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chapter5-1 必要最大限のもの

 さて、何はともあれ準備である。

 現状足りないものだらけで、何を用意すればいいのかすら分からない状態だ。

 正直なところ、ロックドラゴンを倒そうだなんて考えてもいない。それは無理だ。私自身もそうだが、圧倒的に戦力が足りない。

 しかし、グランドクエスト(モンスターハンティングで言うところのメインクエストか?)を進めるにあたって、サブクエストというのは絶対にあるはずだ。例えば、道中の邪魔なモンスターを一定数討伐する、だとか。

 そうした細々したものをこなしていけば、何かしら攻略の糸口が見えてくるかもしれない。

 まずは情報からだ。


「ゲーハス。まず聞きたいのは、あなたは何が出来るのか、ということなのだが」


 マンパワーの不足は個人の力量で解決するしかない。

 小規模企業が少人数の精鋭(聞こえは良いが効率の悪いマルチタスクを求められる)で仕事を回しているのと同じだ。

 何が出来るのか把握せずに仕事を押し付けるのでは、ブラック企業の二の舞か。

 ……まあ、少人数の会社でブラックではないところを探す方が難しいが。

 ゲーハスは困ったように頭を掻いた。


「俺はドワーフだが、戦闘は出来ねえ。それは悪ぃと思ってる」


 正直、それを一番期待していたのだが、出来ないものをとやかく言っても仕方がない。

 続きを促した。


「鍛冶は出来るが、武器や防具は作れねえ。作れても鈍らだ。簡単な道具や日用品なら作れるが、なんにしろ炉がねえから作れん」


 ううーん。これはいよいよ以て厳しい。

 出来れば採掘した鉱石で、何かしら武器の更新か強化をお願いしたかったが……。

 いや、待てよ。


「簡単な道具は作れるのか?」

「ああ」

「なら、採掘道具はどうだ?」


 剣や鎧と違って、鉄杭と鉄槌は単純だ。乱暴な言い方をすれば、ただの鉄の塊と棒なのだから。

 ゲーハスはゆっくりと頷いた。


「それくらいなら作れる。だが炉がなければ」

「これでなんとかできないか」


 ありったけの鉱石をテーブルへぶちまけた。

 用途の分からないものを持っていても仕方がない。もし利用できるものがあるのなら、如何様にもしてもらって構わない。

 ゲーハスは困ったように髭を撫でた。


「本当なら溶かすなりしなきゃなんねえが……粉末を泥に混ぜるなりなんなり、まあ、出来ん事はない」「ならやってくれ。後、あなたの職業を教えてくれ」

「建造師と、調合士だ。だから炉は、完全じゃないができるだろうし、補強となる混ぜもんくらいなら……」


 私は思わずゲーハスへ詰め寄った。

 話の最中に突然襲い掛かられた彼は、びくりと体を震わせているが、今はそれどころではない。

 私は彼の肩を掴んで揺さぶった。


「体力を回復させられるものは作れるか!?」

「あ、ああ。簡単なものなら」

「他には!」


 こちらの勢いに押されて、いつもは不遜な態度のゲーハスが、明らかに押されている。


「き、傷薬と身体活性剤。坑道で必要なら、材料を集めれば暗視薬……」

「でかした! ゲーハス、あなたは偉い!」


 私は渾身の力でガッツポーズをする。もしかしたらガルム戦の勝利よりも喜んでいるかもしれない。

 このゲームにおいて、彼の挙げた道具がどれほどの効果を持つかは不明だ。だが、どんなものも無いより有ったほうが断然良いに決まっている。

 今までは傷の回復に見込みがなかったので、とにかくダメージを受けない立ち回りをしていた。それはそもそも、モンスターハンティングでの立ち回りなので、それについてどうこうという思いはないが、なにしろ検証が出来ない。


 私が気になっているのは、ガルム戦で起きた滑るような回避だ。

 明らかに、私の腕はあの大顎の中にすっぽりと納まっていた。少々後ろに下がったところで、到底回避できるものではない。相手もこちらへ向かってきているのだから。

 なので私は、この疑問を解決するため、ずっと検証したいと思っていたのだ。

 もしかしたらこのゲーム、フレーム回避が可能なのではないだろうか? と。


「ゲーハス、炉の製作は時間の合間で構わない。まずは、今挙げた道具の作成に全力を掛けてくれ」

「いや、まあ、そりゃあ構わないが……そんなにか?」

「そんなにだ」


 最重要目標と言っても過言ではないんだよ。

 あるのとないのじゃ大違い。

 ああ、なんだかワクワクしてきたなあ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーハスはオーソドックスに武具を作る職人かと思いきや調薬担当なんですね まぁ一人で廃村にいるんじゃ武器とか作る機会ないだろうし、そもそも炉がないですからねぇ 優先度的には武器より回復薬とかが…
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