双子の魔法使いの世界(後) ※
「そんなわけで、彼女たちが今の世界の仕組みを作り上げた存在です」
双子はこちらを警戒しているけれど気にしないで、ルルスと文月に教えてあげる。しかしながらわたしの話をどれくらい聞いているのか、二人は驚いたように双子の方を見ていた。
まさか気がついていなかったのかー。しゅぎょうがたりてないなー。
というのは置いておいて、それだけ双子の能力が高いということ。
それから別にこの世界で何かをするつもりもないし、双子の警戒は解いておきたい。あと驚いている二人にそろそろ正気に戻ってもらいたい。
「このままだとお互い緊張しっぱなしでしょうし、自己紹介と行きましょう。最初は文月からお願いします」
「あ、あたしから?」
テンパったような声が聞こえてきたけれど、知ったことではない。
すぐに気を取り直した文月が自己紹介を始める。
「あたしの名前は文月梦。元女子高生で今はとある神様の下で働いている……天使みたいなもの……かな。年齢はもう覚えていないけど、5桁は越えてると思うよ」
「次はルルス、お願いします」
「私はルルスと申します。終末神であり、契約神様に仕えている、精霊です。人間はあまり好きではありません」
簡潔にだけれど、こちらの二人が自己紹介をする。神とかふつうに言っているせいで、わたしの自己紹介のインパクトがなくなってしまった気がする。これは順番を間違えてしまったようだ。
でも聞かされた双子が一番反応していたのは、「女子高生」のところだったから、「わたしが神だ」と高らかに宣言しても、大して反応しなかったかもしれない。
まあ、いいや。自己紹介しよ。
「わたしはデア・コンティラル・フィーニス。元男子高校生にして、一般終末神兼一般契約神の、不本意ながら一般上級神です。好きなことは寝ること。嫌いなことは起こされることです。どうぞ、よろしく」
きちんと正しく自己紹介したのに、やはり神関係のところよりも元男子高校生という方に反応していた。
神様とか言われても、意味が分からないからスルーしただけなのだろう。相手の理解力のせいで、わたしは悪くない……なんてことはなく――わたしは悪くないけど――、双子がすでに超常の存在というものを知っているのだろう。
ともあれこちらのことは終わったので、何か言いたそうな顔をしているあちらにも自己紹介してもらおう。
質問タイムはそれぞれ自己紹介が終わってからだぞっと。
「こちらのことは分かったと思うので、そちらについても教えてくれて良いですか?」
「分かったかと言われると、謎が深まった感じはするけど、その通りだね」
気の強そうな方が先に反応して、そのまま話を続ける。なるほど、きちんとインパクトが強い方を後に残すわけか。
ちゃんと考えているじゃないか。
「あたしの名前はイバラ。この世界の一般的な魔法使い。魔法についての説明は?」
「この世界で魔法と言えば、無数にある平行世界と繋がって、その平行世界で使われていた魔法を行うものが一般的ですね」
「そこまで分かっているなら、必要ないね。年齢についてはもう覚えていないほど何だけど、たぶん貴女たちよりは年下じゃないかな?」
「年下でしょうね。わたしは何もなければ100年寝ているので、活動時間で見たときにどうかは知らないですが」
年齢については、この場に見た目相応って存在はいない。魔法を極めると、年老いることを遅くすることも出きるし、一握りだとしても不老に手が届く人もいる。
わたしも不老に手が届き、簡単に人を不老に出来そうな人に心当たりがある。ルルスや文月を欺けるほどとなれば、不老になっていてもおかしくはない。
「それじゃあ、最後はわたしですね。カグヤと言います。この世界の唯一の魔法使いです。イバラちゃんとは双子で、とある人たちとの出会いがあって、魔法使いになることが出来ました」
「唯一……ですか」
カグヤの自己紹介に横入りする形だけれど、思うところがあったので意識を横に向ける。
それに気がついたらしいイバラがフォローするように話し始めた。
「あたしが一度死んでカグヤに取り憑いたから、あたしを一人と数えていないわけじゃないよ?」
「魔法の体系がそもそも違うからですよね。イバラが使うのはあくまで平行世界の魔法でしかないですから」
「つまりカグヤさんはこの世界の魔法が使えるってことだよね。でも……」
イバラの事情が軽く流される。イバラ自身そこまで深く話すつもりもなさそうだし、わたしも特に深く尋ねる気はないけれど、文月がスルーするのも珍しい。こちら側に近くなったのか、それとも文月的に優先度が高いのが、魔法に関することだったのか。
「でももなにも、彼女は何でか使えるんですよ」
「フィーニスちゃんは知ってそうな感じだね」
「今理解したって感じです。それに魔法なんて突き詰めて考えると、神がかくあれとしたから使えるものです。神が挟まっている以上変に考えるだけ無駄ってものです」
