決戦前夜~魔王城下の森の夜~
カリッ、カリッ、カリッ。
ナイフで小器用に鉛筆を尖らせる。こんな事もいつの間に出来るようになっていた。
今日も俺は日記をつけている。そのためには芯をちゃんと尖らせなければならない。日記なんてものも、小学生の頃は嫌々書かされていた。それが今では書かなければならない焦燥に囚われている。特に明日には最後の戦いを控えている。下手をしたら俺の人生は明日で終わる。常に命の危険と向かい合う日々の中、俺は日記を付けることで何かから逃げようとしているのだろうか。
もし明日という日が……いや、もう止そう。俺たちはやると決めたんだ。その為にずっと準備をしてきた。沢山の犠牲も払ってきた。省吾、健太、美咲、真由美……今日を迎えることが出来なかったクラスメイト達だ。皆良いやつ等だった。死んだ仲間のために俺達は明日を生き残らなければならない。そして、それぞれの遺品を、やつ等の親に渡す。それも皆で決めた事。
もし、俺が死んでも生き残った仲間がきっとこの日記を俺の母親に届けてくれるだろう。たったそれだけの事が、前に一歩踏み出す勇気となる。そうやって俺達は心を支えあい、死線を潜り抜けてきた。誇り高き戦友たちだ。
ん? 隣のテントから剣を研ぐ音が聞こえる。そうか、颯太も寝付けないのだろうな。次の蝕を逃せば、送還の儀を行うのにまた二年近く待たないといけなくなる。それはもう無理だろう。そろそろ皆精神的に限界だ。特に瑠華は……もうとっくに限界を超えている。明日も無茶しなければ良いのだが。
削り終わった鉛筆で大学ノートに書き綴る。このノートも後2ページ残るのみだ。
――召喚されてから613日目 とうとう魔王の居城は目の前だ。明日ついに城へ乗り込む。大丈夫。大丈夫。大丈夫。必ず俺達はやり遂げる。やり残したことはもう無い。出来ることは全てやってきた。母さん、俺は絶対に帰るから。
……母さん、か。俺も少しナーバスになっているな。そんな事を日記に書くのも久しぶりだ。だがまあ良いだろう。そういう気持ちを残しておくのも意味があるかもしれない。
俺の見張り当番の時間まで、きっちりと寝よう。寝不足のまま魔王と戦うなんてナンセンスだ。寝れるときには速やかに寝る。これもこの世界で身に着けた習性だ。
明日は絶対に勝つ。なんとしてもこのクソッタレの世界から帰るために。