chapter5-9 直近の目標
メンテナンスのことを忘れていて、昨日の投稿が出来ませんでした。
すみませんでした。
「転移屋というのがアップデートで追加されるらしいが、ベータでもあったのか?」
「ありましたよ! 行ったことある場所にしか飛べないんですけど、フレンドや他のプレイヤーにお金を払ったりすれば、一緒に連れて行ってくれたりもしましたね」
「便利そうだが、私の居る村は廃坑村でね。もしかしたら、転移屋は来てくれないかもしれないんだ」
その言葉に有村は首を傾げると、バッグからスマートフォンを取り出した。
何やら操作をしていると思えば、私に画面を見せてきた。
「マップです。どの辺りか分かりますか?」
彼女の見せてきたマップは、地形などのすべてが揃った状態のものだった。
私が驚いた表情をしていたのだろう、有村は得意気に胸を張った。
「ベータ特典です」
羨ましい限りである。
私のマップは初期スポーンから村周辺までで、他は灰色だった。こうして色鮮やかな地図を見ると、涙が溢れそうだ。
この機会にと、マップをじっくりと眺める。
私の居る場所は大陸の右下、東から南へかけて斜めにそびえる山脈沿いのようだ。ゲーハスの話と照らし合わせても、この辺り一帯にドワーフの国があったのだろう。
中央から西がヒューマンの支配域で、範囲が一番広いようだ。北の雪と氷に覆われている場所はドラコニアン。こちらは二番目に大きい。東にはやや小さくフェアリー、半島を中心に支配域が広がり、南東は山脈の向こう側一帯がエルフの領域のようである。
獣人はといえば、中央付近に点在しており、エルフ以外の全ての領域と重なっていた。獣人は最も種類の多い種族だったので、特定の地域に留まらず動き回っている獣人が居るのかもしれない。
廃坑村があるのはヒューマンと獣人の領域が重なった、ちょうど真ん中の辺りに位置していた。
山脈から大陸中央部へ迫り出すように広がった森の奥。私のプレイしていた記憶と合致していた。
そのことを有村に伝えると、彼女は顎に指をあててしばらく考えた様子を見せた後、ぽつりとつぶやく。
「……行けますね」
「お、本当か?」
有村は真剣な表情で頷いた。
「私が居るのはドラコニアン領域の聖都コッシュラン、その南の村です」
彼女はマップを指さす。
中央へ食い込むヒューマンの領域にほど近い場所にある村のようだ。
「ここから」
有村は指を南へと動かしていく。
「ヒューマンの王都リンゼルウルを経由して、獣人領域の境目にある村ポーア、その更に南を覆うコアンの森を抜ける。そうすると多分、最短ルートで辿りつけるかと思います」
彼女が指で辿ったルートは、最寄りのヒューマンの村をいくつか飛ばして、一見回り道をしているように見える。そのことを訊ねると、
「あ、その辺り、他種族への差別が激しい地域なので」
と返ってきた。
そんなものまであるとは……凄まじいまでの作り込みである。
有村が決然と顔を上げた。愛らしい大きな瞳が、私燃えてます! と訴えかけてくるのを感じた。
「新村課長、今居る村から離れちゃ嫌ですよ。絶対すぐ行きますから。絶対一緒にやりましょうね!」「分かった。私も協力者が欲しいと思ってたんだ」
何せ、今のところほとんどソロプレイだからね。
それを聞いて、有村はぬっふっふといやらしく笑うと、
「よーし! そうと決まれば、善は急げ! 私は帰って速攻課長の居る村を目指します!」
「まあ、あまり無茶はしないように」
「いえ、します! それでは、お先に失礼します!」
有村はスキップするような足取りで去っていった。
買い物に来ただろうに、手ぶらで帰ってしまったけれど、いいのだろうか? ……まあ、部下の自主性は重んじるべきだろう。
なんだか急かしたようで申し訳ない気もするが、手伝ってくれる人が居ると大変助かるのも事実だ。
ここは、ゲート・オブ・バスティアン長者の有村に頼ろうか。
私もこれからすべきことが明確になった。
彼女が村へたどり着く前に、なんとかフレーム回避を習得しておこう。
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