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統合された世界

本日より本編「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」の4巻が配信されます。

加筆部分もありますので、よろしければ読んでいただければと思います。


「魔女様。準備が整いました」

「そう……ぎりぎりだったわね」

「魔女様のお言葉を理解できるものは少ないですから」

「それもそうね。実際あなただって、私がやろうとしていることは分からないんじゃないかしら?」


 黒のとんがり帽に、金色の刺繍の黒いローブ。年齢は20歳程に見える魔女と呼ばれた女が、恭しく控える初老の男に笑いかける。

 男は女の問いに首を振り「その一端のみならば」と堅い口調で応えた。それから周囲の様子を見て、暗い笑みを浮かべる。


「わたくしに理解できるのは、魔女様がこの憎き世界を終わらせてくれるお方だということ。娘を奪い、土地を枯らした王侯貴族(奴ら)に復讐の機会を与えてくださったということ。それだけで十分なのです」


 ほんの数年まで――各地で大災害に見舞われながらも――栄えていた世界国々はその様子を大きく変えている。整然と作られていた町並みは今や崩れていないところが無く、国を象徴する城も傾いている。

 草花は限られたところにしか見受けられず、乾いた大地はヒビが入り落ちたら助からない溝が無数に生まれていた。


 国に活気など無く、何とか国としての体裁を保っているところがほとんどで、中にはすでに滅び無法地帯となったところまである。

 男はこの様子を見るのが楽しくて(悲しくて)仕方がない。そんな男と似たようなものたちが魔女の元に集まった。


「確かに私はこの世界の寿命を()()、国を崩壊させたけれど、放っておいてもこの世界は遠からず終焉を迎えたのよ。それこそ後10年ももたなかったでしょうね。だから私はあなたたちを自分の目的の為に利用しただけよ」

「それでも構わぬのです。魔女様に目的があるように、我らは自らの手で国を滅ぼしたかった。それほどに腐りきっていた」

「国が困窮していく中、最初にしわ寄せが来るのは一般市民ってことよね」

「それだけなら良かったでしょう。ですが奴らは自分たちだけを救い、下のものを玩具にした」


 世界崩壊の原因は国を形作るのに必須だと言われる宝玉。元々は人の魔力を使って運用していたが、膨大な魔力が必要であり、管理している王族貴族は短命のものが多かった。

 だからこそ国を象徴するものとして敬われ、王侯貴族の元となったのだ。国のために命を削っているからこその特権だったと言っていい。幾度となく国々は名を変えたが、宝玉の数が増えることはなく、国の数だけはかわらない。


 現在に至ってもそれはかわらないが、その有り様は大きくかわってしまった。世界から宝玉に使う魔力を得る手段を発見してしまったのだ。当初はその技術を危惧している者も多かったが、短命であることを嘆いていたとある王族がわずかに肩代わりをしてもらったことを皮切りに、各国でこの技術が使われるようになる。

 それでもはじめは問題なかった。世界に無数にいる生物のそれなりに栄えている種が自己保存のために使ったくらいで、世界がどうにかなるわけがないから。


 しかし、人々は徐々に贅沢を覚え、より数を増やし、さらに上等な暮らしを求め続けた。

 結果、世界の許容量を越えた。気がついたときには、人々は当時の生活を手放すことなんて出来なくなっていた。世界から利用できる魔力が少なくなるにつれ、集落が切り捨てられ、村が切り捨てられ、町が切り捨てられ、とうとう都に住む者も切り捨てられ始めた。


 切り捨てられただけなら、まだ良かったかもしれない。腐敗した王侯貴族は切り捨てた民たちで自らの欲を満たし始めた。より残虐に殺し、より苦しむように拷問した。玩具のように扱われその人生を終えた。

 多くの人は世界がおかしくなっていく中で、恐怖の大王を待ち望んだ。でも中には能動的に復讐をしたいというものも少なくない。


 その人たちが私を魔女様と呼び称えている。


「それじゃあ、始めましょう。この世界の終わりを」


 丘の上から信者たちを見下ろす。私が両手をあげれば、信者たちは歓声を上げ、同じように両手をあげた。

 信者たちの下には大きな大きな魔法陣。この世界には存在しない、()()()()にも存在しない、ある魔法使いに教えてもらった魔法陣。本当はこんな使い方をするものではないのだけれど、私の知識と併せて何とか形を作った。


 自慢じゃないけれど、私はかなりの知識を持っている。数え切れないほどの世界をわたり、数え切れないほど死に、各世界の中で学び続けてきた。でも転生する度に私の力はリセットされる。どれだけ前世で最強の力を手に入れようとも、最高の魔法を使えたとしても、転生すれば一からやり直しだ。


 それでは私がやりたいことには間に合わない。私は30年も生きられないのだから。


 魔法陣はぼんやりと妖しく光り、一人また一人と信者たちがその中で倒れていく。倒れた人には息が無く、心臓の鼓動も聞こえない。

 それを私がやったと自覚して、痛む心は私にはない。彼らは望んでこうなったし、私の心は痛む前に壊れている。それから私の中に何かが入ってくるのを感じて、わき出してくるのは安堵。


 そして急速水を失っていくかのように魔法陣の周りの地面からひびが入る。植物が枯れ、瞬く間に死の大地へと変化した。

 目に映る範囲がすべて枯れてしまったとき、信者たちの三分の一はこの魔法を維持する犠牲になり、同時に私の一部へとなっていく。


 今頃王都は大混乱に陥っているだろう。貴族だろうが、平民だろうが、平等にこの魔法に飲まれていくのだから。何人平民を犠牲にしても割れる地面は変わらず、建造物は崩れていく。

 それが信者たちにも分かっているのか、死に向かっているというのに歓喜の表情を崩さない。


 どれだけの時間が経っただろうか。最後の信者が倒れたところで、とうとう魔法が世界の核へと至った。世界を食い尽くした魔法は世界とともに消え失せ、私もまた無へと消えていった。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
[良い点] もはやメインキャラに昇格した魔女様こと本名(?)ヴィアトリクスさん [一言] 「恐怖の大王を待ち望んだ」との事だけど、魔女様ことヴィアトリクスさんは存在自体はそれが実在する事は知ってますも…
[一言] 疫病神扱いから、フィーちゃんの追っかけ(文字通り)にジョブチェンジし、その後フィーちゃんの部下にジョブチェンジしたかと思ったら今度は魔女ですか... 経歴が特殊すぎる
[一言] いつもの人!いつもの人じゃないか! ついに自分で世界をふっ飛ばしに行った……!! そういや今回、終末神出てこなかったな? 一応、来てるとは思うけど……
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