双子の魔法使いの世界(前) ※
本編4巻配信決定記念。
例によって過去作世界の崩壊系です。どの作品かわかったら、正直凄いと思います。
人――人間の成長性というのは、見ていて面白いものがある。だからこそ神々は世界に人間――もしくはそれに近しい知的生命体――が生まれることを喜ぶのだろう。
その世界の成り立ちにも寄るけれど、最初から人間を配置することだってある。進化の過程で生まれることもある。
実は人間よりもさらに進化した存在もいる。そもそも人間って言うのはわたし――フィーニス――の呼び方だからややこしくなるのだけれど。
わたしが通山として生きていた時に人間と称していた存在もまた、人間から進化した種と言える。
同じような見た目をしながら、巨大な外敵を剣一本で倒せるようになる土台があるのも、不老不死にまでいたる魔法を扱えるようになる土台があるのもまた進化。
いわゆる剣と魔法の世界でいえば、物理に特化して進化していった人間もいれば、魔法に特化して進化した人間も居ると言うことだ。その見た目に大して違いがなくても進化は進化。
そうして進化していった先。わたしが人間として生きていた世界に近いけれど、さらに人間が進化していった世界に今回はやってきた。肉体的な強度は通山と大差ないけれど、その発想力・科学力がより凶悪化してしまった世界。
車が空を飛び、急ぎの時には空間を移動し、人工的に管理された以外の自然が失われ、やろうと思えばベッドの上で一生を快適に過ごすことが出来るが、魔法や魔術と言った超常的なものは――一般的には――存在しない世界。
でもこの世界は魔法によって支えられている。そんな不思議な根幹世界。
「平和……ですね」
「ルルスがそんな顔をするなんて珍しいですね」
科学と多様性が進みすぎて、人々がカラフルになったのでルルスが居ても全く浮かない。だから文月もルルスもつれてきた。で、ルルスがまるで奥歯に何かが挟まったかのような顔で平和を告げる。
「終末世界はだいたい荒れ放題ですが、平和な場所だってありますよ?」
「そういうことじゃないよ、フィーニスちゃん」
一般女子高生みたいな文月もまた違和感があるらしい。
まあ、言いたいことはよくわかる。この世界は何というか、面白い。
「この世界は平行世界がありますからね」
「そういう世界は今までもあったけど、それともまた違った感じだよね?」
「一つ一つの世界が切り捨てられているタイプだというのも分かりますが、それでも違和感が拭い切れません」
文月の言葉にルルスが追随する。二人は能力的に同じくらいだし、同じ疑問が生まれるのだろう。というか、同じところまでしか分からないのか。不服ながら上位神に数えられるようになったわたしの、直轄の部下みたいな二人が違和感程度にしか気がつかない。
下手な神だと成り立ちから考えて、この世界がおかしいのになぜか存在しているくらいの認識になるだろう。
魔法的な違和感を覚えている二人はまだマシなのかもしれない。
本格的な説明をするために、カフェにでも入っていよう。この世界、一番安いメニューであれば無料で頼める。この世界にしてはそれだけの味ということになるけれど、ほかの世界基準だとふつうに貴族とかが飲むレベル。
どうしてそんなことが出来るのか、この世界の歴史から説明は出来るけれど、重要なのは一般終末神フレンドリーな世界だと言うこと。
現実問題無料メニューを頼む人は少ないのだけれど「たまーにこの味が飲みたくなるんですよねー」と笑顔で言うと、店員さんも「わかりますー」と笑顔で商品――今回はコーヒーだけだけれど、サンドイッチもシンプルなものは無料だったりする――を出してくれる。
受け取った三人分のコップ――陶器のようだけれど壁にぶん投げても割れない――を持って、日傘がついた六人座れるテラス席に向かう。
端に座ったわたしの向かいに二人が並ぶように座った。それから通りの方を見てみると、玩具の剣を持った二人の子供が向かい合っていた。見た目はプラスチックの安っぽい剣。子供の力で切りつけても、ちょっと痛いで済みそうな程のやつ。
だけれど、それを彼らが振りかぶるように構えると、片方からバチバチと電気が纏い、もう片方には剣を軸に炎の渦が生まれている。
それから無邪気な「「いけーー!」」という二つの声と同時に振り下ろすと、それぞれの剣からそれぞれの属性のビームみたいなのが飛んでいった。二つはぶつかり合うと大きな爆発と共に消えてしまう。
ド派手な光景だったはずなのに、周りの人は特に気にした様子もなく、強いて言えば微笑ましい視線を向けられる程度でしかない。
爆発の中心部含めて町はまるで何もなかったかのように無傷で存在し、何なら別の場所でも爆発が起きているような光が見える。
なるほどこれは見た目だけで、大した威力はないんだなと思うのが素人。素人はだま――――。
