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chapter3-6 斜め上の使い方

 一体ずつ削り落とす。

 やることは決まっても、それをすぐ実践できるわけではない。まずは相手の機動力を奪わなければいけなかった。

 そのために、まずはこちらの動き方を変えなければいけない。今までは相手の背面へ避けその後ろのスペースへ逃げようとしていたが、それをやっていては結局いたちごっこだ。

 例え被弾の可能性が上がろうと、ぎりぎりを見越して避けて一体ずつ削っていく。

 大丈夫。相手の癖はもう覚えた。後はそれに合わせて動いていくだけ。


「それが難しいんだけど、ね!」


 先頭のゴーレムの攻撃を右にずれることで躱す。左の四体は攻撃を外したゴーレムが邪魔で追撃できない。右の一体が左足を前にした。壁に沿うように振られた腕をしゃがみこんで避けると、その脇を飛び込んで背後へ抜ける。すぐさま振り返ると、まだ腕を振るったままだ。

 ここだ。

 いきなり反応のある個所は攻撃できない。それは追撃のリスクが高すぎる。まずは足だ。

 ゴーレムの左足へ裏拳のように杭を打つと、勢いそのままに右手の鉄槌を叩きつける。

 硬質な音を響かせ、岩の体が欠けてがくりと姿勢が崩れた。杭を打ち込んだ足の付け根がぐらついているのを確認し、再び距離をとる。


 ゴーレム達は再びこちらを包囲しようとするが、一体は足を引きずってそれに追いつけていなかった。

 できればここで動けないようにしたがったが、まずは一体。この調子でどんどん行こう。

 なるべく列の外側をとるように体を移動させる。

 一番外側から一個手前に攻撃させれば、外側の一体が狙いやすい。その形を継続していこう。

 気をつけなければいけないのは負傷したゴーレムだ。動きが鈍くなったとはいってもまだ追いすがってはくる。その動きだけは頭に入れておかないと。


 一体に攻撃させ、外側へ躱す。一番外側にいる一体の追撃を更に回避して、再び足の付け根へ一撃。今度は一回で削り落とすことに成功した。片足の外れたゴーレムが、体を横たえ藻掻いている。

 幸運なことに、このゴーレムが障害となって追撃のテンポが緩くなる。その隙に一番手前の一体へ正面から近づくと、わざと攻撃させた。打ち下ろしの攻撃は空振りし、下で藻掻くゴーレムを打ち据える。右肩が丸見えだ。その付け根へ再び杭と槌を打ち据える。

 肩から先を失ったゴーレムが、バランスを崩して倒れていた一体の上に覆いかぶさってジタバタしていた。

 チャンスだ。今のうちに残りも削ろう。


 ゴーレムの山を避けるようにサイドから回り込む一体の外側をとり、攻撃を誘発させる。そのギリギリをしゃがみこみで躱すと、思惑通りに動いてくれたその腰へ杭を打ち込む。流石に一度では削りきれなかったので、振り返ったその正面から、更にもう一撃打ち込んでバックステップで距離をとった。

 なお追いすがろうとするが、体が真っ二つに折れていることを今更気が付いたように、ゆっくり上半身が崩れ落ちていく。


 ここまでくれば後は単純作業だ。避けて削り、また避けて砕き落とす。

 ゴーレムの集団との遭遇から逃げ続け、ようやく勝利が見えてきた。

 後は完全に攻撃能力を奪ってから、反応のある場所を穿つだけ。

 勝ちが見えた時こそ慎重に。何が起こるか分からない、それがモンスターをハントするということだ。

 地べたを這いずるゴーレム達の腕や足を穿ち、離れる。うまく切り離したらそのまま続けず、次を攻撃。それを繰り返す。


 幾分も経たず、胴体だけとなったゴーレム六体が転がっていた。

 最後の一体が身動きをとれなくなったのを確認してから、ようやく緊張を解くことができた。ホッと一息吐くと、膝から力が抜けてその場に座り込みそうになる。それを抑えるように太ももを叩いて、なんとか最後の処理をするために動き出した。


 正直、負けていてもおかしくなかった。一つミスをしていたら、それですべてが崩壊していただろう。それほどまでに綱渡りな一戦だった。

 一対多数とはこういうことなのだ。ゴーレムの動きが鈍かったから成立しただけで、これがガルムのような素早いモンスターだったなら、きっとあっという間にやられていたはずだ。

 幸運……とは言えないが、勝利に感謝しつつ、うつ伏せのまま動かないゴーレムの背中へ鉄杭を打ち込む。

 数度目の打撃の後、ゴーレムの背中が割れた。その中には淡く光る暗褐色の鉱石が埋まっている。

 杭を宛がい優しく小突くと、ごろりと外れた。途端、ゴーレムの体がサラサラと音を立てて崩れていく。


 手に入れた鉱石をしげしげと眺めた。

 この鉱石が、ゴーレムの核となる部分なのだろう。鉱石にゴーレムを作り出す力があるのか、ゴーレムがこの鉱石を作り出すのかは定かではないが、これを失うと存在できなくなるのは確かなようだ。

 暗く光る塊をポーチへ放り込むと、残りのゴーレムからも同じように鉱石を取り出す。

 そして最後のゴーレムから核となる鉱石を奪い取ると。

 ぽーん、というアナウンス音。

 まさかモンスターを討伐するたびに現れるわけじゃなかろうな、と思いながらメッセージボードを見た。



《レベルアップしました》

《実績:一対多数を無傷で勝利、を達成しました》

《実績:ソロで多くのモンスターを屠る、を達成しました》

《実績:武器以外で勝利、を達成しました》


《称号:穿つもの、を獲得しました》(アドルフ・グランバリウス)

《称号:堅牢崩し、を獲得しました》(アドルフ・グランバリウス)



 ガルムの時と同じようなメッセージだった。

 そういえば、実績や称号について調べるのを忘れていた。

 次にログアウトする時には、色違いの称号、後名前の表示などについても調べておこう。

 とにかく、今回は疲れた。やはり軽い気持ちで初めての場所を探索などするものじゃないな。

 坑道についてもう少しゲーハスから話を聞いて、準備を整えたら次はもう少し奥へ進んでみよう。

 見たこともない鉱石が採掘できるかもしれないからな!

 私はウキウキしながら、真っ暗な坑道を手探りで戻っていく。

 途中、分岐点で方向が全く分からなくなったが、目印に立てた石積みを蹴躓いてようやく帰り道を発見できた。

 這う這うの体で外へとたどり着いたとき、坑道内と変わらないほど暗くなっていたのは、まあご愛敬ということで。

 流石に今日はここまでにしよう。

 歳を取ると、夜更かしがダイレクトで体の不調に繋がるんだ……。

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