chapter4-3 グランバリウス
クエストが開始されると、彼は訥々と話し始めた。
彼の話は確かに長かったので、要約するとこうなる。
国を持たないドワーフは各地を放浪していたが、それをまとめ上げた人物が山脈一帯を領地とする国を作った。
山脈の麓を囲むように村が出来て、それぞれ坑道を掘って採れた鉱石を製錬し、それを加工するなどして販売し生計を立てていた。
しかし、無秩序に坑道を伸ばしているうちに、全ての坑道が繋がってしまった。
それでも坑道を広げ続けるドワーフたちだったが、ある時巨岩で出来た卵を掘り当てた。
割って中身を見てみようとしたドワーフたち、あの手この手でなんとか割ることに成功。
中からは全身岩で覆われたドラゴンが生まれた。ロックドラゴンと名付けられたそれは、体から次々と岩製モンスターを生み出し、瞬く間に坑道を埋め尽くした。
抵抗空しく坑道から追い出されたドワーフたちは、入り口全てを崩落・封鎖して、モンスターの溢れる山脈地帯から逃げるように、再び流浪の民となった。
というお話だ。
率直な感想としては、自業自得な上に傍迷惑な、といったところか。
坑道が繋がってしまったことは仕方がないこととはいえ、全部繋がってしまう前に対策出来なかったのかとか、なんでよく分りもしないものを好奇心で割ってしまうのかとか、言いたいことはいくつもあるが。
何より、何故逃げるのか。国を持つという意識が低い種族だったのだろうか?
「その後ドワーフはどうなったんだ?」
「さあな。各地に散ったから、細かくは知らん。戦うか鍛冶をするか採掘するか、どうせ今までと変わらんだろう」
ゲーハスはどこか投げやりに答えた。
ううーん、聞けば聞くほど破天荒というか、自由人というか。
なんにしろ、現状は理解した。
とはいえ気になるのは、
「ゲーハスは何故未だにこの村を保持しているんだ?」
「…………」
その問に、むっつりとした沈黙が返ってくる。
彼の悪い癖というか、答えにくいことだったり迷っていたりするとき、不機嫌そうに黙り込んでしまうところがあるようだ。
こうなると、次に口を開くのに時間がかかるんだよなあ。
と思っているところにアナウンス音が鳴る。
《クエスト:廃坑村の成り立ち、を達成しました》
このタイミングでクリアということは、これ以上の話は聞けないということだろうか。
片手落ちというかなんというか、消化不良の感が否めない。
まあとにかく初クエストが達成出来たのは喜ばしいことだ。
報酬はあるのだろうか? 金銭ではないとしても、やはり何かしらのアイテムは欲しいところだが。
ホーム画面からアイテム一覧を開くが、素材やアイテムが詰まっているだけで目新しいアイテムは追加されていない。
思わず首を捻り、もしかして無報酬のクエストなんだろうか、と考えていると。
「俺は国が無くなってから生まれた」
おもむろにゲーハスが語り始めた。
クエストは終わっているようだが、もしかして続きを聞かせてくれるのか?
「じじいや親父から、ドワーフの国がどういうところだったかを聞かされて育った。華も何もねえ、採掘と鍛冶の日々。作ったものを職人気どりで高値で売ったり、エルフをおちょくったりしている毎日だったらしい、糞みてえな生活の日々だ」
ドワーフらしいといえばドワーフらしいのだろう。私のイメージしていたそれと、なんらかけ離れたものではない。 まあ、ろくでもない部分がないでもないが。
「憧れなんざ持ったこともない。アホどもがアホなことして、去り際までアホだった国のことなんざ知ったことか。だが……」
言い淀んで言葉を止めたゲーハスは、何かに迷っているように視線を彷徨わせた。
そして次に言葉を開いたとき、彼は真っすぐに私を見た。
「親父が言っていた。ドワーフ王がまた現れたら、なにをやっていても国を興すのを手伝えってな」
一呼吸の後、彼は言った。
「ドワーフを最初にまとめ上げた者、ドワーフ王の士族名は、グランバリウスだ」
一瞬の空白。
疑問を抱く間もなく。
ぽーん、とシステムメッセージを告げる音。
猛烈に嫌な予感が過った辺り、私の危機察知能力はこのゲームによって鍛えられているのだろう。
メッセージボードには、新たなクエストが発注されていた。
《グランドクエスト:ドワーフの国を再建せよ、が発生しました》
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