chapter4-2 クエスト
土曜日まで毎日投稿します。
少し短めが続くと思います。
拗ねたおじさんほど厄介なものはない。
なまじ経験を得てる分、誤魔化そうとしても、
「言い訳か?」
と一言で切って捨ててくる。
別の話へうまく誘導しようとしても、あ、こいつ誘導しようとしてやがる、という顔をする。
そして更に拗ねる。
お手上げだ。若い部下の手綱もうまく引けていないというのに、おじさんドワーフの取り扱いなど出来るはずもない。
最終的に、シンプルに一言、
「すまん」
と言った。
ゲーハスはしばらく無言で睨んできたが、最終的には鼻を鳴らして、顎で椅子への着席を促してくる。
なんとか許しを得れたようだ。
私が何故ゲームで同性の同世代ドワーフのご機嫌取りをしなければならないのかは、考えてはいけないことだ。
機嫌を直したゲーハスは、鉱石やゴーレムについて多く質問をしてきた。
それに一つずつ答えていき、入手した鉱石すべてを見せる。いくつかのものに唸りながら頷いていたが、やはりというべきか、ゴーレムの鉱石には強く反応しているようだった。
「これをどうやって手に入れた」
「採掘道具で戦って体から掘り出した」
ゲーハスは呆れた様子でため息を吐いた。
「何を考えりゃ、そんなもんでモンスターに立ち向かえるのか分からねえ」
「鉱石なら鉄杭と鉄槌が一番だろうと思って」
体が岩だったことだし。
それを聞いて、ゲーハスはもう何も言わなかった。
しばらくむっつりと黙り込んだままゴーレムの核を眺めていた彼だったが、
「もう一度聞く、ゴーレムは浅い場所に出たんだな」
「ああ。最初の分岐点を右に進み、次の分岐点で集団で現れた」
私の答えに、ゲーハスはどこか諦めたようにため息をついて頭を振った。
「……いよいよ駄目か」
「何か問題だったのか?」
彼はその問に答えなかった。
正直、これ以上のことを聞くことは躊躇われた。
私はこのゲームを初めて日が浅い上に、恐らくだが真っ当なルートを辿っていない。なにせ、事前に得た知識と現状が違いすぎるものだから、私だけ別のゲームをやっているのではないかと思い始めていたくらいだ。
出会ったNPCは彼だけだし、プレイヤーとすら遭遇していないのだ。情報交換が出来ないし、何が正解なのかも分からない。
そんな知識不足の状態で、迂闊に踏み込んで何か失敗をしたとして、それを取り返せる自信は私にはなかった。
そもそもMMOというジャンルが初めてだというのに。誰かセオリーを教えてくれないだろうか。
考え出すと段々と気分が沈み込んできた。
沈黙が部屋を満たす中、ゲーハスがおもむろに口を開いた。
「話すと長くなる。聞くか?」
まさか彼が話す気になるとは。
逡巡し、私が返事を考えていると、ぽーん、とメッセージ。
《クエスト:廃坑村の成り立ち 聞く 聞かない》
まさかの初クエストが発生した。
これが討伐か採取クエストなら、私は喜び勇んで受注していたに違いない。
それなら慣れているし、なにより楽しそうだ。
だが、こういったゲームのクエストとなると、途端に尻込みしてしまう。知識がないからだ。
しばらくどうしようかと頭を悩ませていたが、私は意を決した。
何事も、初めてというものは誰しもに訪れる。それをいつまでも先延ばしにすることは、やって失敗することよりも後々負担がデカいものだ。
私はゲーハスの目をしっかりと見返して、頷いた。
「聞こう」
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