chapter4-1 報・連・相は重要
投稿再開します。
あらすじ下部に記載しておりますが、日曜・月曜は投稿お休みします。
次回投稿は11月17日(火)になります。
ログアウトする時に、ログアウト中の時間経過調整を等速にしてから落ちたのだが、本当に時間が調整されるのか不安ではあった。
何せ理屈が分からないものだから、そういうものと思っていても、やはり疑いの目を向けたくなってしまうものである。
どうやらそれは杞憂だったようだが。
現実でしっかり八時間睡眠をとり、朝食も摂ってログインすると、ゲーム内でも早朝だった。
昨晩は坑道から戻ってきたのも遅かったし、対集団戦に疲弊していたのもあってゲーハスに挨拶も言わずにさっさと寝てしまった。ログインしたら真っ先にやらなければいけないのは無事帰還できたことを告げることだろう。
そういえば、称号などについてはまだ情報が出てこなかった。ゲーム内の掲示板にはもしかしたら知っている人間が居るのかもしれないが、世界観を壊してしまうようで、いまいち使う気にならない。
どうしても知りたいというわけでもないし、分からなければ分からないでもいいというくらいだ。
まあ、機会があれば、利用することもあるだろうが。
実績に関しては情報があって、ゲームに関わることはほとんどないらしい。表彰状みたいなもので、あなたはこんなことをしましたね、という証明でしかないようだ。
それで補正を得られるということもないので、まあ個人的には一安心といったところではある。そういった部分で優遇されるのもあまり好きではないし、第一知られたときに角が立ちそうだ。
新しい情報をぼやぼやと思い起こしながら、ゲーハスの家へ向かった。
もしかしたらもう出掛けてしまっているかと思ったが、まだ居るようだ。中から人の気配がするので、昨日と同じように戸を叩いて声をかける。
「ゲーハス、アドルフだ。戻ったぞ」
しばらく無言が続き、閂の外される音がする。
少しだけ開いた扉の内側から、不機嫌そうな顔がのぞいた。デジャヴを感じる。
このドワーフはこの表情がデフォルトなのかと思ったが、どうやら今度は本当に不機嫌らしい。睨みつけるようにこちらを見ると、一言も発しないまま中へと引っ込んでしまった。
思わず頬が引きつった。
なんだこの、夜遊びがバレたような緊張感は。
扉は閉めていかなかったので入ってもいいと解釈し、私はそろそろと室内へ入った。
ゲーハスはテーブルに腰かけてこちらをじっと見つめている。一言も発さず顎鬚を弄るわけでもなく、ただじっと無言でこちらを見ているだけだ。
だというのに、凄まじいプレッシャーである。
私は、まるで浮気の言い訳のように、慌てながら昨日のことを話した。
ゲーハスはそれを黙って聞いている。
二個目の分岐点でゴーレムの集団に囲まれたという辺りで、ピクリと反応があったのを確認。ここで押し切るしかない。
「正直これはやられると思った。ゴーレムは遅いが体幅がある。来た道へ逃げる隙間はなかった。暗がりだったのでどれほど時間が経っていたかは分からなかったが、相当逃げまどっていたと思う。ようやく隙を見つけて、採掘道具で削り倒した。その時にこの鉱石をゴーレムの体から掘り出した」
ポーチから暗褐色の鉱石を取り出すと、テーブルへ乗せる。
ゲーハスもドワーフだ、鉱石の話になれば乗ってくるはず……!
彼は確かに興味を持っていた。鉱石をちらりと見る。眉が持ち上がる。しかしそれだけだった。
ゲーハスは鉱石を手に取ることすらせず、再び無言で見つめてくる。
冷や汗が垂れた気がした。
ゴーレム戦と同じ、いやそれ以上の絶望感だ。
蛇に睨まれたカエルのごとく、口が動く気がしない。
どれほどそうしていただろうか、不意にゲーハスが口を開いた。
「なんで戻ってすぐに連絡を寄こさなかった」
「……へ?」
あまりに予想外で間抜けな声が出た。
てっきり、そんなに奥まで進むんじゃねえ、とか、坑道を甘く見るんじゃねえ、とかそういった叱責が飛んでくるのかと思っていたのに。
「いや、それは」
「人の領域にずけずけ入り込んできたと思ったらこれだ。さっさとくたばっちまえば良かったんだ」
ゲーハスがぷいっと横を向く。
毛だらけでその横顔からは表情を窺い知ることはできなかった、が。
これは、あれか。もしかすると、あれなのだろうか。
――ツンデレ、というやつでは?
おじさんドワーフがおじさんドワーフにツンデレを受けているこの図は、果たして傍から見たらどんな光景として映るのだろう。
いや、その、だから。
なんだこの……なんというか……なんだこれは?
私の中から、しばらく戸惑いが消えることはなかった。
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