「まあ、確かにね」
そもそも平行世界に魔法があるわけだから、根幹世界で生まれること自体は無いわけでもない。限りなく可能性は低かったんだろうけど。
「自己紹介に戻っても良いでしょうか?」
「構いませんよ」
「改めて私がこの世界の唯一の魔法使いで、世界を今の形にした張本人です。私の魔法は基本的に望んだことが出来ますから。私の魔法のことを奇跡と呼んだ人もいました」
「それにしたって、規模感がだいぶ狂っていますけどね」
世界の構造を変えてしまったわけだから、やっていることが神様じみている。実際に神がそんなことをしようものなら、世界が壊れかねないけれど、世界の中にいる彼女だから成し遂げられた、まさに奇跡だ。
「望んだことをと言いましたけど、何でもというわけではないんですよ。望んで出来そうだなと思えば、やり方が思い浮かぶという感じです」
「自己紹介はこれでいいよね。それでいろいろと聞きたいんだけど」
「構いませんよ。わたしたちは基本的に暇しているだけですし」
イバラが話を遮って、話を変える。というか、話したかった話をし始めた。今回のお仕事から考えても、わたしたちが暇をしているというのも事実だし、暇つぶしになるなら付き合うのもやぶさかじゃない。
暇だったからわざわざ文月たちにこの世界について時間をかけて教えていたわけだし。
「まず貴女たちの目的は何?」
「この世界の行く末を見届けることですね」
「……何かするつもりはないと言うことでいいの?」
「積極的に何かするつもりはないですね。破壊行動をするつもりもないですし、わたしがここにいる時点で世界の寿命の減りが早くはなっていますが、これはどうにかできるようなものではないです」
「何でそんなことを?」
「頼まれたからです。たぶん文月もルルスも気がついていないと思いますが、この世界って神々から見ても面白い世界なんですよ。だから、その行く末を知りたいという酔狂な神も居るわけです。もっと言ってしまえば、逆らうと面倒な相手に頼まれたのできました」
「……神様の世界も大変なんだね」
「ブラック企業とかよりはマシだと思いますよ」
上司と部下みたいな関係じゃなくて、社長同士のつきあいって感じの方が近いだろうし。わたしは明確に神様の下について行るような感じだけど、正直楽だからそうしているだけだ。
同情的な声にあっけらかんに返すと、イバラの方から何とも言えない目を向けられてしまった。
「とりあえず一つ質問に答えましたし、こちらに害意がないのは分かってもらえたと思うので、こちらからも質問して良いですか?」
「そうですね。いいですよ。答えられるものに限りますが」
「じゃあ、文月。何か質問して良いですよ?」
またわたしから指名されて、文月が「え?」と声を上げる。
わたしとしてはあらかた事情は理解したので、別にいいかなーって感じなので、基本的に文月に質問権は渡そうと思う。ルルスに渡さないのは、ルルスが質問したそうではないから。
「とりあえず一つ、だよね。じゃあ、どうして昔は世界を守っていたの?」
「私たちの大切な人たちの帰ってくる場所を守るためですね」
「大切な人たち?」
「質問は一つにつき、一つだよ」
イバラが文月に待ったをかけて、それからわたしに二つ目の質問をぶつける。
「貴女の神としての役割はなに?」
「依頼を受けて終末の世界に行くことですね。そこで行うことは、依頼主次第なので特に決まっていません。後は契約も司っていますので契約を守らせるみたいな役割もあります。簡単に言うと、コンティラル神に誓ってと約束をすれば、強制力が生まれます。たぶんわたしが今後関与できる世界であれば、どんな世界でも使えるでしょうね」
契約神の方は自動的にいろいろしているため、普段はそんなに意識していない。実は神の中には自分の世界の人にわたしの名前を教えて、契約関係をわたしに放り投げている人もいる。でも契約は機械的に処理できるので、寝てても何とかなる。
わたしが答え終わったところで、文月が先ほどの質問をする。
「貴女たちの大切な人って言うのは?」
「突然居なくなってしまった小さな女の子と、その子を探しに行ってしまった私たちの先輩です。二人とも私たちが及ばないほどの魔法使いでした」
「いろいろな世界にいったことがあるなら、その小さい子を他の世界で見たことはない? 不思議な話し方をする、不思議な雰囲気の子だから見たらすぐに分かると思うんだけど」
「わたしは見たことがないですね。文月とルルスはどうですか?」
次の質問を受けて、二人にも確認をするけれど、ルルスは首を左右に振り文月は「なのちゃんじゃないんだよね?」と首を傾げた。
たしかに不思議な話し方の不思議な雰囲気の小さい子ではあるけれど。でも質量的にはぜんぜん小さくはない。何より魔法使いではないけれど、確認だけはしておこう。
