chapter2-3 決着
本日二話目。
戦闘描写が続いたので短め。
敵が右足を前にして踏み込む。それはもう見たよ。真っすぐ突っ込んでくるんだろう。
サイドステップで避けながら、次に備えて体を回す。
着地の時両足を揃えたら高確率で首を振って急転回。した。右足は前。また突っ込んでくるか。
体が正面を向けていない、サイドステップは無理。バックステップで回避する。
また両足で着地、急転回。右足前。二度転回して飛び込んでくる時は隙ができる。
避けて、振り返る。着地、硬直、今。
相手の体へ飛び込むようにして、左右の短剣を突き込んだ。両手を下へ広げるように切り開いて、バックステップで距離をとる。
赤いエフェクトが舞い、敵が初めて苦しそうな悲鳴を上げた。ダメージを与えていると確信する。
再び距離をとって対峙し、一息吐いた。
もうどれくらいこんなやり取りを繰り返しただろう。流石にゲームなので肉体的な疲労はないが、ずっと集中し続けて精神的に疲れてきた。
まあ、モンスターハンティングの一狩り五十分に比べたらまだマシだが。
とはいえ、よかったこともある。ずっと回避をし続けた結果、最初と比べ明らかに避ける動きがスムーズになってきているのだ。
表示されないとはいえスキルはあるらしく、特定の動作などで発動するらしい。同じ動きを繰り返しているとスキルを獲得できるのかどうかは不明だが、なんらかの補正がかかっていることは体感として間違いないだろう。
ステータスやスキルの補正は好ましくないと思っていたが、今は素直にありがたい。なければ多分もう死んでいる。
距離をとっている狼が、じりじりと距離を詰めてきた。その目つきから疲労の色が窺えることに驚きを隠せない。どこまでリアルなんだ。
右足前、また突っ込んでくるか。着地を両前足、振り返って、また右足前。避けて、両足揃えて振り返り、右――いや、左足が前!
初めて見る動作に、咄嗟に斜め後ろへ跳ぶ。先ほどまで私が居た場所を右足の爪で引っ掻く動作、そして追いすがるように噛みつき。
引っ掻きからの噛みつき!
ここへ来て初めての攻撃に、警戒していなければやられていたかもしれない事実に冷や汗が出る思いだ。今まで通りサイドステップで避けていたら、噛みつき攻撃は食らっていただろう。
だが、二度の急転回からの攻撃。お前が硬直することは知っているぞ。
ここで終わらせる。
伸びきった首へ双剣を揃えて振り下ろす。硬直の解けていない相手へ、縦に回転するように連続で切り上げ、最後に両手で突き込んだ。
モンスターハンティングでの動きを踏襲しただけだが、見事に決まった。
狼の頭ががくりと落ちる。赤いダメージエフェクトがすぐには消えず、首の辺りで漂っていた。
今までとは違う様子に終わりを予感させた、その時。
伸ばしたままの腕へ向かって、狼の頭が跳ね上げられた。鋭い牙の並んだ顎を大きく広げ、迫る。
スローモーションでそれを見ていた。腕は顎の中へ納まり、その牙の刃を振り下ろせば易々と突き刺さるだろう。
とった行動はバックステップだった。牙が突き刺さるその瞬間、滑るように――まるですり抜けるように、腕を抜き出せた。
ほとんど反射的に空いている方の剣で、相手の喉へ突き刺す。
それが止めとなったのだろう、狼はもんどりうって倒れ込み、そしてそのまま起き上がることはなかった。
しばらくそれを、呼吸も荒く呆然と眺め。
「ああ、しんどい……」
気が抜けてその場に座り込んだ。
うずくまるように体を丸めながら小さく、しかし渾身の力で、ガッツポーズをした。
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