいえなくなってしまった。
配信開始記念なのに、主人公が後半から出てこない。