「その子とやらは、世界を食べちゃう系女子ですか?」
「違うけど、そんな存在が居るんだね」
「居るんですよ。この世界だったら撃退できそうですが。ところでもう一人はいいんですか?」
「アリス先輩のことは心配していないから」
「私たちが無事なのに、先輩がどうにかなるなんて考えられないです」
確かに違いない。
これであちらが聞きたいことは無いだろうから、次の文月の質問で終わりだろう。
「どうして、世界を今のような状態にしたの?」
「あの子が居なくなってしまったということは、この世界が見放されたのかなと思ったのと」
「彼女たちが帰れるようにと守っていた場所が壊されてしまったからです」
双子の返答には何とも言えない虚無感が見て取れる。たぶん怒ったり、憎んだりする前にどうでも良くなってしまったのだろう。
それでカグヤの方の魔法が暴発なりして、意図せずとも形になってしまったとか、そんなこともありそうだ。
「さて、これで話はおしまい。貴女たちはどうするの?」
イバラが勢いよく立ち上がり、先ほどまでの雰囲気を吹き飛ばすように元気よくそういった。
すぐに立ち去らないと言うことは、まだこちらと関わる気があるのだろう。せっかくなので、うちの遣いたちの相手でもしてもらおう。
「文月とルルスは一緒にいって、勉強でもしてきてください。この世界の魔法について、理解を深めておくと良いですよ。今後役に立つかは知りませんが、興味深いのは間違いないので。あ、これ命令ですから強制です」
「はぁ……分かったよ。どこに行くか分からないけど、あたしたちも一緒に行って良いかな?」
「それは良いですけど、フィーニスさんは?」
「適当に寝てます。世界崩壊までまだ時間がありますし、文月とルルスならわたしがどこで寝ていても何となく場所分かるでしょう」
もの言いたげな8つの目がこちらに向くけれど、面倒くさいわたしはシッシと手を振って追い払う。それから寝ますよとアピールするために、腕を枕にしてテーブルの上に伏せた。
それから4人の気配が遠くに行ったのを確認して顔を上げる。
「姿を見せなくて良かったんですか?」
わたしが真横の席に問いかけると、すっとわたしと同い年くらいの女の子が姿を見せた。髪が肩くらいまであって、先ほどの双子と同じ制服を着ている。
女の子は困ったように眉をひそめると「まだ会えないの」と首を振った。
「そうですか」
「でも、最後には会えるから。そこから先はずっと一緒のはず……だったんだけど……」
「一人居なくなってしまったんですね」
女の子がうなずく。
「酷いかな?」
「別に貴女は酷くないと思いますよ。誰もが考える純粋な願いだったと言うだけです。やっぱりこの世界の魔法は、ぶっ飛んでますね。若干猿の手感もありますが、それはそれとして」
「?」
女の子が不思議そうに首を傾げる。
「思ったよりも、不思議な話し方ではないですね」
「大きくなったからね」
「貴女のような存在が大きくなったと言えるまで、あの二人はがんばっていたわけですか」
「うん」
女の子が4人が歩いていった方向を優しい目で見つめる。
「そういえば、貴女に会ったら伝えてほしいと頼まれたんでした」
「伝言?」
「『必ず見つけるから』だそうです」
わたしの伝言に女の子は一度大きく目を見開いたかと思うと、花が咲くように幸せそうな笑顔を見せた。
「うん――待ってる」
女の子はそれだけ言うと、わたしの前から姿を消した。
◇
ポロポロと見せかけの現実がはがれていく。そうして現れた地面は――地面など現れるはずもなく、ただ燃えたぎるエネルギー体だけがあった。
根幹世界は人々がそのすべてを壊しつくし、残った核に平行世界と共に落ちていく。人々の運命はただ落ちるのが早いか遅いかだけ。
ただの一人も助かるものは――いないわけじゃない。
(彼女たちは無事なんでしょうね)
言葉にせずに双子と女の子のことを考える。
そうしていたら、ルルスから疑問が上がった。
「この世界は何が特別だったのでしょうか?」
「この世界って、この世界を作ったという神がいないっぽいんですよね。少なくともわたしはこの世界を創った神に依頼されて、ここにいるわけではありません。面白そうな世界を見つけたという、混沌さんの依頼でここにいます」
「そんなことがあり得るんですか?」
「目の前にあり得ていたのがそうですよ。創って放置して忘れられたとか、隠れるのが得意で混沌さんにも見つからずに今も隠れ潜んでいるとかはあるかもしれませんが」
「フィーニスさまの意見としてはどうなんでしょうか?」
「特殊な創られ方はしているなーって感じです」
神と自称しても分からないこともあるということで一つ。
もとよりわたしにはわからないこと、できないことだらけだけど。





