黒と青 ※
この作品は1話1世界壊れるのでネタ切れが深刻なのですが、ふと更新済み作品を見ると崩壊していない世界がいくつもありました。
そんなわけで、過去作コラボ的な奴です。今後過去作関連はタイトルに「※」付けます。
「『今すぐこの場から立ち去れ』」
「イヤです。面倒くさいですし。文月にルルス、立ち去ろうとしないでください。わたしのお世話をするお仕事を放棄するなんて許しませんよ」
「何だと……」
黒髪黒目の男がとても驚いている。文月とルルスには効果のある能力なのだから、今まで効果がなかったなんてことはないだろうし、驚くのも仕方がないか。
文月とルルスは自分たちが立ち去ろうとしているのに気が付いて、驚いている。皆、驚きすぎているんじゃなかろうか。驚いていないのは、わたしと男の後ろにいる赤い瞳の少女くらい。
驚いていた文月が申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね。なんだか急にここから立ち去らないといけない気になって」
「申し訳ございません」
「仮にも目の前の彼は亜神を消滅させた人物ですからね。仕方ないと思いますよ」
彼らがこの世界の最後の存在。この二人以外はもう虫一匹も残っていない。そうなってから、数十年は経っているのだけれど、彼らは何を感じているのだろうか。なんて考えてみるのも面白い。
とりあえずファーストコンタクトはバッドなコミュニケーションだったので、どうしたものかと男女の方を見たら、赤い目の少女の方が話し始めた。
「初めまして。私はルーリーノです。この世界で魔族の王を長くしていました。黒髪の彼はニルです。気が付いているようですが、特別な力が使えます。それであなた方は何者ですか?」
「わたしは仕事でこの世界に送り込まれた、かわいそうな終末神です。この世界の終わりを見届けてこいと、パシらされて来ました。残りの二人はわたしのお世話係です」
「神……この世界にいた神と関係があるんですか?」
ルーリーノと名乗った少女がこちらへの警戒心をあげて話しかけてくる。この世界の亜神と二人はただならぬ関係だったし、その警戒心はわかる。混沌さんが作ったこの世界は、とても面倒くさいのだ。そういう風に世界を作ったから。
「かつて貴女方が消滅させたのは、わたしたちの尺度から言えば亜神と呼ぶべきものです。一応役割があって、神として存在していましたが、真にこの世界を作った存在からすれば、消滅させたからといってどうとも思っていないらしいですよ。
もちろん、今回たまたま送り込まれた、わたしたちとは関係はありません」
「それならどうして、この世界にやってきた。もうこの世界になにもないと思うが……」
「見学しに来たといえば、通じますか?」
「見学?」
黒髪のニルが額にしわを寄せて言葉を繰り返す。
「はい、見学です。貴方たちがどうやってこの世界を滅ぼすのか、それだけを見に来ました」
「止めに来たわけではないんですね?」
「今更止めたところでこの世界がどうにかなるわけでもないですし。わたし的に惜しむところもありますが……わたしは何より眠ることが好きなんです」
「眠るのが……?」
不思議そうな顔をされたけれど、好きに解釈してくれたらいい。別に理解されなくて良いし。
「とりあえず、お二人がこの世界を自らの手で消し去りたいのは理解しているので、好きにしちゃってください。わたしたちは世界が消滅したからといってどうにかなる柔な存在ではありませんから」
直接話せたので、もう十分。文月とルルスを呼んで、この邸を後にした。そのときぽかんとしている二人の顔が印象的だった。
◇
翌日、遠くから二人の様子をうかがう。
人――と魔族――の癖して、ノーモーションで空に浮かび、両手をつないで何かを話している。詠唱しているのかも知れない。
二人ともが口を閉じたところで、二人が作る円の中心から眩しいばかりの光りの玉が生まれる。大きさ的にはバスケットボールくらいの小さい光りの玉は、緩やかに落ちていく。
短いような、長いような時間を使って地面にたどり着き、すっとその下へと消えていく。
二人はやりきったようなすっきりした顔をして、光りの行方を見守る。そのときルーリーノの方がニルに抱きつくような格好で、仲の良いカップルのようだ。文月は光りの行方よりも、二人の方が気になるらしく、そちらをガン見している。
向こうからは見えていないことが救いか。
光りの玉が地面にたどり着くよりも、もう少し長い時間がかかって、大爆発が起こった。
一瞬にして、世界が白い光りに包まれて、その中で空の二人の距離が近づいていく。その顔が重なり合わんとするところで、わたしは文月とルルスをつれてこの世界を後にした。
◇
「フィーニスちゃん、ひどいよ」
「寝たいんですけど」
「どうしてあんなことをしたのか、教えるまでは寝かせないからね」
わたしの世界。わたしのベッドの上で文月に怒られている。まあ、映画のクライマックスで、映画館から連れ出されたようなものだから、文月の気持ちも分かる。
無視して寝ても良いが、あの二人について教えても良いかと思い起きあがった。
「あの二人ですが世界に嫌われていまして、両思いになって数千年、くっつくことが出来なかったんですよ。だから世界を壊してわずかな時間でも一緒になりたかったんだと思いますよ」
「それは……長そうだね。うん、数千年ね、数千年」
「もうそろそろ万年にいきそうでしたが、どちらにしても人にしてみれば永遠みたいな時間ですよ」
「でも何で嫌われていたの?」
この辺の説明がとても難しい。
「あの世界ですが、人と魔族が永遠に争い続けるようにデザインされた世界なんですよ。強い力を持った人の王と魔族の王が生まれて、永久に繰り返される戦争……となるはずが、楽しいこと好きの神が転移者を三人つれてきて、とんでも能力を渡して、人の側に付かせました」
楽しいこと(婉曲表現)。うん。
「それで追い込まれていた人が魔族を大陸の半分に追いやったんですが、人と魔族が争わないように大陸を半分に分ける壁を作ってしまったんです」
「人と魔族が争えなくなって、世界がその目的を果たせなくなったんだね」
「だから世界――と管理をしていた亜神――は、転移者が大っ嫌いになりまして、ついでに新しく魔族の王になった赤い目の方が人と争わないと決めてしまいました。本当は人を殺したくなる衝動に支配されるはずなのに、それにあらがっていたわけです。
で、二人は互いに愛し合うことが出来ずに、世界そのものを恨んでいきましたというわけです」
「大恋愛だね」
「そうですね」
本当は間に二人を排除しようと亜神が苦虫を噛み潰しながら、転生者を使って蟲毒紛いのことをしたり、そうして作り上げた転生者に裏切られて黒いのに亜神が消滅させられたりとかあったのだけど、説明しなくて良いか。
世界の存続よりも世界のルールを強行手段を執っても優先させるなんて、本当に混沌さんが作った世界なんだなと感心する。
「そんな世界だったわけですが、実はあのままいけば寿命を全うしていたでしょうね」
「そうなの!?」
「そうなるようにあの二人が管理していましたから。少しでも二人で一緒にいられるように。自分たちで世界を破壊できるようになるまでは……ってことらしいです」
「んー、すごいね」
「すごいですね。そんな二人の最期を覗くのもどうよと思ったので、一足先に帰ってきました」
「まー……仕方ないか」
「それでは、おやすみなさい」
「じゃあね。おやすみ」





