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chapter2-2 初めての戦闘

VRジャンルの日間ランキングに乗ることが出来ました。

嬉しかったので、本日は二話投稿致します。


 大小様々な岩が点在する隘路を進む。 左右に森が迫っているものの呑まれることなく、天然の道がのたくう蛇のようにうねりながら続いていた。昔は川でも流れていたのだろうか?

 マップを確認したがこの道は表示されず、森の一部ということになっている。

 しばらく悪路を進むと次第に岩は姿を消し、平らかな道へと変わっていった。

 すると。


「おや?」


 視界の先、代り映えのしない道に異物を発見した。通路上に大型の狼がいるのだ。遠目からなのでおおよそだが、体高は私の身長と同じかやや大きいくらいのように見える。骨太の足がすっと伸び、立派な尾を垂らしている。

 ゲーム開始からようやくモンスターと遭遇した。

 ベータテスターからはゲームの正式稼働までの間に様々な情報が流れている。もちろんゲームの根幹に触れるようなものはなかったが、敵の種類などには触れられていた。

 敵の種類には二種類あって、プレイヤーへ積極的に攻撃をしかけてくるアクティブタイプと、プレイヤーに無害、あるいは攻撃を受けるまで襲ってこないというノンアクティブが存在しているらしい。

 ノンアクティブタイプはまあ、そもそも積極的に攻撃をしてくるわけではないので問題はないのだが、アクティブタイプはそうもいかない。

 アクティブモンスターは視界に入ったら襲ってくるものと、一定の範囲に侵入したら攻撃してくるものがいるらしいのだが。


「ノンアクティブ……ではなさそうだなあ」


 こちらに気がついてはいるが襲い掛かってこないので、このまま素通りさせてくれればいいなとは思う。 正直いきなりの戦闘が狼というのは気が進まなかった。

 狼とは本来群れで行動する生き物である。ネコ科の動物と違って、イヌ科の生き物は単体での狩りの能力はそれほど高くないからだ。

 つまり。


「仲間を呼ばれたらそこまでか」


 気後れするのは仕方がない。こっちは一人で、しかもまだ戦闘経験がないのだから。

 とはいえ、このまま逃げたところでどうせどこかのタイミングで戦わなければいけないのだ。


「よく考えたら、群れに囲まれるのは慣れていたな」


 モンスターハンティングでは、大型のモンスター以外にも小型で群れを作るモンスターは存在した。群れにボスがいる場合延々と子分を呼び寄せられ、ボスを討伐するまで沸き続けるという、鬱陶しいことこの上ないモンスターだ。

 この狼もその類である可能性がある。

 経験を生かそう。まずは常に動き続け相手の癖を覚える。隙を見つけたら、少しずつ体力を削り、怯んだり弱ったら一気にダメージを稼ぐ。もし仲間を呼ばれたら、その時はその時だ。可能な限りパターンの把握に努めよう。もし死亡しても、近くの町で復活できるかもしれないし。

 よし、それでいこう。


 腰から双剣を引き抜き、恐らく範囲エンカウントだろう敵へじりじりと近づいていった。

 こちらをじっと見つめて動かない狼は、ある一歩を踏み出した瞬間猛烈に唸り始めた。尻尾を下げ腰を落とし、牙をむき出しにして威嚇している。

 それでも前進をやめない。

 先に我慢出来なくなったのは敵だった。

 全身のバネを生かし、驚異的なスピードで一直線にこちらへ向かって駆けてくる。

 モンスターハンティングは第三者目線で、ゲート・オブ・バスティアンは主観だ。自分の目線で戦うのは初めてだった。


 そうか、主観だとこんなに迫力があるものか。


 冷静に考えながら、迫る狼から回避運動を始める。

 慣れたタイミングで横へ転がると、突風のように通りすぎる敵を感じながら即座に立ち上がった。

 この辺りはモンスターハンティングで慣れ親しんだ動きだが、自分の体で実践するのはやはり勝手が違う。再び相手へ正眼に構える。狼もすでに体制を立て直していた。


 次への動きが素早いな。隙が少なさそうだ。

 警戒度を一つ上げ、腰を落として相手から視線を外さない。

 よく見ろ、必ず予備動作と癖があるはずだ。


「落ち着け、落ち着け」


 自分へ言い聞かせるように言葉にして、緊張で荒れそうになる呼吸を整える。

 オーソドックスに構えるこちらの左へ回り込むように動く敵を、常に正面で捉えるようにこちらも動きなおす。

 狼が突然動きを速めた。こちらの背後を取ろうと駆けている。

 即座に正面を合わせようと体を回す――次の瞬間、首を逆側へ向けたかと思うと急転回した。

 まずい! 体が間に合わない!

 俊敏な動きで右側へ回ろうとする狼を、なんとか半身だけで捉える。体制が崩れていることを自覚しながら。

 だが、私は確かに見た。


 ――敵は向きを変える時、確かに。


 こちらの対応がギリギリ間に合おうかというその時。 相手は両前足で大地を踏みしめ、そこから更に逆へ首を振り。


 ――確かに、首を転回する方へ向けていた。


 ほとんど咄嗟だった。

 右斜め前へ飛び込むように前転する。

 ゴウ、と風切り音。

 しゃがみ姿勢のまま無我夢中で体を捻り、こちらを通りすぎたであろう敵を捕らえた。

 相手はまだこちらを振り向けていない。最初に避けた時とは違う、明確な隙だった。

 一瞬の空白の後、敵が再び向き直る。

 非常に俊敏で狡猾。咄嗟の判断も早い。

 まだすべての動作に慣れきっていない初戦でやる相手では、間違いなくない。モンスターハンティングというゲームを、やり込みにやり込んでやり込み続けた経験がなければ、絶対に対応などできていなかった。

 小回りの利くドワーフという種族を選んでなくても無理だっただろう。

 複合した要素をフルに活用して、なんとかかんとか、やっとのことでできたことは〝ただ攻撃を避けただけ〟。

 だが、それでも、確実に。


「お前の癖を見たぞ」


 回避も攻撃も所詮タイミングだ。 丸裸にしてしまえば、対処できない敵はいない。

 ――まずは、癖二つだ。


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