迷子探し ※
本編4巻配信記念最終回です。
正直前回と今回と順番どうしようかなと思いましたが、思い悩んだ結果こうなりました。
過去作関連の話になります。
異なる世界間の移動については、神々はあまり詳しくないことが多い。何せ世界を創ることは出来ても、世界に降り立つことが出来る神は極々稀なことだから。
何となくこうなっているんだろうなと理解していても、数値的に世界にどういう影響を与えているのかを観測できても、それだけのもの。何なら細かいことは抜きにして、世界崩壊に繋がらなければどうでも良い、何か世界に刺激を与えてくれれば尚良い程度の認識の神が大半だ。
だからよほど自分の世界に入れ込んでいる神でもない限り、異世界の存在に寛容なのだ。なんて言っても、わたしに対して寛容でない存在の世界にわたしが降り立つことなんてそうそうないので、結構なバイアスがかかっているかもしれないけど。
そもそも異世界への移動は簡単ではない。一気に20人以上が移動することもあるし、すべての世界を見渡せば今この瞬間も異世界転移は起こっているけれど、異世界転移と無関係の世界の方が圧倒的に多いのだ。
能動的な異世界転移というのは、異世界があるという確信の元、途方もないエネルギーを使って初めて実行できる。
異世界転移が行われている世界の多くは、もとより神が用意していたから。独力で、神が想定していなかった方法で、転生でもなく世界をわたることが出来る存在なんて、神に連なる存在を除けば一万の世界に一人いれば良い方だ。
そんなことが出来る存在であれば、わたしたち神に勝てずとも負けることもないだろう。世界の中に存在するものであれば、誰も勝てないに違いない。それこそ亜神であっても。
そしてそんな存在が居たとしても、神々はその存在に気がつかない。何か世界に関わる重大なこと――精霊をすべて捕らえるとか、世界の崩壊に大きく近づくとか――をしない限り、気にもされない。仮に気がついても、世界を渡ればすぐに見失う。
どれだけ世界の中で強大だとしても、その程度でしかない。
「でも、そういった存在が世界というものを大きく変えるんじゃないかなって思うわけですよ」
「なるほどね。それで貴女はどういう立場なのかしら?」
「それなりに世界上の認識を持った、でも本質的には神側の存在って感じでしょうか?」
「それなら、私にも興味がないのね」
「物語の中の存在って言ったら分かりますか?」
そういうわけで、わたしは今。残された森の中で強大な存在とお茶をしている。見た目は女子高生。格好も女子高生。でも彼女よりも強大な存在をわたしは世界の中で見たことがない。
それこそ世界の始まりから終わりまでを見届けた、夢でたまに見る精霊と比べても。
わたしは別に怖くないけど、文月だったらこの強大さに気がついたら怖がっていたかもしれない。だって文月やルルスでは太刀打ちできないから。とはいえ、この少女が文月と争うなんてこと、まずあり得ないけれど。
何せこの存在は善良だから。人から見ても、世界から見ても。薬になることはなくても、毒になることもない。おおよそ何でも出来るけど、彼女はそれで何かをなそうとはしない。何かするにしても、裏から手を回すだけだろう。
「貴女も妙な言い回しをするのね。私的に解釈すると私に肩入れしてくれるということになるけど、どうかしら?」
「しても良いかなとは思いますね。出来るかはともかく。わたしにできることは貴女にも出来るでしょう?」
「とりあえず瞬間移動もできるし、人の心も読もうと思えばできるわね」
「善良と思っていましたが、思ったよりも意地悪みたいですね」
「その方が魔法使いっぽいでしょう?」
クスクスと彼女は笑う。どうやら彼女は「ぽさ」というものを大切にしているらしい。
「だとしたら、大きな三角帽をかぶって、ローブを着たらどうですか?」
「持ってはいるんだけど、それは出来ないのよね。それは魔法使いっぽいけれど、私らしくはないと思われそうだから」
「それが貴女が世界を放浪する理由ですか。人探しって感じですね?」
「そんなところね。ある日突然消えてしまった子を捜しているのよ。高校生的な格好なのにそうは見えないほど幼い子。魔法を誰よりも愛して、おそらく人よりも高次の存在。そんな存在を知らないかしら?」
「残念ながら、知らないです。その子は世界を食べたりしませんよね?」
「食べないわね。お菓子は好きだったけれど、世界のことをお菓子とは言わない……はずよ」
果たして彼女が捜しているのはどんな存在なのか。人よりも高次の存在となれば、亜神とかそのあたりだとは思う。少なくとも世界の中の規模の存在。でも彼女はこうして、元の世界を捨てて世界を巡っている。
ということは、彼女的には世界の中の規模よりもさらに視野を広めたような存在と言うことか。それこそ神のような。
もしくはそれに準ずる何か。神が居るのだから、居ないことはないのだろう。わたしは見たことがないけれど。神がしらないだけで、神と同規模で世界に入り込める存在が居るのかもしれない。
「どちらにしても、わたしには心当たりがありませんね」
「神様ならもしかしたら、と思ったのだけれど。仕方がないわ。肩入れしてくれるというのなら、一つ頼まれてくれないかしら?」
「面倒なことでなければ、良いですよ」
「あの子に会うことがあれば、伝言を頼みたいのよ」
「あの子とやらが、そもそもどんな存在か分からないんですが」
「その時にはその時ね。でも分かると思うわ。様々な世界を見て回って改めて理解したけど、あの子はとても異質だったもの」
「まあ、聞くだけ聞いておきます」
「『必ず見つけるから』そう伝えてくれる?」
「了解しました。ですが、期待はしないでください」
わたしは自由に世界を移動できるわけではないから、むしろ会う可能性は低いと思うから。
「それで十分。それじゃあ、私はこれで失礼するわね。世界の崩壊に巻き込まれたら、さすがに助からないだろうから」
彼女はそういい残して、すっと消えてしまった。
新しい世界へと旅立っていったのだろう。
それは良いとして、果たしてこの世界の神は今のやりとりを認識できていたのだろうか? たぶん無理だろうな。
何せ私が今の世界にやってくるとき、もう動物は存在していないって言っていたし。精霊の類もいないって言っていたし、世界崩壊が決まってから、世界崩壊に関係する存在をすべて消したらどうなるのか、みたいな実験の場だったのだ。
わたしは世界の上から、観察するのが役目。影響は少ない方が良いと言うことで、文月とルルスはつれてこなかった。
そんな中で平然と存在していたのが彼女だ。
興味本位で近づいて、興味本位で話を聞いていたけれど、それでもこの世界の神からの接触はなかった。
一つに彼女がこの世界のルールに則った存在では無いというのがあるだろうけれど、何より彼女の能力の高さ故だろう。
正直、そんじょそこらの召喚勇者のチートなんて歯牙にかけないような、そんな能力を彼女は持っている。
具体的にはわたしがただのフィーニスだった時代に彼女と闘うことがあれば、わたしが負けていた。
そんな彼女が何を探し、どうなって行くのか、気になるのは確かで。だからこそ、物語のようだと称したのだけれど。気に入った登場人物に肩入れしたいのは、受け手であれば考えたことがあるのでは無かろうか。
さて、もうわたし以外の存在がほぼいないこの世界だけど、残念ながら静かな崩壊とはならなかったようだ。やはり寿命を迎えない限り、綺麗に消えていくことはないと言うことだろう。
半分に割れた地面を見て、わたしは一つあくびをかみ殺した。