「フィーニスちゃん。なにまっすぐ前を見た状態で目をつぶってるの?」
文月に声をかけられたので、何事もなかったかのように目を開ける。
「あれ、どう見えました?」
「わけわかんないかなー」
「ルルスはどうですか?」
「見た目だけの代物ではないのは分かるのですが――……どうして周囲に被害が無いのか、理解できません」
どうやら二人とも素人ではないらしい。とはいえ、その辺を話すとだいぶ横道にそれてしまうので、頭の片隅にでも置いていてもらってこの世界の話に戻る。その時に格好付けてコーヒーを飲むのを忘れない。終末神の嗜み。
「まず前提条件です。平行世界が無数にある世界ですが、根幹となっているのはこの世界です。平行世界がいくら滅びようとも、この世界が大丈夫ならわたしの出番ではありません」
「それは分かるよ」
「この世界も遠くないうちに消えてしまうのは、感じ取れます」
「そこが分かっていれば十分だと思うんですが、せっかくですし話をしましょうか」
わたしはそういってから、同じテーブルの対面で空いている椅子を見る。店員が忘れていたのか――人が座れるくらいに椅子がひかれていた。
「この世界の科学力って、世界規模で見てもかなり危険なんですよね。具体的には、単一国で世界喰イちゃん倒せるくらいでしょうか?」
「それは……凄いね」
「つまりこの世界の科学は世界を消滅させることが出来るということですよね?」
「その通りです」
ここで言う世界が消滅するは、文字通りの消滅。例えば地上に生物が存在しなくなるほどの滅びとかそんなレベルではなくて、一瞬でわたしの仕事がなくなるということ。
「実際、すでに何十という世界が消滅しました」
「平行世界を犠牲にしたわけですか」
わたしの言葉足らずのセリフにルルスが聡く付け加える。
「はじめは世界が消滅するほどではなかったんですが、今となってはって感じですね。何せ平行世界が身代わりになってくれるので、目に見える被害がそこまででもなかったですから。今でこそ世界全体が平和ですが、かつてはどこかで戦争が起こっていましたからね。
倫理観なんて無視して、いろいろな兵器が作られたものです」
「だからって、世界崩壊には結びつかないよね?」
「ええ、もちろん」
今までの話はこの世界を守っていた機構の話。これが生きていれば平行世界を消し尽くすまでは、世界の寿命問題には行き着かない。
過剰なエネルギー消費にも平行世界が役に立ってくれる。
でもそれは過去の話。今は平行世界で表面を取り繕っているだけ。
「とある時を境に根幹世界を守るシステムが書き換えられました。今わたしたちがいるのは、根幹世界の表面に作り上げられた平行世界みたいなものです。この表面で行われた破壊行動はどうなるのか」
「根幹世界に流れていっている……?」
「だから崩壊が近いわけですね」
先ほどの爆発だって、確実に世界そのものを傷つけている。
「じゃあ、今この世界の人が本気で戦争をしたら」
「一瞬で世界消滅ですね。幸か不幸か今のシステムになってから、大きな争いは起こっていないですけど。そのかわり誰もが娯楽のように世界に攻撃する世の中になっていますけど」
やっている本人たちはそんな意識はないだろうけど、だからこそ質が悪い。科学の範疇ではあるけれど、気軽に大規模魔法みたいなことが出来れば、面白がって使う人は多い。派手な見た目のものが多いし。
子供のお遊びであれほどなのだから、これが大人が見る映画とかになるとどうなってしまうことか。
「さて今この世界で起こっていることは理解できたと思います。それで何か疑問はありますか?」
「誰がこの仕組みを創ったのか、かな」
「そうですね。この根幹となっている世界には魔法は存在していないという認識です。魔法の概念はあってもそのすべては平行世界へと分かれていったはずですから」
「神様が手を加えたって言うのもないしね」
「そこまでは正解です。平行世界が生まれるところまでは神の設計――平行世界で根幹世界を守るというところまでは、設計できなくはありません。ですが、そこまでです」
実際には平行世界が生まれるところまでが設計にあったものだろうけど。
「といったところで、この仕組みを作り上げた存在――この世界の魔法使いが居るわけですが、出てきてもらっても良いですか?」
先ほどちらりと視線を送った空いた席を今度はがっつり見る。すると誰もいなかったはずの椅子の上に、10代後半ほどの少女の姿が現れる。鏡に写したかのように、同じ顔が相対するように座っていた。
同じ顔とはいっても雰囲気は同じではなく、片方は気が強そうで、片方は優しそう。そして気が強そうな方は体がちょっと特殊だ。まあ、双子の魔法使いがそこにいたというわけだ。
そして気が強そうな方が観念したように話しかけてくる。
「気がついてたんだね」
「だから六人席に座りましたから」