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chapter3-1 第一村人

 強敵と戦った後だからか、反射的に武器を構えてしまう。

 振り返った先には、一人のドワーフが居た。髭で分かりにくいが、それなりに歳をとっている様子が皮膚のしわから見てとれる。

 勝気な眉と立派な髭はいかにもドワーフらしい。だが、立派な髭は手入れされずボロボロ、装飾品の類もない。体毛に覆われた奥に覗く瞳は、猜疑心をありありと浮かべている。

 警戒されていることは分かったが、私の胸には喜びがあふれていた。

 ようやく人に出会え、しかもそれが自分の選んだ種族と同じドワーフだ。仮にNPCだろうと関係ない。消去法気味に決めたとはいえ、やはり嬉しいものは嬉しいのだ。

 私はすぐさま双剣を腰に佩きなおすと、ドワーフの住人へと両手を広げて敵意がないことをアピールした。


「私はアドルフ、あなたと同じドワーフだ。同族よ、あなたはここの住人か?」


 できる限り穏やかに訊ねてみたものの、警戒心が薄れる様子はない。

 しばらく彼と目を合わせて待ってみると、ようやく口を開いた。


「なんの用だ」


 やっと聞けた他人の声は、あまりにも素っ気ないものだった。それでも、喜ばしい限りである。

 私は朗らかに笑った。


「道が分からず、森の分け目に沿って進んだらこの場所にたどり着いた。途中で大きな狼と戦い、疲れている。休む場所を貸して欲しい」


 なるべく簡潔に話すと、どこに反応したのだろう、ドワーフは眉根を寄せ懐疑的にこちらを見た。


「ガルムと戦っただと?」

「ガルム? それは私の身長より少し大きい立派な狼だろうか?」

「……ああ」


 そうか、あの狼はガルムというのか。 確か、北欧神話に登場する冥界の番犬だったか。

 そんな名前をしているということはやはりというべきか、恐らく普通のモンスターではなかったのだろう。本当に、よく勝てたと思う。


「なら、戦った。立派な体をした、凄まじい強さの狼だった。勝てたのは幸運だった」


 証拠を見せた方がいいだろうかと、腰のポーチからガルムのドロップアイテムを見せる。

 私が手にしている大きな爪を見て、彼は少しの間考えるように顎鬚を撫でると、


「好きにしろ」


 と不愛想に呟いて、家の中へと戻って行ってしまった。

 とりあえず許可は下りたようなので、ほっと胸を撫でおろす。やはりこの村の管理は彼がしているのだろう。まだ確認していないが、見た感じでは他に住人は居ないように思えた。

 貴重な現地民(NPC)である。大事にしなければ。

 まあ、ファーストインプレッションは恐らく悪くないだろう。ガルムというモンスターを倒したことが、強さとしてどれほどのことなのかは分からないが、これ以上警戒させないためにも彼と交流を深めるのはゆっくりがいいように思う。

 とはいえ。


「次は名前を伺いたいね」


 呼び名も分からないのでは、声をかけ辛くてしょうがない。 肩をすくめ、今日の寝床を探した。

 ドワーフの男性の家から少し離れた場所を探索していると、小さめの平屋を見つける。

 中を覗くと、手入れのされた家屋は思ったより頑丈そうで、塵などもそれほど目立たなかった。寝床と思わしき場所には古い寝藁が敷かれている。

 正直、粗末と言える。だがまあ、ゲーム的にはここで眠ったところでダニに喰われるわけでもない。質はあまり関係ないか。

 そういえば、このゲームはリスポーンなどの関係上、宿などで眠った場合その町が拠点に設定される。拠点を移したい場合は次の町にたどり着いた上で、必ず宿屋などに泊まらなければならないのだ。

 それで言うと、この廃坑村は既に捨てられて村として機能していないわけだが、拠点として利用できるのだろうか?

 さっさと寝てしまうのが手っ取り早いわけだが、もしも拠点設定されなかったら、私はしばらくこのゲームとちゃんと向き合えないかもしれない。

 それほどにショックを受けるだろう。

 まあ、信じるしかないのだが。


「睡眠がてら、ログアウトして休憩だな」


 私は寝藁の上に体を投げ出した。

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